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~隣町にお使い~

明くる朝、いつもとかわらない時間に起きると、普段なら畑にいるはずのアークがいた。

「あれ?パパ今日はお仕事は?」

『今日からさっそくコンテストの準備をするらしいから、しばらく仕事はおやすみだな。』

「そうなんだ。じゃあなんか手伝える事があったら言ってね。」

『あぁ。よろしくね。』

そう言うとマオは新聞を片手に、お茶を持ち、デッキに出ていった。

(…なにか新しい情報はないかな…?)

『…エル?』

『なんですか?』

アークが台所に立っているエルに話しかける。

『マオはいつもあんな感じか?』

『あんなって?』

『いや、お茶を飲みながら新聞を読んでいるのか?』

『そうですね…そう言われれば、誰に言われたとかでもなく気がついたらあんな感じですね…。』

『そうか…。』

『どうかしましたか?』

『いや、オッサンくさいと思ってな。マオくらいの歳だとお茶を飲みながら新聞を読まないだろ?』

『そうですかね…?』

『せっかく可愛いのに…オッサンくさいなんて…』

『フフッ、でもそこがまた可愛いんでしょ?』

『まぁね。』

『そろそろ朝ご飯が出来るからマオを呼んで来てください。』

3人仲良く朝食をとっていると村長のイーサーがやって来た。

『ごめんくださーい‼』

『はーい‼』

エルが応対する。

『あなた、村長さんですよ。』

『おはようございます。』

『あぁ、おはよう。食事中に悪いな。』

『どうしたんです?』

『今日からさっそく会場を作るのを手伝ってもらうんだが…マオちゃんは今日は暇かな?』

『マオですか?』

『今日、マオちゃんにうちのリリムと一緒に隣街までコンテストのビラを配りに行って貰いたいんだが…頼めるかな?』

『ちょっと聞いてみます。』

『おーい、マオ‼』

「なぁに?パパ。」

『ご飯食べたら村長さんとこのリリムちゃんと一緒に隣街に行ってくれないか?コンテストの告知のビラを配って欲しいらしい。』

(…新聞も読み終わったし、なにか新しい情報が手に入るか?)

「いいよ。」

『村長、良いそうですよ。』

『それじゃご飯食べたらうちまで来てくれ。』

『わかりました。伝えておきます。』

『それじゃまたあとで。』

村長が帰り、アークが戻ってくる。

『マオ、リリムちゃんと仲良くな。』

「大丈夫だよ。」

『それと気をつけてな。』

「大丈夫だよ。パパ。」

『それと変な人には気を付けるんだよ。』

「…大丈夫だよ。パパ。」

『それと…』

「パパ、しつこい。」

(…まったく、そんなに心配しないでも…)

『パパはマオが心配で…マオは他の子よりも可愛いから…』

「…しつこいパパきらーい。」

朝食も食べ終わったので席を立ち、自分の部屋に向かう。

『…マオに嫌いって言われた…今日はもう頑張れない…』

『あなた…そろそろ子離れしないと…マオに本当に嫌われますよ…。』

自分の部屋にて外出用の服に着替える。

(…この服がいいかな…?しかし、いくら多少演技しているとはいえ段々と女の子みたいな考えになってきたな…)

支度を終え、村長の家に向かう。

「それじゃ行って来まーす。」

「マオ、気を付けるんだぞ‼」

マッカイ村は本当になにもなく、右を向いても、左を向いても畑だらけだ。隣の家との間隔も広く、家から家までは大体10分くらいかかる。

(…しかし戦争か…もし本当に起こるのならどことするんだ?それに戦争になったとして小娘の状態の儂に何が出来るんだ…力だけは無駄にあるんだが…)

そんな事を考えながら村長の家に着く。

「ごめんくださーい。村長、来ましたよ~‼」

玄関で騒ぐと、奥からイーサーが出てきた。

『おぉ、マオちゃん。いらっしゃい。今日はよろしくね。』

「はい。」

『おぉーい‼リリム‼マオちゃんが来たぞ‼』

『はぁーい‼』

声がしたと思うと奥から同い年くらいの可愛い女の子が出てくる。

『リリム、こちらマオちゃん。仲良くするんだぞ。』

『マオちゃんこんにちは。今日はよろしくね。』

「…うん、リリムちゃんよろしくね。」

(…どこかで見た事あるような…でも絶対初めて会うしな…なんだろ?)

