四話
まさかの日間ランキングに載ることが出来ました!(5月20日現在58位)
本当に、この拙い小説を温かい目で読んでくれている皆様のお陰です!
これからもこの勢いのままガンガン更新していくので、ブックマークも出来ればよろしくお願いします。
綾香に告白された翌日の三限と四限の十分休憩の最中、俺は当然のようにクラスで人に揉まれていた。
「ねえねえ三条君! 綾香ちゃんに告白されたのって本当だったんだね!」
「おい三条どういうことだあ!」
「いやいや、待ってくれよ、俺みたいなクソ陰キャがあの学園のアイドルの茅野綾香から告白なんてされると思うか!?」
「んー、昨日までは結構半信半疑だったけど、今日の朝綾香ちゃんに聞いてみたらすっごい笑顔で『フラれちゃったけどね!』って言ってたから」
「か、茅野の奴……」
告白だけならまだしもフラれたことまで明け透けに言ってしまうとは。
「三条! お前は今日から男子生徒全員の共通の敵だァ!」
これからこういうやつも徐々に増えていくんだろうな……。
「はぁ……」
これからが思いやられ思わずため息を吐く。
「おいコラ、茅野さんに告白されておいて溜息とは何事だ!」
主にお前らのことに悩んで溜息を吐いたんだわ、アホ!
でも結局問題の根幹は綾香なので一概には否定出来ない。
「なあ、そこのー、えっと……」
「あ、私? 同じクラスでもう半年も経ったって言うのに名前覚えてくれてないなんて」
「いや、それはほんとにごめん。優馬以外とはあんまり関わって来なかったからさ」
不満そうに頬を膨らませている女生徒に謝罪する。
でも言い訳させてくれ。こんなことが無ければ金輪際お前と関わることが無かったはずなんだ。
「そっか、春日君といつも一緒にいるもんね。しょうがない、今回は春日君に免じて許してあげる。私の名前は田中愛! ちゃんと覚えててよね」
「おっけ、田中。もう忘れないよ」
「それで? 何か私に聞きたいことあったんじゃなかった?」
愛に言われさっき聞こうと思っていたことを思い出す。
「この噂ってさ、どこまで広まってる?」
「この噂って、綾香ちゃんと三条君の? 結構広まっちゃってると思うよー、だって学園で三本の指に入る美人さんだからね。私たちの学年は全員知っていると言っても過言じゃないし、一年と三年ももう広まりつつあるんじゃないかなー?」
「そっか……」
事態は思いの外深刻らしい、ステージ3。
「まあまあ人の噂も七十五日って言うし! あんまり重く受け止めない方が身のためなんじゃない?」
田中はあっけらかんとした態度で言う。
しかし俺からしたら、
「七十五日も耐えられる気はしない……」
七十五日の前に俺の命が干からびるな、まだセミになった方が長生きできる気がする。
『三条コノヤロー!』とうるさいセミの声を聞きながら現実逃避するように窓の外に視線をやるのだった。
そしてやってきました昼休み! 俺はいち早く弁当を片手に席を離れる。
押し寄せる同級生という名の荒波を掻き分けて教室を脱出し、小走りで昼飯をありつける場所を彷徨い始めた。
しかし校舎裏、中庭、運動場にはどこも生徒がいて安寧の地はどこにもなく、もう諦めて今日も昼を抜こうかと本気で考え始めた時。
一つ可能性のある場所を思い出した。
「あいつに頼ったみたいなのが凄い癪だけど。背に腹は代えられない」
俺は昨日ぶりの旧校舎に足を延ばしたのだった。
「やっぱりここは人が来ないんだな」
昨日と違い、一人で来たことによる罪悪感は強いが昼ごはんの為だからしょうがない。
何度も来る優馬からの連絡にはすべて既読無視を決め込んでいるし、俺の居場所がバレることは無いだろう。
「アイツのことだ、俺を売ってもおかしくない」
一年生の頃から騒がしいとか楽しいとか、とにかくお祭り騒ぎが大好きな優馬だ。
今は親友でさえ信用できないってことだ。自分に言い聞かせながら俺は昨日と同じクラスのドアを開く。
案の定そこには誰もおらず、もしかしたらと予想していた綾香もいなかったのでやっとのこと腰を落ち着けて昼飯にありついた。
「やはり弁当でも雀の作る飯は美味しいな」
独り言を呟きながら唐揚げを頬張る。
静寂に包まれた教室の中で、遠くから聞こえる生徒の談笑をBGMに昼飯。
うん、なかなかいい。
「ここは本当に安息の地かもな」
一人で感傷的な気分に浸りながらお茶を飲んでいると、入口の方から『ギギギ……』とドアを開ける音が聞こえた。
「マズイ! 誰かが入って来たのか!?」
食べかけの弁当を急いで片付けると、足音はもうこの教室のすぐ傍まで来ていた。
咄嗟に近くにあった机と椅子の間に身を潜め謎の足音をやり過ごそうとする。
この教室に入ってきませんように……!
必死で神頼みするがそれも虚しくゆっくり教室のドアが開かれていく。
クッソ! 昨日は誰も来なかったって言うのに、旧校舎に来るなんて不届きもの一体どこのどいつだ!
あとで教師にチクってやろうと入り口の人影を見やると、そこに立っていたのは、
「おかしいな、確かにこの教室で物音が聞こえたと思ったんだが」
腰まである艶やかな黒髪に、氷のように鋭い目つきと体温を感じさせない白く透き通った肌、汗ばむ陽気にも拘らず一切制服を着崩さない、泣く子も黙る圧倒的オーラを放つ、『学園の女王』氷堂つらら。その人であった。
でも何で生徒会長がこんなところに!?
