~王宮への侵入~
陣営を監視し続けて深夜になった。その間、特に何もなくリリスにとって退屈な時間が過ぎただけであった。
「…ふぁぁぁ…。」
(…陣営の監視を初めてから何回目の欠伸かしら?…眠いし、暇だわ。もうアークさん達はここにはいないのかしら?)
兵士達も夜番を残して皆休息しているようだ。
(…兵士達も大変ね…魔族と同じで中には戦なんかしたくない人もいるんだろうに…人間も魔族も、その他種族も色んな人がいて色んな考えがある。その辺は変わらないわね…)
物思いに耽りながら何気なく陣営の方を見る。
(…ん?今何か動いたような…)
おそらく王族が滞在しているであろう陣営の方でコソコソと、人目を避けるように動く影がある。
(…誰か出てきた…1人、2人、3人…。3人いるわ…。)
3人を松明の灯りが照らす。
(…あっ‼アークさんだ‼)
3人の中にアークを見つけるリリス。その後、3人の影が人目を避けるように陣営から離れ、森の中に消えていく。
(…こんな時間に何処に行くんだろ?…相手に奇襲でもかけるのかな?…3人じゃそれもないか。とりあえずついて行ってみるか…)
リリスも気配を消し、後をつけていく。
(…アークさんがいるって事はあと1人はエルさんでしょ?…あと1人は誰?)
3人をつけていくと、やがて木に馬が3頭繋いである所に着く。
(…あの馬に乗って何処かに行くのね…)
3人が予想通り馬に跨がり、移動し始める。
(…このままじゃ離されちゃう。)
リリスも空を飛ぶ。3人は人目を避けるように森を移動しているせいかそんなには速度は出ていない。空をゆっくり飛ぶリリスと同程度だ。だが徒歩よりは断然速い。
(…ん?なんか戦場から離れていくような…。)
3人はどんどん戦場から離れていく。
(…この方角は…首都?また戻るの?…まぁ、何処に行こうともついていくしかないわ。)
王宮がある首都コントラの方角を目指す3人。しばらく森の中を移動し、やがて首都がようやく目視できる所までたどり着く。
(…やっぱりあそこが目的地なようね…)
3人が止まり、馬から降りる。どうやらここからはまた徒歩で移動するらしい。
(…ん?馬から降りた…なんでだろ?)
3人が移動を開始する。その動きから辺りを警戒しながら移動してるのがわかる。リリスも気配を気付かれないように慎重に尾行する。
(…馬の方が速いけど誰かに気づかれやすい…それを降りたと言うことは誰かに見られたり、気づかれたりするのが駄目ということ…しかも3人の動きを見ていると辺りをかなり警戒しながら移動している…余程の事があるのね…)
3人は黙々と進み、やがて首都を囲うように建っている塀までたどり着く。
(…門がある場所とは全然違う所だ…まぁ、あれだけ辺りを警戒しているのだからわざわざ門番がいる所には行かないわよね…)
3人の内の1人が何かを荷物入れからとりだす。
(…まさかこの塀を登るの?私は空を飛べるからこんな塀を越えるのは楽勝だけど…私の3人分位の高さは余裕であるわよ…。)
リリスの身長はだいたい150㎝位で、塀の高さはそれの3倍は余裕である。何か引っ掛かるようなところでもあれば、それを足掛かりにして登る事も出来なくはないが…。
(…翼が無い人間には難しいんじゃない?足掛かりになるような所もないし…)
リリスの心配をよそに、荷物入れから取り出した何かを反対側へと投げ入れる。
(…なんか投げた?…縄?)
投げ入れた何かは縄のようだ。それを引っ張り、しっかり縄が張っているのを確かめる。
(…縄の先に何かに引っ掛かるような物をつけて投げ入れたのね…)
まず1人、ぐいぐい引っ張り、しっかりと引っ掛かっているのを確かめて登っていく。
(…以外とスイスイ登っていくわね…)
あっという間に塀を登りきる。月明かりに照らされたシルエットからどうやらアークのようだ。アークが辺りをキョロキョロと見渡し安全を確かめてから残りの2人に手招きする。それを見て、残りの2人の内、1人が登り始める。
(…1番初めはアークさんだったか…じゃあ今登っているのはエルさんかな?)
やがて2人目も登りきる。リリスの予想通りエルだったようだ。
(…んじゃ、3人目は誰かしら?)
3人目もスイスイ登る。
(…ん~どっかで見たことあるような……あっ‼コンテストに来てたこの国の何番目かの王子だ‼)
王子が登りきる。それを見計らい、アークが引っ掛かっている縄を外し、今度は今までいた方、投げ入れたのとは逆の方に落とす。そしてまたぐいぐい引っ張り、しっかりと引っ掛かっているのを確かめて今度は降りていく。
(…なんで王族が一緒にいるのよ…てか、登りはまだいいけど降りるのはキツいでしょ。)
アークが慎重に降りていく。地面を確かめるように降り立ち、辺りを警戒する。そして手招きをする。
(…今度はエルさんね…)
エルが慎重に降りていく。アークの時とは違いプルプルと小刻みに震えているように見える。
(…なんだか危なっかしいなぁ……あ‼)
リリスが危惧していた通り、エルの手が縄から離れ、悲鳴をあげる間もなく落ちていく。リリスも突然の事に思わず身体が反応し、エルを受けとめに行きそうになる。だが次の瞬間、アークが上手くまわりこみ、見事にエルを受けとめる。お姫様抱っこのような感じになる。
(…おぉ…思わず身体がビクッとなったわ…それにしてもなかなかアークさんやるわね…お姫様抱っこ…羨ましい…。)
エルをそっと優しく地面に降ろすアーク。エルは少し恥ずかしそうにしている。次は王子の番だ。
(…まぁ王子は男だから大丈夫でしょ?…それにしても王族も一緒にいて忍び込むような真似をするなんて…いったい何をする気なの?)
王子は危なげ無くスルリと降り、3人はまた辺りを警戒しつつ移動を開始する。
(…また何処かに行くのね…。こっちは街の中心…ということは王宮か…)
街の裏通り、人目がない所を足早に駆け抜け王宮へとたどり着く。日中、堀に架けられている橋も今ははね上がっている。
(…さて…王宮の中に侵入するには堀を越えないといけないんだけど…どうするつもりかしら…?)
3人の様子を見ていると、先程、塀を登るのに使った縄を今度は堀に垂らした。
(…まさか、堀の中を行くの?越えるんじゃなくて?)
3人は順調に縄を伝い、順次、堀の中に入る。
(…まさか堀の中を行くとは…どこかに王宮内部に続いてる所でもあるのかしら…?)
リリスが堀の水の流れを目で追っていく。
(…う~ん…あっ‼はね上がってる橋の下に穴があいてる。あそこから侵入するのかな?)
橋の下に穴があいてるのを見つける。月明かりに照されて水面がキラキラと僅かに光っているのが確認できる。どうやら王宮からの排水が堀に流れ込んでいるようだ。3人がアーチ状になっている穴に向かって堀の中をゆっくり進む。
(…やっぱりあそこから内部に行けるのね。て言うか、私も中に入らないといけないわよね…)
リリスがまごついていると、3人が穴の中へと消えていく。
(…うぅ…排水が流れているということは、おそらく色んな汚水も流れているわけで…多分、トイレの…)
リリスが覚悟を決めて3人の後を追う。
(…これが終わったら絶対マオちゃんに新しい服とか買わしてやるんだから‼)
3人と1人が穴の中へと消えていく。