「じゃあ、行こっか。」

『うん、お父さん行って来ます。』

『2人とも気をつけてね。』

村長の家を出て、隣街までの道を歩く。

『ねぇねぇ、マオちゃんのお父さんって魔王を倒した勇者なんでしょ?お母さんは僧侶で。』

「そうだよ。」

『凄いね。いいなぁ。』

「そうかな?リリムちゃんだってお父さん村長じゃん。」

『…うーん、でもお父さんは本当のお父さんじゃないし…』

(…やっぱり、気にしてるのか…すまないことをしてしまった…。)

「で、でも村長さんやさしいじゃん。」

『アークさんだってやさしいじゃん。』

「…うーん…やさしいんだけど最近しつこい。」

『え~、何がしつこいの?』

「なんて言うか…今日だって何回も気をつけろって言われて…もうそんなに子供じゃないのに…」

(…中身オッサンだしな…しかもその辺のやからよりは間違いなく強いしな…)

『あ~なんかわかる。うちのお父さんもそんな感じ。』

「どこも同じだね。」

雑談をしながら1時間ほど歩き続け、隣街へと到着する。

(…やっぱりマッカイ村と比べると、人も建物もいっぱいだな。前にアーク達に連れてきてもらった時よりも建物増えてるぽいし…)

『やっと着いた~。』

「疲れたね~。」

『少し休憩したらさっそく配ろっか。』

「うん。」

休憩をしながらビラを配る準備をしつつ、リリムの横顔を見る。

(…やっぱりどっかで見た事あるんだよな…でもこんな子、知り合いなわけないしなぁ…ましてや人間の知り合いなんて数えるくらいしかいないし…)

『じゃあ配ろっか。』

「うん。」

通り過ぎる人に、1枚、また1枚と手渡しで配っていく。老若男女問わず、配っていく。貰った人の反応もさまざまで興味深く見てくれる人もいれば、素っ気なく受け取る人や受け取らない人、じつにさまざまだ。どのくらいの枚数を配ったのだろうか、1人の兵士らしき物が近づいて来た。

『ちょっとごめんね、君たちかな?この辺でビラを配っているのは?』

「はい。」

『実はまわりからビラが辺りに散乱していると苦情が来てね。』

『えっ‼』

辺りを見渡すとビラが散乱している感じは見受けられない。

「どこにも落ちてないですけど…」

『この辺はね。でも路地裏とかもっと進んだ方に行くといっぱい落ちてるんだよ。』

奥の方を目を凝らして見てみると、確かになにかがヒラヒラ舞っているのが見てとれる。

「…確かになにかがヒラヒラしてますね。」

『そうだよ。だからビラを配るのはやめてくれないかな?それと今、落ちてるやつも掃除してくれる?』

「…え、でも…」

(…なんだか面倒な事になって来たぞ…)

『そもそも許可はとってあるのかな?それと責任者は?』

(…え、村長もしかして許可とってないの?)

『誰か大人はいないの?もしいないんだったら少し事情を聞かないといけないんだけど…。』

黙って兵士の話を聞いていた時だった。

『ちょっと待ってください。』

リリムが兵士に反論する。それと同時に耳打ちをしてきた。

『…ここは私に任せて。』

(…村長から許可書でも貰ってあるのか?)

『…兵士さんちょっとこちらに…』

そう言うとリリムが兵士を少し離れた場所に誘う。姿は見えるが何を話しているかは聞き取れないくらいの距離だ。

(…何をする気なんだ?)

2人の様子を見ているとリリムが何かしゃべっているようだ。兵士は黙って聞いている。

(…何かを見せている様子もない…あ⁉)

リリムからわずかながら魔力を感じる。兵士は相変わらず黙って聞いている。が、少し先程よりフラフラしている感じがする。

(…人間でも、かなりの手練てだれれでないと感知出来ないほど、微少の魔力だ…儂でないと見逃しちゃうね。)

リリムがしゃべり終わると、そのまま兵士は少しフラフラしながらどこかに去って行く。

(…あの微少の魔力、そして兵士の感じからして魅了チャームを使ったな…こいつ、魔族か…しかも魅了を使うとなるとサキュバスあたりか…。)

リリムが戻ってくる。

(…どこかで見た気がしたのは魔族だからか…だけどサキュバスに知り合いなんていたっけ?)

