三話
毎日投稿続けていきたいDEATH(死相)。
旧校舎を出てポケットのスマホを出して時間を確認すると、昼休みはあと十分もない。
「はぁ、昼飯は我慢するしかないか……」
後ろを振り返ると綾香がトボトボと後ろをついてくるのが見える。
どうやら帰りは腕を引っ張るつもりはないらしい。
しかし、本当にどうしてこうなったのか。高校に入学して一年半、今まで『主人公補正』は上手いこと隠せていたはずだ、それが急に昨日になってぶり返し始め、昨日の今日で学園のマドンナである茅野綾香に告白まで……。
「はぁー……」
俺は大きい溜息を吐くと昨日と違いありえない程重たいドアをスライドして教室に入った。
するとその瞬間、
「おい、どうだったんだよ! あの茅野綾香との密会は!?」
「そうだそうだ、まさか告白されたんじゃないだろうなあ?」
「ちょっと男子どいてよ! ねえどうして綾香ちゃんは三条君を選んだの? どうして、三条君!?」
軽いお祭り騒ぎだった。
俺の周りには業務連絡以外では殆ど話したことのないクラスメイトが群がって来てその場に固定されてしまう。
「ってか俺に惚れた理由を俺に聞くんじゃねえよ!」
「えー、だって綾香ちゃんってちょっと近寄りがたいというか―――って! 惚れた理由を俺に聞くなってことは惚れたのは正解ってこと!? 三条君も隅に置けないねぇ、このこの」
「どういうことだ三条! 俺はお前をゆるさないぞぉぉぉ!」
思わぬ失言をしたせいで俺を中心に人口密度はさらに上がる。
くっ、苦しい。マジで息が出来なくて死にそうだ……。
咄嗟に後ろのドアを全開にして廊下に逃げることを選択。
しかし俺をドアに押し付けるように集まっていたクラスメイトに廊下に思い切り押し出され丁度廊下を歩いていた女子生徒に背中をぶつけてしまった。
「キャッ!」
「痛ってぇ……」
ぶつかった女子生徒はどうやらしりもちをついたようで「ごめん、大丈夫か!?」と手を差し伸べようと後ろを振り向く。
するとそこにいたのは―――。
「……茅野かよ」
「ちょっと! その反応はおかしいって!」
綾香とはもう関わりあうつもりは無かったが、今回は俺が悪い。
仕方なしに手を差し出す。
「大丈夫か?」
「王子様……?」
綾香は相変わらず馬鹿なことを言っている。
「なんでだ!」
「なんだー、そんなに心配なら手を取ってあげなくても――」
「元気そうだな、早く教室に戻れ」
「うそうそうそ! 嘘だから! めっちゃお尻が痛い! 痛いから助けてぇ!」
「嘘つくな! っていうか絶対痛くないだろ、お前」
「いたいよ! 痛い! 三条君に無碍にされたことによって心がとても痛い!」
「必死な顔して何を言ってるんだ、茅野……」
呆れた顔で綾香を見下ろす。
「はうっ! そんな顔しないでよ、三条君! あ、でもこういう視線もいいかもしれない……」
「やめろ変な性癖目覚めさせんな!」
お前はもう既に取り返しのつかないところまで行っているんだから!
このままだと綾香のペースに呑まれてリコーダーのことや告白されたことまで口を突いて出るかもしれない。
そう思い俺は茅野の腕をつかみ強引に引き上げた。
しかし、後ろで俺たちのやり取りを見物しているクラスメイトに、『これ以上ボロを出してたまるか』と無理やり引き上げた綾香の身体は思いの外軽く、急に起こされた綾香の足には力が全然入っていなくて……。
「あっ」
「え?」
立ち上がった綾香の身体は俺に体重を預ける形で腕の中に綺麗に収まっていたのだった。
瞬間後ろの外野が各々叫びだす。
「俺の茅野に何してくれとんじゃあ!」
「きゃあ! 三条君って意外と大胆なのね!」
「フム、流石燕。女の扱いに慣れてるな?」
おい最後の奴。絶対優馬だろ、女の扱いに慣れてるってなんだ! まだ童貞だわ!
