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~院長とリリス~

平和とは、幸せとはなんなのかを少しだけ理解したリリス。そんなリリスが初めて自分の意思でそれらを護るため、作る為に一歩を踏み出した。

(…今日は大きな満月があるせいか辺りも明るいわ…まぁ、私は比較的人間と比べて夜目よめが効くからあんまり関係無いけどね…)

庭の塀の前まで辿り着く。

(…あとはこれを飛び越えれば…)

そのときだった。


『そこにいるのは誰ですか?』

リリスは慌てて声がした方を振り返る。

(…まずい‼バレた‼…しかもこの声って…)

「…院長先生…。」

どうやら院長に見られたらしい。

『…リリムさん?…こんな時間に何をしているのです?もう就寝時間は過ぎていますよ?』

院長の声の加減からして怪しんでいるのは明らかだ。

「…えっと…その…あの~…。」

(…まずい…このままじゃここから脱け出せない…どうする?…いっその事《魅了チャーム》を使う?…いや…ダメだ‼お世話になった人にそんな事したくない…。)

リリスがまごついていると、何かを察したのか院長が先程とは違い、優しく語りかけてきた。

『…少し…お話ししませんか?』

「…はい。」

リリスは院長にうながされるまま、庭にあるベンチに腰を掛ける。その隣に院長もゆっくりと腰を掛ける。

(…怒られるのかしら…?…でも、今まで院長に怒られた事も、怒ってる所も見たことが無い…)

リリスにとって気まずい空気が流れる。院長は空を見上げている。

『…今日は綺麗で大きな満月ですねぇ…』

空を見上げていた院長がしみじみと語りだす。

「…はい。」

『…それで、リリムさん。行くのですか?』

「………‼」

リリスは声も出ないほど驚いた。

(…えっ‼なんでバレてるの?…どうして?)

「えっと……どこにですか?」

どうやらリリスは、はぐらかすつもりらしい。

『…この孤児院を出て行くつもりですか?』

院長が核心をついてくる。

(…こんな聞かれ方したら…もう誤魔化せない…どうする?…ここで《いいえ》と答えればここを出て行く事は出来ないし…正直に言うしかない。……か。)

リリスは観念かんねんして答える。

「…はい。」

『…そうですか…。』

2人の間に沈黙が流れる。院長は空を見上げている。

(…気まずい…どうしよう…)

しばしの沈黙のあと、院長がまた語りだす。

『…理由を…ここを出て行く理由を聞いてもいいですか?』

(…理由?…理由か…言ってもいいのかな?…それよりも信じてくれるかな?)

黙りこみ、思案するリリス。

『…私には言えないような事ですか?』

「いえ、そんな…。」

『では、ここが嫌になったのですか?』

「そんな事無いです‼ここの事は大好きです‼」

『では…なぜ出て行くのですか?』

(…もういいや…言っちゃえ‼)

「ここを…皆を守りたくて。」

『皆を守るとは?』

「皆を戦渦から守り、平和を守りたくて…。」

『…そうですか。』

「………。」

『………。』

(…え、この反応は何?なんで院長黙ってるの?)

2人の間にまた沈黙が流れる。

(…どうしよう…。)

院長は先程とは違い、何かを考えているようだ。

『…ひとつ…残酷ざんこくな事を言うようですが…』

何かを考えていた院長が語りだす。

『…リリムさん…貴女あなたに…皆を、平和を守るだけのちからがありますか?…先程から少し考えたのですが…私にはどうしても貴女にそこまでの力があるとは思えない…。』

院長の言葉は当然と言える。リリスが魔族ということを知らないのもあるが、何より、今のリリスは人間として生活しやすいように人族の十代そこらの女の子に変身トランスフォームしているからだ。見た目が十代の女の子。その女の子が平和を守る。つまりはいくさを止めると言っているのだ。院長の言葉も無理もない。

(…まぁ、当然よね…今の私はか弱い人の女の子。院長から見たら魔族ではないのだから…)

『悪い事は言いません。貴女には無理です。貴女が皆の事を思う気持ちはとても嬉しく思います。ですが貴女にはそこまでのちからは無いのです。』

(…どうする?…いっその事、魔族ということを打ち明ける?…でも…)

リリスが思案している間も、院長は続ける。

『貴女の保護者として、親として、私は貴女に無駄に死んで欲しく無いのです。酷い目にあって欲しく無いのです。』

その言葉を聞いて、リリスの脳裏のうりにマッカイ村にいる両親の顔が浮かぶ。

(…お父さん…お母さん…。)