『事情を説明したらわかってくれたよ。』

「…あ、そうなんだ。」

(…白々(しらじら)しい…魅了なら格下の相手に対して身体的、精神的に、ある程度干渉かんしょう出来るからな。)

『でもちゃんと片付けだけはしていこうね。』

「うん。」

(…ほぅ…そのままにしとくことも出来るのに…なかなか感心なやつだな。)

2人で今度は落ちているビラを拾い集める。

(…魔族か…転生してから初めて会うな…こいつを仲間に出来れば色々と便利かもしれん…ただ、どうやって仲間にする?この姿だといくら元魔王と言ったところで信じてもらえまい…)

あらかた落ちているビラを拾い終わる。

『ふぅ、疲れたね~。』

「そうだね~配って、拾ってだからね~。」

『ちょっと何か飲もっか?』

「え、でも私、お金ない。」

『大丈夫‼パパからお小遣い貰ったから。2人でジュース飲もっ‼』

(…ナイス村長‼)

『じゃあ、私買って来るね。』

リリムがジュースを買いに行く。

(…さてどうするか…リリムを仲間にするとなると儂の事を打ち明けるのが先か…いや、先にリリムをどこで見たのかを思い出すのが先か…そうすれば儂の事も信じてくれるかもしれん。2人にしかわからない事でもあればそれを言えば信憑性しんぴょうせいもでるしな…)

リリムが手に2つジュースを持って戻ってくる。

『お待たせ‼』

「リリムちゃんありがとう。」

『どういたしまして。じゃあ飲もっか?』

「うん。」

リリムが隣に座り、ジュースを飲もうとした時だった。

(…この横顔は‼少し幼くなっているがCLUBサキュバスのリリスだ‼思い出した‼)

アムドと行った時の事を思い出す。

『美味しいね‼』

「うん。」

(…そうか…そういえばサキュバスとかは相手にあわせてある程度姿、形を変える事が出来るんだった…さすがはサキュバス‼薄い本が厚くなるわけだ…)

(…さて…ここからどう攻めるか…)

「もう持ってきたビラはだいたい配っちゃったかな?」

『そうだね。』

「じゃあジュース飲んだら帰る?」

『そうだね。あんまり遅くなってもパパ達が心配しちゃうしね。』

ジュースを飲み終え、ゴミを捨て、村への帰路きろにつく。しばらく歩き、人気のない道を歩く。

(…攻めるならここだな…)

「リリムちゃん、ちょっと聞きたい事があるんだけど…」

『ん?なぁに?』

「リリムちゃんって魔族だよね?」

『‼』

(あれこれ考えたがこれが1番だと思う。)

リリムの顔色が変わる。あきらかに動揺し、目が泳いでる。

「しかもサキュバスだよね?」

『…え、な、何言ってるの?マオちゃん。』

「さっき、兵士に魅了使ったよね?」

『え、え?ちょっと待って、何を根拠に…』

「微少の魔力を感じたんだ。」

『…た、たまたまかもしれないじゃない‼その時、誰かがまわりで魔法を使ったのかもしれないし…』

「まぁ、それだけじゃないけどね…。」

『…私は魔族じゃない‼サキュバスでもない‼いくらマオちゃんでもヒドイ‼』

(…まぁ、簡単には認めないよな…)

「私は別に責めてるわけじゃないし、何かをリリムちゃんにするわけでもないよ。まして、村長や他の人に言うわけでもないよ。」

『じゃあ、なんでそんなイジワルするの?せっかく友達になれたと思ったのに‼』

(…これで間違えてたとしたら…考えると胸が痛むな。だが、確信はある。)

「リリムちゃんは友達だから言うね。私も魔族、正確には元魔族。」

『‼』

「正体はまだ明かせないけど…」

『そんなの嘘よ‼だってマオちゃんのお父さんは勇者じゃない‼お母さんはエルフだし…』

「まぁ、色々とあってね。」

『…まさか、どちらかが浮気したの?』

(…そうじゃねぇよ‼)

段々と自宅が近づいてくる。

「もし、リリムちゃんがこの話しに興味があるなら今日の夜、みんなが寝た頃に訪ねて来て。リリムちゃんがサキュバスっていう理由と私の話をしてあげるから。」

『………。』

リリムは黙って聞いている。

「もう一度言っておくけど…私はリリムちゃんの事友達と思っているし何か危害を加えるわけでもないよ。それだけは信じて。」

『………。』

「それじゃ、また今夜。」

(…こういうのはあまりグイグイ言っても良くないしな…まぁ多少何かを知っているんだぞっていう思わせ振りな態度の方がいいだろ…仲間にしたいとは思うが…どうしてもっていうわけでもないしな…)

若干の後ろめたさみたいな、後ろ髪をひかれるような気持ちを感じながら自宅に着く。




~人物紹介~

リリム~ 村長の娘。正体は多分CLUBサキュバスのリリス。容姿、年齢ともにマオと同じくらいの感じ。

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