~準備~
一応、この話から新章突入です。
マオがエルグランドへと出発し、それを見送ったあと、エルは戦の準備を始めた。
『…さてと…私も準備をしなきゃ…。』
準備のため、家のなかに入ろうとしたときだった。遠くからアークが手を振りながら走って近づいて来た。
『おーい‼エル~‼』
(あら?アークが帰ってきたわ…あんなに急いでどうしたのかしら…)
息を切らしてエルに駆け寄るアーク。
『…ハァハァッ…エル、マオはもう行ってしまったのかい?』
『えぇ、ついさっき…。』
『…そ、そんな…』
この世の終わりのような顔をするアーク。
『もしかして…あなた、マオを見送りしたくて走って帰ってきたの?』
『そうだけど…?』
それを聞き、エルがフフッと微笑む。
『少し遅かったわね。ついさっきアルが迎えに来て行ってしまったわ。』
『アルさんが迎えに来たの?』
『えぇ。』
『そうか…まぁいいか。アルさんが迎えに来たならしょうがない。』
『あなたは昔からアルの事苦手だものね。』
エルがクスクス笑う。
『そ、そんな事は…それはそうとマオが出発したなら俺たちも準備をするか‼』
『はい。』
エルがクスクス笑いながら玄関を開ける。
『そういえば…俺の剣はどこにある?』
『さぁ…?納屋の方じゃないかしら?』
アークが納屋に向かう。
『…どこにあるかな…お‼あった‼』
立派な装飾が施された鞘に納められた剣を見つける。手に取り、少し考え込む。思わず、独り言となって口を衝く。
『…またお前を使うときが来るとはな…しかも今度は魔族ではなく人間を相手に…』
『あら‼そんな事ないじゃない。つい、この間も薪割りに使っていたじゃない。』
驚き、振り返るとエルがいつのまにか後ろにたっている。
『ビックリした‼…エルも探し物かい?』
『えぇ…私も自分の装備を…』
『装備って…あの杖かい?』
『えぇ…どこに行ったのかしら…』
エルがゴソゴソと杖を探す。
『エルが探してる杖だったら無いんじゃないかなぁ…』
アークが呟くように喋る。
『あら!どうして?』
エルが不思議そうな顔でアークを見る。
『だって…俺の記憶が確かなら…マオが産まれて間もない頃…薪が無くて寒いからって言って暖炉にくべて燃やしちゃったもん…』
『‼…そういえばそんな事があったような…』
『もう平和な世の中になったからこんなのいらないって言って…良く乾いていたからいい感じに燃えたなぁ~。』
アークが遠い目をする。
『フフフ…そういえばそうでしたね。それからは、あなたも初めは剣を薪割りに使うのを嫌がっていたけど…使うようになりましたからね…。』
『まぁね…一応、剣士としての誇りだったからね…』
『…また、本来の使い方で使う日が来るなんて…』
『あぁ…悲しいな…。』
2人とも黙る。それぞれ、何か考えを巡らしているようだ。
『…さて…それじゃあ、私はご飯の用意をしてきますね。』
『もうそんな時間か…んじゃ、とりあえず俺は剣を手入れしてるよ。ご飯が出来たら声をかけてくれるかい?』
『はい。』
エルが台所に向かう。
『…こいつを使うのはこれで最後にしたいな…』
そう呟き、アークは剣の手入れを始めた。
一方、その頃、首都コントラに疎開するために残ったリリスも準備に終われていた。
「…ふぅ、これでよしと…」
少し大きめの鞄に着替え等を沢山詰め込む。
(…疎開かぁ…まぁ、しょうがないか…ここでは私はなんの力もない女の子、ということになっているんだし…)
そんな事を思いながら、忘れ物がないかチェックする。
(…それにしても…マオちゃんの無茶振りをどうしよっかなぁ…)
(…いくら元上司で元魔王とはいえ…あの無茶振りはないでしょ…人間観察に元勇者を影ながら助けるか…あ、あと白い鳩を捕まえるのもあるか…)
…コンッコンッ‼…
部屋のドアをノックする音がする。
「はーい。」
返事をする。ドアが開くと村長のイーサーが入って来た。
『どうだい?リリム。準備は順調かい?』
どうやら疎開の準備の進捗状況を見に来たようだ。
「うん。」
『足りないものや必要な物はないかい?暫く向こうに滞在しなきゃならないんだから必要な物があったらなんでも言いなさい。』
「うん。」
『…本当は家族皆、一緒にいられればいいんだが…何かあってからではおそいしな…戦が終わったら必ず迎えに行くからな…それまでは辛抱するんだぞ…』
「うん。お父さんも気をつけてね。」
『リリム…。』
イーサーがリリスを抱き寄せる。
『リリム…。必ず迎えに行くからな。また、皆一緒に暮らそうな。』
「ちょっと…お父さん痛い…。」
その言葉を聞き、我にかえるイーサー。
『おぉ、すまん。それじゃ準備が終わったら教えておくれ。』
イーサーが部屋を出る。
(…この不思議な感覚はなに?…今まで1度も感じたことのない感覚…好きとは違う…愛とも少し違う…嫌な気持ちではない…むしろ、幸せな気分…暖かい気持ちにさせてくれるようなそんな感覚…こんな気持ち今まで1度もなかったのに…マオちゃんはこの気持ち知っているのかな…?)