校則には書かれていないけど旧校舎に入るのは暗黙の了解で禁止されてることは知っているはずだ、じゃなきゃこんなところに人が入ってくるわけ……いや、一人ばかり例外がいたが、あのお花畑は数に入れてはいけない。
え、俺? だって不可抗力だからね! 俺は何とかこの七十五日生き残って見せる!
隙間から生徒会長こと氷堂つららを見ていると、俺はとあることに気付いた。
あの生徒会の腕章! あれは生徒会委員が校内の見回りをするときに着用が義務付けられているものだ。
はぁ、相変わらず運が悪い。よりにもよって今日が生徒会の見回りの日だったとは……。
生徒会ではひと月に一度、生徒会委員での校内の見回りが行われていて、毎月ランダムで校内を徘徊する彼らの姿はまるで白い〇塔だ。
さらに校則違反を犯した生徒は放課後生徒会室に連行され異常な枚数の反省文を書かされる……。
まずい、これは絶対にバレてはならない! 俺はさながら忍者のように息を潜め、つららが教室を去るのを今か今かと待ちわびる。
「なんだ、気のせいだったか」
お! とうとう諦めて戻っていくのか、なら早くしてくれ。ずっとスニークしていたせいで腰が悲鳴を上げている。
うん、定期的に湿布張ったりタバコが吸いたくなる蛇の気持ち、ようやく分かったよ、できれば一生知りたくなかったけど。
「ならば人目を気にぜずアレができるな!」
おっと? 話の筋がズレていくぞ?
先程の冷たさを微塵も感じさせない笑顔のつららを見て、背中に嫌な汗が流れる。
これは戻らないパターンでは!?
「よし、久々に素を出すことができる。家ではどこで父や母に見られているか分からんし、街に出れば逆に視線を感じてアレに没頭することができないのだ。やはり木を隠すなら森の中! 学校が、いやこの旧校舎が私の安息の地だ!」
どうやら安息の地には先客がいたらしい……。
しかし、さっきから言っているアレって何なんだ? あんなに人目を気にするってことは人に見られたらそれなりに恥ずかしい趣味でも持ってるのだろうか。
リコーダーを舐めるとかじゃないといいけど……。
不安げにつららを見ていると不意に大声でこんなことを叫んだ。
「へーんしーん!」
「ブッ」
へ、へ、変身!? 危ない、驚きすぎて吹き出しそうになった。
どうやらつららは俺の声に気付かず変身続行中である。
ポケットから可愛らしい手鏡を取り出し、その場でくるくると回転しながら、
「悪の組織を倒す、正義の使者! プリティキュア、参上!」
俺の前にプリティキュアになり切った小学十二年生という惨状が参上した……。
ああ、こんなものを見てしまうなら罰覚悟で名乗り出るべきだった。これから生徒会長を直視できない。
しかし後悔はもう遅い。変身ポーズを小さな手鏡でいちいち確認しながら練習しているつららがいるから。
一瞬夢じゃないかと頬をつねったり目を擦ったりしたが悪夢は依然消えず。
結局、俺の前にいるのは生徒会長でありながら、その美貌から『学園の女王』とまで言われた完璧超人、氷堂つららであった。
そこから一人ヒーローショーを何分見ていただろうか、体感では一時間をゆうに超えて余りあるほどに精神的にきついショーだった。
しかし手元の時計で確認すれば次の授業まであと五分。もはやこのまま授業をサボるのではないかと思うほど楽しそうにプリティキュアのオープニングを歌ったり踊ったりしていたつららだったが、流石に生徒会長として授業をサボるわけにもいかず、ようやく戻るらしい。
「ふう、久々にここまで踊ったな! 楽しかった、楽しかった」
ハンカチで汗を拭きながら「早く来月にならないかな……」と言っていた辺り、どうやら彼女は毎月こうしてプリティキュアのモノマネをしているらしかった。
そしてそのまま踵を返し、教室の外に出ていくのを見てから、
「っはあ! きつかった!」
やっと閉鎖空間から解放された俺はおぼつかない足取りで教卓に寄りかかった。
「しかし今回は耐えたぞ、『主人公補正』を抑え込んでやった! 茅野のときみたいになったら本当に取り返しがつかないからな」
勝利に震えながら教卓に手をついて軽く一息つくと、手に何かが触れた。
何だと思い机の上を見るとそこに置いてあったのは、つららがさっきまで変身に使用していた手鏡で……。
「フー、危ない危ない。私としたことが教室に忘れ物をしてしまうなんて。こんな趣味がバレたら生徒会長の名折れだからな——————」
瞬間つららがフリーズする。
「あ、はは。どうもこんにちは……」
「きっ君は誰だ!」
「いやあ、誰かと言われましても、悪の組織の一員とでも言えばよいのでしょうか……」
「わわっ! 悪の組織ってまさか!」
明らかにつららの顔色が悪くなっていく。
「見た、のか」
あれ、おかしい。正義の使者からどす黒いオーラが溢れ出てるよ、やばいんじゃないの、これ。
「そ、そんなつもりじゃなかったんですぅぅぅ!」
「きゃああああ!」
つららの悲鳴と共に綺麗なフォームから繰り出したハイキックはスカートをはためかせながら俺の脳天を的確に蹴り飛ばした。
「ぶほえっ!」
そー言えば生徒会長って武道でも高段位者なんだっけ……。
揺らめく視界の中、今日もまた『主人公補正』に負けたことを実感しながら意識を手放したのだった。
因みに氷堂つららはブラックでした(何がとは言わない)。
また、作者はプリ〇ュアの知識はほぼゼロですので悪しからず……。
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