~エルグランドでの攻防~
この話しから新しい章となります。
魔界にてマオ達が帰路に就いた頃、エルグランドでは魔族との戦闘が始まろうとしていた。その時をただ、静かに遠眼鏡で見守る初老のエルフ。ミドだ。戦場が一望できるように高台に据えた陣地から遠眼鏡にて戦場を見渡している。その後方に控えるように立つ2人の女性と1人の男性。3人はミドに話しかけるタイミングを見計らっているように見える。
『パパ、久しぶり…。』
そう言って、一歩前に出て挨拶をしたのはエルだ。なんだかぎこちない。
『…うむ…元気そうだな…。』
『…うん…』
エルだけでなく、ミドもなんだかぎこちない。まぁ、駆け落ちした娘が十数年ぶりに帰郷したのだ。無理もない。
『…それでね…パパ…あの時はごめんなさい…。』
『もう良い…良いのだ。こうして元気な顔が見れたのだ…何も言うまい…。』
ミドがなんとも言えない優しい表情を見せる。それを見て、エルから笑みがこぼれる。
『フフッ…パパありがとう。それでね…改めてなんだけど…紹介するね。』
急にモジモジしだすエル。それまでエルの後方に控えていたアークが一歩前に出る。
『お久しぶりです。エルグランド王…魔王討伐の旅以来ですかね?』
アークはエルと違い、ぎこちなさは感じられない。むしろ砕けた感じだ。
『…久しぶりだな…。勇者よ。』
エルの時とは違い、声量を落とすミド。なにやらトゲトゲしく感じる。
『…今まで挨拶にも伺わず申し訳ありませんでした。』
『…フン‼️まぁ、良い…。そんな事よりもその子は?誰じゃ?』
ミドの声の先にはマオと同じ歳位の少女がいる。リリスだ。リリスは身体をビクッとし、エルとアークの顔を交互に見る。エルとアーク、2人とも気まずそうな顔をしている。
『…えぇっと…』
『…この子は…その…』
2人共言い淀む。その様子を見てか、リリスが一歩前に出て、挨拶をする。
『…はじめまして王様。私はマッカイ村村長の娘リリム。よろしくお願いします。』
リリスは、魔族ということ隠すつもりらしく、ミドにマッカイ村で暮らしている時の名前で挨拶をした。だが…
『…魔族なのに人間の娘なのか?』
『‼️‼️‼️』
ミドの放った言葉に3人が驚く。
『なにを驚いておる?』
『…よくわかりましたね。』
『フン‼️伊達に人々の上に立っとらん‼️』
『…失礼致しました。では、改めて…魔族のリリスと申します。よろしくお願いします。』
リリスが先ほどよりも丁寧に挨拶をする。動きは先ほどと同じなのだが、雰囲気がそう感じる。ミドがリリスを睨むように見る。場に重苦しい空気が流れる。
『…えっとね…この子はその…』
その空気に耐えきれず、エルが口を開く。
『そう‼️マオの友達でとっても良い子なの‼️』
『マオちゃんの?』
『そうなの‼️マッカイ村のお友達なの‼️』
マオの名前を聞いた途端、表情が弛むミド。だが、それも一瞬、また睨むような険しい表情に戻る。
『…それで?魔族がここになんのようで来た?あの連中と同じでここを侵略しに来たのか?』
ミドが戦場の方を指を指す。
『…いえ、そのような事は…ただ、マオちゃんを迎えに来ただけです。』
『フン‼️どうだかな…』
『ところで…マオちゃんは?』
リリスの放ったその一言に今度はミドが身体をビクつかせる。
『…えっと…その…』
しどろもどろになり、目をキョロキョロと泳がせるミド。
『…パパ?マオは?』
問い詰めるように語気を強めるエル。
『…ちょっとお出かけしてる…。』
『どこに?』
『……かい…』
『え?どこ?』
『魔界‼️』
『魔界⁉️』
3人が示し会わせたように同じ言葉を口にする。
『なんでそんなとこに…』
『ちょっとパパ‼️どういうこと?』
『…なんか用事があるとか…ないとか…儂にもわからん…とにかくマオちゃんが行ってみたいと駄々をこねてな…。』
アーク夫妻の責め立てるような口振りに、先ほどとは違いまごつくミド。
(…マオちゃん、魔界の方は上手くいったかしら…。)
リリスの心配をよそに、エルの糾弾は続く。
『…マ、マオちゃんの事なら大丈夫じゃ‼️アルもついて行ってるし…そ、それにここにこんなにも魔族が集まっておる‼️おそらく魔界の方はそんなに魔族が残っとらん‼️ここよりは安全なはずじゃ‼️』
『そんな事わからないじゃない‼️』
『だ、大丈夫じゃ‼️アルがついておる‼️』
『マオに何かあったら…』
『まぁ、アルさんが付いて行ってるなら大丈夫なんじゃないかな?あの人は賢いし腕は立つし…』
アークが見かねたのか仲裁に入る。ミドが安堵の表情を見せる。
『…まぁ、その話しはまた後程…』
リリスがそう言い、話を終わらせ、ミドから自然な流れで手に持つ遠眼鏡をとる。そのまま戦場を一望する。
『…そうですね。確かに王様が言うように、ここには魔族の大部分の戦力が集まっているようですね。』
『そうなの?リリスちゃん。』
アークがリリスに尋ねる。
『…はい。ざっと見渡した限りですが…』
『魔王は?』
『それらしき姿は見えないですね。』
『どうしますか?お義父さん?』
アークがミドに尋ねる。
『貴様に父と呼ばれる筋合いは…』
『…パパ、その話しもまた後で…』
『…お前達がくるまではダラダラと小競合いを繰り返すだけだったんだがな…お前達がこちらに来るという一報がもたらされてからは、何故か魔族が急にヤル気を出してな…。』
ミドがリリスを一瞥する。おそらく、リリスがスパイかなんかだと思っているのだろう。その視線に気付きリリスが答える。
『あぁ、それなら多分アークさんがいるからですよ。』
『僕がいるから?』
『はい。魔族にとってはそれだけ勇者というのは特別なのです。特にアークさんは…歴代最強とまで言われ、他の追随を許さなかった先代魔王様を倒した方ですからね。倒して名を上げたい魔族は腐るほどいると思いますよ。』
『そ、そうなんだ…』
アークが生唾を飲む。
『では、どうしますか?』
アークがミドに尋ねる。ミドはリリスの方を見る。
『…フム…リリスとやら…敵の兵力はどのくらいかわかるか?』
『申し訳ございません。そこまでは…私は先代魔王様が亡くなって直ぐに魔族を離れたので…。』
『そうか…せめて、軍勢を率いている将の強さ位はわからんか?』
『そうですね…』
リリスが思案する。
『ここからは仮定の話しになります。あくまで、私の推測です。よろしいですか?』
『良い。申してみよ。』
リリスが前置きをした上で話し始めた。
少しでもお楽しみいただけたなら幸いです。