初めての感覚に戸惑っていると今度は母親のプリンが部屋に入って来た。
『どう?支度は終わった?』
「あと少し…」
『必要な物があったらなんでも言いなさい。』
「うん。」
(…夫婦で同じ事言ってる…)
プリンがリリムの肩を掴む。
『いいかい?リリム。』
「なに?お母さん?」
『…リリムはまだ戦の悲惨さを知らないから言っておくけど…』
プリンがリリムの肩を離し、ベッドに腰をかける。リリムもつられてベッドに座る。
『戦って本当に悲惨なんだ…ありとあらゆる事が起きるんだよ…それも予想していた事よりもずっと悪い方向でね…。お母さんもお父さんも前の戦を体験しているから言えるけどね…。』
(…前の戦って…私達、魔族との戦かなぁ…)
『あのとき…イーサーが、パパがいなければ…お母さんは今ここにいなかったかもしれない…』
「…うん。」
『…あのときのイーサーはかっこ良かったわぁ~。迫り来る敵を薙ぎ倒し、私を守ってくれたの。そして、最後はお姫様ダッコで……今、思い出してもかっこ良かったわぁ~。』
昔を思い出し、少女のような顔で目を輝かせるプリン。
(…戦争の悲惨さを教えてくれると思ったら…ただの惚気話だった…)
「…お母さん…。」
リリムの言葉に我にかえるプリン。
『…ゴホンッ…と、とにかく戦は悲惨なの。それでね…お母さんがなにを言いたいかって言うと……お母さんの時はイーサーが守ってくれたから良かったけど…結局は自分の身は自分で守るしかないの…。』
「…うん。」
『…だけどね…あなたはまだ、か弱い女の子。そんな力なんて無いと思うの。』
(…うん?)
『…だから…せっかくこんな田舎から都会に行くのだから…』
(…なんか話がおかしな方向に…。)
『いい男の子を捕まえて来なさい。』
(…いきなり何を…)
「…お母さん…」
『あら‼男の子を捕まえるなんて簡単よ。か弱いフリをすれば簡単に捕まるわ。イーサーも、パパもそうだったしね。』
プリンがフフっと笑う。
「…私に出来るかなぁ?」
リリスがわざとらしく聞く。
(…まぁ、サキュバスの私にかかれば出来ない事はないけどね。)
『できるわよ。私の娘ですもの。そして、この人だと決めたら必ず落としなさい。ママもそうだったから。』
またもプリンが笑う。
「それがパパだったの?」
リリスが尋ねる。
『…そうよ。』
「そうなんだ。」
(…そのわりにはイーサーに対する扱いが酷いような…ワガママとか…)
『…実はパパはしらないけどママも一目惚れだったの…。パパには言っちゃダメよ。』
「うん。でも、お母さんはたまにお父さんにすごいワガママとか言ったりしてるじゃん。お父さん困ってるよ?」
『それはね…』
プリンが微笑む。
『お互いの信頼関係があるからできるの。なんて言うのかしらね……パパが好きなのはママ、ママが好きなのはパパ、それをお互いにわかっているからこそできるのよ。まだリリムにはわからないかな?』
(…お互い、虜になっているのはわかるけど…私にはわからない…相手を虜にすることはあっても自身がなったことはないから…)
少し考え込むリリスを見て、プリンが微笑む。
『フフ…どう?少しは怖くなくなったかしら?』
「ん?なにが?」
『戦とか…』
どうやらプリンが来た目的は、リリスが戦に怯えているかもしれないと思っての事だった。
「…うん、私は大丈夫だよ。」
『そう…いい子ね。』
プリンがリリスの頭を撫でる。
(…イーサーの時にも感じたこの感覚…)
『さぁ、昔ばなしはこのくらいにして、リリムも忘れ物がないようにしっかり準備するのよ。』
「うん。」
プリンが微笑みながら部屋を出ていく。
(…どうして人間は赤の他人を心配し、思いやる事が出来るのだろう……?イーサーもプリンも私の事を心配している…わからない…自分の子供とはいえ、私は養子。血の繋がりのない赤の他人…魔族にも多少はいるが…基本的に皆、他者には興味がない。魔族にはない感情だ…)
初めての感情、感覚。それらに戸惑い、色んな考えを巡らす。人間とは、魔族とは。両者の違いを見つける度に、また同じ事を考える。マオから言われた事とは言え、初めは嫌々だった人間観察。それが段々と楽しくなって来たリリスであった。




