~アーク達の話~
最新話投稿しました。少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
院長とリリスの話から時間は少し戻り、リリスを無事に孤児院へと送り届けたアーク夫妻。その後、夫妻は王子と面会するために王宮を目指した。王宮は首都の中心にあり、そこから放射状に道が延びている。王宮に近づくにつれ、街並みも段々と賑やかになっていく。田舎のマッカイ村とは大違いだ。
「やっぱり、都会は違うなぁ…。」
『そうですねぇ…前に来たのはいつぐらいでしたっけ?』
エルがアークに尋ねる。
「う~ん…たしかマオが産まれる前だから10数年前じゃないか?」
『もう、そんなに経ちますか…懐かしいですねぇ。』
エルがしみじみと語る。
「まぁ、まだ魔王がいた頃の話しだからね。」
『そうですねぇ。』
2人で昔の思い出を語りながら街並みを歩く。街並みは昔と比べて、それほど変わってはいないようだ。街の人々はというと戦が、すぐそばまで迫っている事などを気にする様子もなく、普段通りに過ごしている印象を受ける。
しばらく街を歩き、やがて王宮へと続く橋にたどり着く。王宮は周りをぐるりと、堀で囲まれており、この橋を渡って王宮へと入るようだ。また、王宮の門の前には数人の兵士が立っており、外部から不審者が侵入しないように護っている。万が一多数の敵や不審者がこの橋を渡り、王宮へと雪崩れ込もうとした際には、橋を上げて敵の侵入を防ぐ事が出来るようだ。そのような人力の設備も見受けられる。
『王宮に何のようだ‼』
門に近づくと、左右に配置された兵士が、お互いに持っている槍をクロスさせ、通せんぼしてきた。
「マッカイ村から来たアークと言うものです。コミナ殿下にお目通り願いたいのですが…。」
『アーク?…お前のような者が来ると言う連絡は受けておらん‼』
兵士が怪訝そうな顔でぶっきらぼうに言い放つ。
(…参ったな…まぁ、何時行くとも連絡してないし…しょうがないか…)
「では、コミナ殿下の親衛隊長を呼んで頂けますか?」
『隊長を…?まぁ…隊長なら…だが、今は色々と忙しい。隊長も来れるかどうかわからんぞ。』
「それで大丈夫なのでお願いします。」
『わかった。おい‼』
『はい‼』
アークと話していた兵士が、近くにいた自分より下っ端を呼びつける。
『お前、ちょっと行って隊長を探して呼んで来い。』
『わかりました‼』
下っ端が走り去っていく。
『邪魔になるから避けて少し待っていろ。』
促され、端に避けて隊長を待つ。
(…それにしても…この兵士…俺の事が分からないか…見た感じ20代後半位だろ…んで俺が現役でバリバリ勇者やってたのが…マオが産まれる前だから…10数年前…ボチボチ20年位経つのか…もしかしたらこの兵士は10歳にもなっていないときか…う~ん、それじゃ、もしかしたら分からないかも知れんな~はぁ、ヤダヤダ。歳はとりたくないねぇ…。)
「はぁ…」
思わず、溜息が漏れる。
『あら、溜息ついてどうしたの?』
エルが不思議そうに尋ねる。
「いや…あの兵士達、俺の事が分からなかったなぁ~と、思ってね…。」
エルが微笑む。
『フフフ…貴方もそんな事気にするんですね。』
「そんな事って…。」
アークが少し不機嫌そうにする。
『良い事なんじゃないんですか?』
「え、なんで?」
今度はアークが不思議そうにエルに尋ねる。
『だって…貴方の活躍が忘れられる位、平和になったという証拠じゃないですか…それに魔王の事も。』
「そんなもんかね…」
『そんなもんですよ。』
あまり納得がいかない感じのアーク。
「やれやれ…歳はとりたくないねぇ…。」
『……歳?』
思わず口を衝いて出た言葉に、我にかえる。
「い、いや‼歳をとったとか…そういう話しじゃなくて…」
(…しまった…年齢の話しはエルの前で禁句だった…)
『貴方が歳をとったと言うのなら私はなんなの?お婆ちゃん通り越してミイラかしら?』
「いや、その…それにしても…隊長まだかな~…エヘヘ。」
自分の頭を掻くアーク。どうやら話題を変えたくて必死らしい。
『…まぁ、良いでしょう。そうですねぇ。隊長来ないですねぇ。』
エルはどうやら話しに乗ってくれたようだ。
(…ふぅ。長命のエルフの女性に年齢の話しは禁句だからな…何時の時代も、どの種族の女性もその辺は同じだからな…)
その後も、話題に気を付けながら、世間話をして隊長を待つ。しばらくエルと話をしていると、先程の下っ端が帰ってきた。先輩兵士と話をしている。時折、先輩兵士がこちらをチラリと見る。
(…何かあったのかな?)
