~神官カップコーン~後編
リリスの渾身の一撃によって部屋の壁が崩れ、室内に朝陽が射し込む。だが、カップコーンは微動だにしない。
『クックック。』
カップコーンが不気味に嗤う。
(…渾身の一撃を紙一重で避けられた…。)
『素晴らしいの一言に尽きます。まさか、城壁に穴をあけるなんて…いくら魔族と言えども、自身の身体1つでここまでの事ができる者はなかなかいないでしょう。』
「あら、お褒めに預かり光栄だわ。」
リリスが毛ほども思ってはいないことを口にする。
『丁度良い穴もあいた事ですし…そろそろ私からも行かせて頂きますよ‼』
(…何かくる⁉)
カップコーンの言葉を聞いて、思わず後ろに飛び退き、身構える。だが、カップコーンはそのまま後ろに仰向けに倒れこむように、リリスが開けた所から外へと落ちていった。
(…‼‼…)
一同、驚愕する。
『まさか…逃げたのか?それとも…自殺か?』
王子が思わず口にだす。
『そんなはずは…』
アークが半信半疑で答える。
「私が見に行きます。」
リリスが立候補し様子を見に行くようだ。
(…私なら不意討ちにも対応出来るし…頑丈だからね…)
その時だった。
…~ゴゴゴゴゴ~…
何かの音が聴こえてくる。それは地鳴りのような低い音で、大気を、空気を振動させるような音で聴こえてきた。
『な、なんだ⁉』
王子が狼狽える。一同、穴の方を注視する。
『何かくる⁉』
アークの声とともに、壁にあいた穴の下の方から、地上の方から何かがゆっくりと姿を現す。全形は分からないがそれは船のような形をしていた。
『な、なんだあれは…。』
『まさか…船?』
空を飛ぶはずのない船の出現に戸惑う。
(…船が空を飛ぶなんて…‼…)
その時、リリスが何かに気付き、いち速く穴から外へと飛び出す。
(…まずい‼砲身がこちらを向いている‼)
穴から外へと飛び出した次の瞬間、砲身から光り輝く何かが飛び出し、リリスへとむかう。それは一瞬の、不意を突かれた出来事だったがリリスは紙一重で身体を捻りかわす。
…~シュンッ~………………~ズドォォォン~…
光が遠くに見える山々に着弾し、土埃と火柱を巻き上げ、キノコ雲を形成する。
(な、なんて威力なの…こんなものを食らえば無事では…いいえ確実に死ぬ…)
巻き上げた粉塵が治まると、光が着弾した山々の形が、遠目で見ても分かるほど変わってしまっている。
『どうですか?この威力‼』
唖然とするリリスに大声でカップコーンが呼び掛ける。リリスが我に返り、声がする方を見る。そして、漸く何かの全形を知る。それはまさしく船であった。所々細かい部分は船と違い、中でも大きく違う所は風車のような物が下向きにいくつもついている所だ。だが、その他は概ね船と呼ぶに相応しい形をしていた。
(…なぜ?なぜ船が空を飛ぶの?それにあの大砲の威力…ただの砲弾では無いわ…)
疑問に思うリリスにカップコーンがまたも大声で呼び掛ける。
『魔族のお嬢さん‼よろしければどうぞこちらへ‼』
大声で呼び掛けるのが面倒なのか、それとも罠なのかは分からないが、カップコーンがリリスを自身の立つ船の甲板へと手招きする。
(…罠?でも…あんな威力の大砲を食らえばひとたまりも無いし…それにアークさん達があれに狙われたら…。)
リリスの思惑を測ったのかカップコーンが続ける。
『ご安心ください。罠等はございません。ただ貴女と少し話がしたいだけです‼』
(…コイツは狂ってはいるけど…今までの仕草や言動から少しはマシなはず。…それにあの大砲以外なら多分、私なら対処が出来る…。)
招かれるままに甲板へと降り立つリリス。
『お越しいただきありがとうございます。』
カップコーンが相変わらずの態度で礼を述べる。
