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~リリスの旅立ち~

リリスの心は揺れていた。院長から言われて、改めて色々と考えていた。皆の事やマオの事、色々な事を考えていた。その中でも今一度、認識を改めざるを得ない事柄がある。それはアークの事だ。院長と話をする前はそんなに問題になると捉えていなかったのだが、改めて考えると障害になる可能性があった。勇者と魔族。それは古来よりお互い、相容れない存在であった。勇者は魔族を、魔族は勇者を倒す事を生涯の目的とし、常に争っていた。リリスも院長と話をしたことにより、それを思い出したのだ。普段のアークは誰にでも優しく、周りの人からも好かれている。だからなのか、リリスは人として暮らすうちにそんな事を忘れていた。自分は魔族。もし、それがアークにわかれば自分は倒されてしまうかもしれない。そして、それはマオの正体がアーク夫妻にバレる危険性もあった。正直、マオの事はあまり心配をしていなかった。問題があるとすればアーク夫妻だ。自分の最愛の娘が、魔族が、魔王が転生した姿だと知ったら…。しかも、自分が一度倒した相手だと知ってしまえば…。その苦悩くのう筆舌ひつぜつに尽くしがたいだろう。今までの、魔族のリリスであればそんな事は気にも止めなかった。気づきもしなかった。だが、リリスが《あの感情》を知ってしまったからこそ気づいてしまった事だろう。

(…まったく、厄介な事を押しつけられたものだわ…。)

「ふぅ…。」

自室でゴロゴロとしていても溜息ばかりがでる。

(…そういえば、あの時の鳩はどうしているかしら…?)

窓辺に立ち、外の風景の中を探す。それらしき鳩を見つける。

(…あいつかしら?)

「ピィ~‼」

口笛を吹き、呼んでみる。鳩がすぐに飛んで来る。鳩が飛んで来てすぐに求愛行動を始める。どうやら先日の鳩だったらしい。

「フフフ。」

その様子が可笑おかしかったのか、可愛かったのかは分からないがリリスから笑みがこぼれる。

「…貴方…私の事が好きなの?」

鳩を撫でながら、唐突とうとつに聞いてみる。

(…こんな事鳩に聞くなんて…私はかなり精神的に弱っているようね。)

たわむれだったのかどうかは分からないが、人語を理解出来ないであろう鳩に質問をする。その事に気付き、自分が精神的に弱っていることに気付くリリス。だが、鳩がうなず素振そぶりを見せる。

「‼‼」

リリスは驚き、もう一度質問をする。

「貴方、言葉が分かるの?」

鳩が今度はしっかりと頷く。

(…マジか…この鳩、凄い。…いや、でも…偶然と言うこともあるし…。)

リリスは驚き、感心するとともに次の質問をする。

「貴方、私の事、嫌い?」

先程とは逆の質問をしてみる。

(…この質問で首を横に振って否定すれば偶然ではないはず…。)

鳩の動きに注視する。鳩が首を横に振って否定する。

(…おぉぅ…凄い鳩を捕まえたかもしれない…。)

念のため、もう一度質問をする。

「貴方、言葉が分からないの?」

これも先程とは逆の質問だ。こちらもやはり、首を横に振って否定する。

(…間違いない…この鳩凄い。)

驚き、感心するリリス。

「貴方…賢いのね。」

恥ずかしそうな素振りをする鳩。鳩をでるリリス。

(…そういえば、マオちゃんに手紙書いてないな…まぁ緊急事態でもないし…いいか…)

鳩を撫でながら唐突にリリスが思い付く。

(そうだ‼この子に名前をつけてあげよう。)

「貴方に名前をつけてあげるわ。」

鳩が嬉しそうにする。

「貴方の名前はマメよ。」

鳩の動きがピタリと、とまる。その様子を見て、何かを察するリリス。

「嫌なの?」

あせったように首を横に振る鳩。

「嬉しい?」

焦ったように今度は首を縦に振る鳩。

「なら良かったわ。今日から貴方はマメよ‼」

嬉しそうに両羽を広げるマメ。

(…フフフ、可愛いわね。)

マメを撫でるリリス。気持ち良さそうにするマメ。リリスが撫でる手をとめると、今度は求愛行動に移行するマメ。

「貴方、そんなに私の事好きなの?」

頷くマメ。

「だったら強いオスになりなさい。」

コクコクと頷くマメ。

「そうねぇ…この辺で1番強く…この辺のボスに成れるくらい強くなりなさい。」

両羽を広げ、雄叫おたけびのような鳴き声をあげるマメ。やってやるぞ‼と、言った感じだ。

「フフフ…可愛いわね。ヤル気充分て感じかしら?…さぁ、もう行きなさい。また用事があったら呼ぶから。」

元気良く返事をしてマメが何処かに飛んで行く。

(…さてと…なんだかマメと話していたら大分だいぶ、気持ちが晴れたわ。悩んでいててもしょうがない。アークさん達にバレたらその時はその時で、どうにかしよう。ずは動かないと‼)

自身を鼓舞こぶし、気合を入れる。

(…先ずは院長の所に行かないと…)

あわただしく身支度を整え、院長の元へと向かう。途中、出会った職員に院長の居場所を聞きだす。どうやら自室で何かをしているらしい。

(…部屋で何かをしているのなら好都合だわ…院長以外誰もいないだろうし…)

院長室の扉の前に立ち、ひと息つける。

(…ふぅ…、さぁ行くわよ。)


~コンッコンッ~


ドアをノックする。

『どうぞ。』

中から院長の声がする。

「失礼します。」

中に入ると同時に院長と目が合う。院長は全てを察したらしく表情が曇る。

『…行くのですか?』

リリスが話をきりだす前に院長が話し出す。

「はい‼」

『いい返事ですね。』

リリスの返事を聞き、院長が微笑む。

『…これなら心配もいらないようですね。』

「どういう事です?」

院長が何かをしていた手を止め、語り出す。

『あの綺麗な満月の夜に貴方を引き留めたのは、貴方が何処か迷っている、悩んでいる感じがしたからです。』

(…迷っていたのかな?むしろ…あんまり深く考えていなかった気がする…)

『でも、先程の元気の良い返事を聞くと、どうやら大丈夫なようですね。』

「はい‼」

院長がまたもニコリと微笑む。

『良い返事です。…寂しい気持ちもありますが…これ以上貴方を引き留める訳にはいきませんからね。でも、貴方の親代おやがわり、親としての本当の気持ちは…行かせたくないと想っているのが私の本音です。』

院長のその一言に思わず泣きそうになる。

『そんな顔をしないでください。貴方はこれから今よりも苛酷な運命に身を投じるのですよ?こんな事で泣きそうになっていてどうするのです?』

くいしばりギュッと我慢するリリス。リリスのその姿を見て、微笑む院長。

『貴方が魔族であろうとなかろうと、それは私には関係ありません。貴方は私の数多くいる子供達の1人です。そしてここは貴方の帰るべき場所、おうちの1つです。必ず…必ず無事に帰って来るのですよ…。』

「はい‼」


こうしてリリスは気持ちを、心構えを新たにし、闘いに身を投じるのであった。

(…先ずは情報収集かしら?…アークさん達はおそらく王宮に向かったと思うけど…)















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