下っ端と話を終えた先輩兵士が、こちらに駆けて来る。
『…先程は失礼致しました。まもなく、隊長がこちらに来るそうです。もうしばらくお待ちください。』
「はい。」
(…さっき、こっちをチラ見したのは隊長から俺達の事をなんか聞いたんだな…態度が全然違う…)
しばらく待っていると門の側にある通用口が開く。
『アーク‼久しぶりだな‼』
豪快な口振りで初老の男性がアークに挨拶する。
「隊長‼お久しぶりです。」
どうやらお目当ての親衛隊長らしい。
『エルさんもお元気そうでなにより。』
『はい。隊長さんも相変わらずお元気そうで…』
エルが微笑む。
『まったく…お前達は…田舎に引っ込んだと思ったら…ちっとも顔を見せないで…』
「エヘヘ…すいません。」
『まぁ…しょうがないか…。それよりもコミナ殿下がお待ちだ。急ぎ、向かおう。』
「はい。」
隊長と一緒に通用口から中に入る。
『…それにしても本当に久しぶりだな…。』
「…そうですね…あれから、もう10数年経ってますからね…。」
足早に、王子の元へと向かう。
『…どうだ?あれからもちゃんと鍛練は積んでいるか?』
「まぁ、ボチボチですかね?」
『そんな事ではいかんぞ‼何時何時なにがあるかわからないのだから…』
「…俺はあのときに平和になったと思っていたんですけどね…魔族の軍勢を蹴散らし、魔王を倒して…だから、剣を置いて田舎に引っ込み、家族で楽しく暮らしていたんですけどね…今度は人間同士の争いか…」
アークが恨めしそうに言う。
『う…まぁ、それについてはすまん…。』
部屋のドアの前までたどり着く。
『…中で殿下がお待ちだ。』
~コンッコンッ~
『コミナ様、アークを連れて参りました。』
隊長がノックをすると、中から返事がする。
『どうぞ。』
促されて中に入る。
「…失礼します。」
『アーク、よく来てくれた。』
王子が座っていた椅子から立ちあがり、アーク夫妻に挨拶する。
『…さっそくで悪いのだが…本題に入ろう。』
「…はい。」
王子に促されて、ソファーに座る。
『さて…コンテストの時に話したと思うが…このあと、私と共に来てもらう。場所はおそらく戦場の最前線となるであろう所だ。』
「…最前線…。」
アークが顔を曇らせる。
『…なんだ?不服か?』
王子がニヤリとしながら言う。どうやらアークの心情等を見透かした上での冗談らしい。
「不服だなんて…そんな…」
『冗談だ。気にするな。一応、お前の事は私なりに理解はしているつもりだ。』
複雑な顔をするアーク。そんな事は気にもせず話を続ける王子。
『とにかく、我々が向かうのは戦場の最前線だ。着いてすぐで悪いがこれから出発する。』
「これからですか?‼」
『あぁ…こちらの準備は済んで、お前達の到着を待っていた所だったからな。』
「…………。」
またも複雑な顔をするアーク。王子が隊長に指示をする。
『これより戦場へと向かう。馬車の用意をせよ。準備が出来しだいすぐに向かうからその他の準備も抜かりなくせよ‼』
「はっ‼」
隊長が駆け足で部屋を出て行く。隊長の足音が遠ざかるのを確認し、王子が小声で話す。
『…その他の詳細は馬車の中で知らせる。』
王子の仕草で全てを察してアークも小声で返事をする。
「…わかりました。」
『…すまんな。』
王子がアークに謝る。どういう意味で謝ったのかアークには分からなかった。都合良く使う事に対する謝罪なのか、それとも戦場の最前線に向かう事の謝罪なのか。その両方に対する謝罪かもしれないし、アークにはまだ分からないこと、知らないことに対する謝罪かもしれない。アークは複雑な心境で、王子の謝罪の言葉を聞いていた……。
話しはまたリリスに戻り、リリスの心は揺れていた。昨晩、綺麗な満月を見ながら院長と話した時から決心が揺らいでいた。