『…だから貴女にハッキリと言います。貴女には無理です。ここに残り、いくさが終わるまで過ごしましょう。』

院長がリリスの顔を見る。先程まで空を見上げていた時とは違い、その目には、なんとしてでもリリスを行かせまいとする気迫が宿っている。

(…今の私なら院長の気持ちがわかる…村にいる両親も同じ事を言うだろう…でも…私は皆を守りたい‼)

意を決して、リリスが喋る。

「…院長先生。私には1つ、誰も知らない秘密があります。」

『はい。』

「…それを今からごらんに入れます。」

『………。』

そういうとリリスが変身を解く。

(…嫌われても良い‼私はこのちからで皆を守るんだ‼)

みるみる内に変身が解けていく。その両手にはわしのような鋭い爪、背中には蝙蝠こうもりのような羽根と、およそ人とは違う姿になっていく。

(…騒がれるかな…まぁいいか…元々もともと魔族と人間は相容あいいれない関係…でも…あの気持ちを知ったあとだと…悲しいな…)

魔族の姿となったリリスをジっと見つめる院長。その表情はリリスの予想に反して、驚いているわけでもなく、恐がっているわけでもなく、ただ無表情でジっと見つめている。

(…驚き過ぎて声も出ないのかな…まさか…このままショックで昇天しないでしょうね…)

リリスが不謹慎な事を考えていると、院長がつぶやいた。

『まさか…魔族だったとは…。』

その言葉はおそらく、院長の心の声だろう。その言葉には驚きや畏怖いふその他の感情等は入っておらず、無意識の内にポツリと心から漏れでたように聞こえた。

「…驚かないんですか?」

院長の感情が分からず、不安になったリリスがたずねる。

『…イヤイヤ…充分、驚いていますよ。』

「その割にはあんまり驚いて無いように見えるのですが…」

『この歳になると表情にとぼしくなるものですよ。』

そういうと院長はニコリと笑顔を見せた。

(…表情が乏しいんじゃないんかい…)

『…しかし、これで納得が行きました。』

「なにがです?」

『今までの貴女の事ですよ。』

「どういう事です?」

『貴女がここに来たときに感じた事なんですが…』

院長は立ちあがり、庭を散歩し始める。リリスもあとを付いていく。

『…貴女は他の子供達と比べて、妙に余所余所よそよそしかった。初めは人見知りか、何か余程よほどの事があったのかと思い、私達も気にかけていたのです。』

(…まぁ、初めはね…魔族だし…人間の事はよくわからないし…)

『全ては時間が解決してくれると…そして、少し時間が経ち、貴女がここでの生活に慣れたと思われる頃、今度はその所作しょさが私は気になりました。多分、私だけだと思いますが…』

「所作ですか?」

『…えぇ…。』

「…どんな所ですか?」

『およそ私が見てきた子供らしからぬ所ですかね…他の職員はそんなには気にしていなかったみたいですが…私はどうもそれが気になりましてねぇ…まるで大人の女性を相手にしているみたいで…』

(…身体は子供、頭脳は大人だからね…)

『…目ざとくてすみませんねぇ…』

院長がニコリと笑う。

「…いえ、そんな…」

『…でも、これで納得が行きました。そして、貴女が皆を守ると言っている事にも…』

院長があゆみを止め、リリスの方を見る。

『…確かに貴女には皆を守るだけのちからがあると思います。ですが…それは私みたいな一般人を相手にした場合のみです。有象無象うぞうむぞうの相手をするのでしたら貴女を倒せる人はいないでしょう。でも、今回は戦です。相手は戦闘訓練をうけた兵士や魔術師、中には前の魔族との大戦で活躍した英雄達もいるでしょう。そんな中に貴女は1人で行くのですか?いくら貴女が人より強い魔族とはいえ、それは無謀です。』

「………。」

院長の言葉に思うところがあったのか、黙りこんでしまうリリス。

『…悪い事は言いません。もう1度よく考えてみてはどうですか?さいわいと言ってはなんですが…まだ、戦況の方はあまり動いてはないようです。もう1度よく考え、それでも貴女がここを出て行くと言うのなら、私はもう止めはしません。その時には最大限、私に出来るだけの事はしますから…。』

「……はい。」

院長の言葉に説得されたのか、また元の人の姿へと戻るリリス。その姿を見て、安堵あんどの表情を浮かべる院長。


『…今夜は本当に綺麗で大きな満月ですねぇ…。』

「…はい。」


複雑な表情を浮かべるリリスと、どこか寂しそうな表情を浮かべる院長。2人を照らすように大きな満月が輝く夜の事だった。









もしかしたら後で少し修正するかも知れません。楽しんでいただけたなら幸いです。

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