~リリスの決意~
リリスは孤児院へと戻り、夜の為に準備をする。そのあとは孤児院の手伝いをする。
(…今までお世話になった所だしね…最後くらいはしっかりお手伝いしないとね…)
どうやらリリスはもう孤児院には戻るつもりはないらしい。そんな事を考えながらリリスはお手伝いに精を出す。元々、孤児院にいた頃も普通に手伝いはやっていたのだが…今日はそれ以上に頑張った。水汲みや草刈り、掃除に洗濯。いつもは敬遠していた手伝いにまで手を出し頑張った。そんなリリスを遠目に、院長は嬉しくも、なんだか寂しい気持ちで眺めていた…。
昼間の手伝いを終え、やがて夜になる。夜は夜で昼間とはまた違う種類の手伝いがあり、それらもリリスは率先して手伝った。夕食の配膳や年少者やお年寄りの食事の介助、それが終われば今度は入浴等、いつもは職員がやるような事までも手伝った。
(…いよいよ、あと数時間でここともお別れか…思えば色々あったな…)
この孤児院に来たばかりの事を思い出しながら、リリスは最後の手伝い、年少者を寝かしつけていた。
(…この子を寝かしつけて…少したったら行かなきゃ…決心が鈍る前に…)
などと思いつつ、うとうとしていると、ふと気付く。
(…決心て何⁉…私は言われた事を…マオちゃんの命令をきいてここにいるだけ…なのに…いつの間にかここにいたい…ここに残りたいっておもっているの?…それにこの子を見ていると沸き上がってくる気持ちは何?…胸が締めつけられるような、切ないような…)
静かに寝息をたてる年少者の横顔を見つめるリリス。
(…行かなきゃ…)
深い眠りについた年少者の頭をそっと一撫でし、静かにベッドから出る。後ろ髪を引かれるような気持ちを感じ、もう一度、年少者の顔を見る。
(…また締めつけられるような感覚が…もしかして…私は何かの病気なの?…)
気配を殺し、誰も起こさないように静かに、そっと年少者達の部屋を出る。
(…さっきのはなんだったんだろう…思い出すとまたあの感覚が蘇ってくる…)
自分の部屋に戻り、静かに準備をする。
(…荷物らしい荷物も無いし…やり残したような事も無い…とりあえずはいつでも行けるわね…)
確認を終え、少しだけ仮眠をとるつもりで布団に潜り込む。
(…まだ職員達も起きているだろうし…少し眠いわ…昔は眠いなんて事無かったのに…人として暮らすようになってから色んな変化があったな…)
目を閉じ、魔界で暮らしていた頃を思い出し、今の、人として暮らすようになってからと比較する。
(…昔は今よりも退屈だったなぁ…毎日同じ事の繰り返しだし…他の魔族には悪いけど…例え同族といえど気を許せる奴なんてそんなにいなかったし…)
寝返りをうつ。
(…今は…まぁこんな事になっちゃったけど…毎日色々あって楽しいな…まわりの人も皆、優しいし…まぁ、私が魔族っていうことを知らないから優しくしてくれるのかも知れないけど…それに…魔王様が転生してたなんて…しかもあのオッサンがあんな可愛い女の子に…傑作だわ…)
昔の魔王と今のマオ。その2人を重ね合わせ、姿と形のあまりの違いに笑みがこぼれる。
(…フフフ…この戦が終わったら、また皆で笑いながら暮らしたいな…村を出てからあんまりたっていないけど…お父さん…お母さん元気かな?)
などと、まどろむ頭で考えているとあることに気付く。
(…そうか…これが魔王様が言っていた、マオちゃんが言っていた平和ということか…そしてマオちゃんはこの平和を守りたくて、作りたくて色々と考え、頑張っているのか…)
段々、頭が冴えてくる。
(…今なら…今の私なら魔王様が言っていた事がわかる…私もこの平和を守りたい…作りたい‼)
布団から静かに上半身だけ起こす。
(…もうそろそろ良いかな…私も平和の為に…皆と笑いながら過ごす為に…頑張らないと‼)
静かに布団から起きあがり、行動を開始する。
(…門から出て行くのはまずそうね…一応、職員が見張っているだろうし…。やっぱり、脱け出すとしたら庭かな?…まぁ、一応柵があるけど問題にはならないし…)
辺りを警戒しながら庭を目指す。
(…今の所は大丈夫そうね…)
庭へと続く扉まで無事に辿り着く。
(…この扉を開ければ…また魔族として生きる事になる…)
ドアノブに手をかけ、一瞬、考える。
(…魔族として生きる事は嫌じゃない…魔族としての誇りも持っている…だけど…この扉を開ければ…もう人として…あの村での生活は戻ってこないかもしれない…)
ドアノブを回し、扉を開ける。
(…それでもいい‼…私は皆との…皆との平和を護るため戦う‼)
ドアを開けると、外には雲1つ無い満天の星空が広がっており、全てを照らすように大きなまん丸の満月が輝いていた。
(…雲1つ無い夜空に大きな満月…まるで今の私の気持ちを表しているようね…気のせいか、身体も軽く感じられる…。)
リリスは平和の為に、皆と笑いながら過ごす為に自らの意思で一歩を踏み出した。
(…そういえば、あの不思議な気持ち…マオちゃんだったらわかるかな?)