「で?話ってなんなの?」
『この魔導船について少しお話をしたくてお招きしたのですが…どうですか?魔族の貴女から見て…。』
「どうって…?」
リリスが聞き返す。
『そうですねぇ…先ずは先程もお見せしたこの船の主砲《魔導砲》についてお聞きしましょうか?』
「どういう原理か知らないけど…とんでもない威力ね。」
リリスが正直な意見を述べる。
『そうでしょうとも。』
カップコーンは満足げだ。
『この魔導船は私があるとき、ふと、造り方を思い立ちましてね。それで造ったんですよ…。出来上がったのを見た時は心が震えました…。そしてその時思ったのですよ。これぞまさしく天啓…神の思し召しなのだと…。』
「ふーん…で?神様は何と仰ったのかしら?」
リリスが興味無さそうに聞き返す。
『この魔導船を使い、この世界を導けと…。』
「あら?そうなの?でも…それも出来なさそうよ?」
『なぜです?』
「私がいるから。私があんたと、そしてこの船を壊すから。」
『そうですか…出来るといいですね…。』
カップコーンが手をあげる。どこかに合図らしきものを送ったようだ。船がゆっくりと動き出す。
(…何?何をするの?)
身構えるリリス。船はその場を回頭し、やがて動きをとめる。船の主砲の直線上、遠くに戦場が見える。
「…何をする気?」
『先ほどは不意討ちのようなものでしたし…改めて、この魔導船の素晴らしさをお見せしようと思いましてね。』
「まさか…。」
『そうです。今度は人を使ってね…。』
またも手をあげ、合図を送る。主砲にエネルギーが集まる。
(…まずい‼あそこには沢山の人がいる‼)
「やめなさい‼」
リリスがカップコーンに飛びかかる。
…~ガキンッ‼~…
何か透明な壁のような物に阻まれ、カップコーンに一撃をいれることは叶わなかった。
「なっ‼」
カップコーンがニヤリと嗤う。
『…なんで私が貴女をここに呼んだと思っているのです?自分の安全が確保出来ているからですよ‼』
「なんなのこれは…?」
『魔族の貴女にも分かるように説明してあげましょう。そもそもこの船は魔力を動力として動いています。あの魔導砲もそうですけどね…。』
「それで?」
『貴女方、魔族もそうだと思いますが、我々人間達も魔力を持っています。ただ、それは非常に個体差が大きい。しかも我々人間は他の種族に比べて魔力の保有量が他の種族よりも少ないのです。ここまではお分かり頂けますか?』
「だからなんなの?」
『だからこの船には沢山の魔導士が乗っています。この魔導船の動力としてね。魔導船はそれら魔導士達の魔力を抽出し、集める事が出来ます。そして、魔導士達全員の魔力を一点に集め打ち出すのがこの魔導砲であり、先程も見た魔力障壁です。』
先程阻まれた透明な壁の正体は魔力によって作られた障壁だったようだ。
「だから~何だって言うのよ‼」
リリスはイライラしているようだ。
『…素晴らしいと思いませんか?1人の力は小さくとも皆が力をあわせれば何者よりも強力な力になる。この広い世界で1番弱い種族の人間が力をあわせて生きる。まさに神の教えではありませんか‼』
「その神様は虐殺しろと言ったの?その力を持って戦争を起こせと?」
『いいえ。ただ、この世界は神の教えを広め、導くには汚すぎる。私はあくまで、お掃除をしているだけですよ。……さて、そろそろ魔導砲に力も貯まったようです。御覧ください。これこそが神の裁きにして教えです‼』
「させないわ‼」
リリスは叫び、甲板目掛け渾身の一撃を放つ。
…~ガキンッ‼~…
(か、硬い…。)
『ハハハハハッ‼そんな事をしても無駄ですよ‼いかなる魔族でもこの魔導船の鋼鉄で出来た分厚い船体を壊すことは出来ません‼』