「うぅ、苦しい……」
腕の中から可愛らしい声が聞こえる。どうやら優馬への怒りで思わず腕に力が入ってしまったようだ。
俺は咄嗟に綾香を離す。
「す、すまん。苦しかったよな」
俺の腕から解放された綾香は顔を隠すように俯きながら、
「三条君、こういうのは段階を踏むべきで……」
ぶっ飛んだことを言いやがった。
「お前にだけは言われたくねえ!」
結局綾香をクラスに戻した後も俺と綾香への質問は授業に開始を告げるチャイムが鳴るまで続き、すっかり体力を奪われた俺は五限の授業中爆睡する羽目になったのだった。
綾香がむしろ嬉しそうに食い気味に質問に答えていたのは目の錯覚だろう、きっと。
放課後、久々に優馬と下校する。
普段バスケ部で忙しくしているので一緒に帰れることはなかなか無い。
「燕、お前大胆過ぎだって」
「誰が! っていうかお前クラスは任せろって言ってたじゃねーか、なのになんだよあの暴動は!?」
「まあ口には出してないからセーフってことには……」
「ならない」
「いやあ悪い! 流石にあの茅野さんに関係する話、しかも告白とあれば流石の俺も収めることは出来なかったわ。それに俺、女子には結構話通るけど男子はそこまでだからなあ」
優馬はその眉目秀麗な見た目と話しかけやすい、いい意味で軽いキャラで女子の評判は良く、それに比べ逆に男子からの評判はは普通。一部優馬を嫉妬する男子からは嫌われていたりもするのだ。
「努力はしたんだろうな?」
「ハハハ」
「おい!」
「いや、俺勝ち目の無い勝負って挑まない性質だから―――痛い!」
ムカついたので横っ腹を軽く殴っておく。
「ったくお前は。しかしどうすればいいんだ……」
「茅野さんのことか?」
「それもそうだし、能力も」
「うーん、能力についてはよく分かんないけど、茅野さんに関しては名案がある」
「マジ?」
「まじまじ! 大マジだって。だからそんな冷たい目で見るの止めて」
冷たい目になってしまうのは仕方がない。だってこいつには前科があるのだ。
「まあいいや、とりあえず言って見てくれよ」
「別に言ってもいいけど……。殴るなよ?」
「お前そんなやばいこと言おうとしてるのか。もういいよ、自分で考えるから」
「悪い悪い! でも名案っていうのは本当なんだよ!」
「ま、期待しないでおくわ」
「燕君ひっどい。んで名案っていうのはな?」
意味の分からないボケを挟みつつ、優馬は一方的に俺に肩を組んでこう言った。
「『付き合っちゃえばいいんじゃね?』ってあほなんかアイツはぁ!」
自室のベッドの上で叫んだ。
「ちょっとでも優馬に期待した俺が悪かった」
勿論優馬のことは殴らせてもらった。
でも実際問題、どうするべきか。綾香のことは勿論、『主人公補正』に関しても問題は山積みである。
これから毎日のように綾香のことでクラスメイトから質問攻めにされる未来が予想できる。
恐らく綾香も何かしら仕掛けてくるはずだ。
「『絶対諦めない』らしいからな……」
俺はどうすればいいんだろうか。
暫く悩んでいるとキッチンから美味しそうな匂いが漂ってくる。
「取り敢えず可愛い妹が作った晩飯でも食べるか……って」
いつの間にか部屋のドアを開けて立ち尽くす雀。おそらく晩御飯へ呼びに来てくれたのだろう。
しかし心なしかいつもより顔が赤い気がするのは気のせいだろうか。
「なんだ、俺の部屋来てたなら言えよ」
「……お兄ちゃん私のこと可愛いって……」
今にも消え入りそうな声で何か呟く雀。
「何か言ったか、雀」
「……お兄ちゃんの」
「お兄ちゃんの?」
「お兄ちゃんの、ばかぁー!」
すると雀は急に大声で叫び、勢いよくドアを閉めて自室に籠ってしまった。
「おいおい何だってんだよ……」
一人部屋に残された俺は天を仰ぐことしかできなかった。
評価、ブックマークありがとうございます。
途轍もないモチベーションに繋がっております。
それはもうオフィスで美人で、おっぱい大きくて、おしりも大きくて、ウエストはキュッとしまっていて、黒髪で、ショートカットで肩幅は広くも無く狭くもn―――(以下略)な女上司に「最近よく頑張ってるわね、筧君。ご褒美に今度飲みに行きましょうか」
って言われるよりも高まっております。
また、稚拙な文章ですので誤字脱字があれば引き続き指摘していただけるとありがたいです。