流石のリリスも隊長の薄い鉄で出来た鎧を割ることは出来ても魔導船を割ることは出来なかったようだ。
(…ど、どうしたら…)
『…では、御覧ください。』
カップコーンが合図を送る。途端、砲身から光が彼方の戦場へと延びてゆく。
…~ズドォォォン~…
戦場へと着弾し、火柱をあげるとともに、あとから轟音が追いかけてくる。巻き上げられた土埃が落ち着くとそこには大きな窪地が出来ており、沢山いたはずの人々がいなくなっている。回りには敵、味方関係なく蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑う人々が見える。
「ひ、ひどい…。」
『ハハハハハッ‼どうですかこの威力‼人間がゴミのようではありませんか‼』
「なぜ‼こんな酷い事を‼」
『なぜ?貴女も人に紛れて暮らしていたのなら分かるでしょ?ゴミは綺麗にしなくてはいけませんよ‼そう教わりませんでしたか?だが……これで確信しました。……どうやら私は神だったようです。』
「何を言っているの?」
『考えてみてください。これだけの多くの命をいとも容易く奪う事が出来る。そう、まるで天災のように…。天災を起こせるということは、それは最早、神しかいません。…思い返せば…この魔導船を思いついた時も天啓等ではなく私が考え付いただけだったのかも知れませんね…。』
「………。」
思わず息を呑むリリス。無理もない。カップコーンの様子から、先程まではわずかながらにしていた常人の雰囲気、気配がすっかり消え失せてしまったからだ。
(…もはや話が通じる相手ではない…。)
『…ブツブツ…。』
ひとしきり話すと、今度は独り言のように何かをブツブツと言い出すカップコーン。
(…今のうちに…)
素早く気付かれないように甲板から離れるリリス。
(…早くアークさん達の所に戻らないと…)
急ぎ、アーク達の所に戻るリリス。
「アークさん‼」
『リリスちゃん‼』
「急いでこの場を離れて‼そして戦場の皆を安全な場所に‼」
『安全な場所っていったいどこに?』
「どこでもいいから急いで‼」
『は、はいっ‼』
リリスのあまりの気迫に思わず返事をするアーク。
「王子っ‼」
『はっ‼はい‼』
「あんたは城に残っている兵士達を指揮して街の皆を避難させて‼」
『はい‼』
王子もリリスの気迫に圧され思わず返事する。
『リリスちゃん‼』
アークが何か言いたいようだ。
「アークさん早く‼」
『わかった‼でも1つだけ。リリスちゃんはどうするの?』
「私は…アイツを倒す。」
『そんな無茶だ‼』
「でも…今この場で倒せる可能性があるのは私だけ…」
『俺も手伝うよ‼』
「……隊長すら倒す事が出来ないアークさんに手伝える事はありません…。」
『………。』
(…酷な言い方だけど…本当の事…それに私ですらアイツを…魔導船を倒すことは出来ないかも知れない…。)
アーク、リリス共に複雑な顔をする。
「アークさん…貴方は勇者です。勇者とは人々の希望のはずです。その希望が、絶望の混乱の中現れたら…人々はどんなに安心するのか魔族の私にははかり知れません…ですから皆の所に行ってあげてください。」
『………わかった‼』
うつむき、複雑な顔をしていたアークが、晴々とした顔を見せる。
「では、お互い頑張りましょう‼」
『あぁ…リリスちゃんもマオや村長が悲しむから無茶はしないでね‼』
「はいっ‼アークさん達もマオちゃんが悲しむような事だけは避けてくださいね‼」
アークが後姿で手をあげ返事をする。その後をエルと王子がついて行く。
「…さてと…長い1日になりそうね…。」
リリスはそう呟き、特攻する覚悟を決めた。




