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~侍女長アル~

マッカイ村を出発し、馬車に揺られ、何日かたった頃、気づいた事があった。

(…このアルとか言うメイド……まったく隙がない。)

マオはこの数日、幾度となく脱走する機会をうかがっていたのだが、いまだ、実行に移せずにいた。

それと言うのもマオを迎えに来た侍女長、アルがまったくと言っていいほど隙を見せずにいたからだ。

例えば、

「…ねぇ、アル。私、少しお花摘みに行きたい。」

と、マオがトイレ休憩の隙に脱走を企てた事があった。

『わかりました。少々、お待ちください。』

アルが御者ぎょしゃに声をかけ、馬車がゆっくりと止まる。

わたくし達はこちらで待っておりますので…』

「わかった。」

そういうと、マオは一目散いちもくさんに、森に駆け出した。

(…よし、このまま逃げるぞ‼)

森に分け入り、しばらく進む。

(…このあたりまでくれば大丈夫だろ?…これから、どうしようか…)

辺りを見回し、人気ひとけが無いことを確認して適当なところに座りこむ。

(…ここからどうやって魔界に向かうかだが…)

などと、今後の事を思案している時だった。

『マオ様、お花摘みは終わりましたか?』

急に話しかけられ、驚き、振り返るとアルが立っていた。

(…こいつ、いつの間に‼…気配をまったく感じなかった…)

『あ、もしかして、バラの木の伐採でしたか?』

(…う〇こじゃねーよ‼)

マオが動揺していると、アルがさらに畳み掛ける。

『このへんは安全とはいえ、何時何時いつなんどき、何があるか分かりません。用がお済みでしたら馬車に戻りましょう。』

「はぁい。」

マオは気の無い返事をし、素直に従う素振りを見せる。

(…と、油断させておいて…こうなったら実力行使だ‼)

アルについて馬車に戻ると見せかけて、きびすを返し、森の奥へと駆け出す。

(…自慢じゃないが、素早さには自信がある‼転生前にも定評があったしな…能力をそのまま引き継いでいるはずだからこのまま逃げ切れるはずだ‼)

一心不乱に駆け、少し経った頃、アルがついてきていないか確認のため後ろを振り返る。

(…よし‼ついてきていないな。さっそく……)

『あらあら、今度は鬼ごっこですか?』

「ギャッ‼」

驚きのあまり、悲鳴をあげる。アルがいつの間にか並走していた。

『そのような声をあげて…はしたないですよ?』

(…こいつはいったい何者なんだ…)

マオは脱走を諦め、立ち止まる。必死に呼吸をととのえるマオに対して、アルは息一つ切らしてはいない。

『さぁ、マオ様。馬車に戻りましょう。』

「…ハァハァ。」

返事をする余裕もないほど息を切らしているマオを一瞥いちべつし、アルは馬車がある方へと歩きだす。

(…こいつは本当に何者なんだ?…儂は全力で走った。それにも関わらず、コイツは気配を消し、簡単について来た。息一つ切らさずにだ…)

どうにか息を整え、アルのあとを歩きだす。

(…簡単に脱走できると思っていたが……思わぬ強敵がいたな…)

トボトボとアルのあとをついて行き、馬車まで戻る。

『さぁ、出発しましょう。』

(…涼しげな顔をしやがって…)

渋々、馬車に乗り込み、出発する。

(…少し観察するか…まだ、脱走する機会はあるはずだからな…)


初めての脱走が失敗に終わった後、マオはどうやって脱走を成功させるか黙って考えていた。その様子を見たアルがマオの機嫌が悪いと勘違いしたのか話しかけて来た。

『…マオ様もお母様のエル様に似て中々のおてんばさんですね。』

(…あの、ホンワカしてる雰囲気のエルが?)

「ママの昔はどんな感じだったの?」

『そうですねぇ…』

アルが遠くを見るような目をする。

『エル様には中々、手を焼かされました。中でも1番驚いたのはお城を抜け出した時の事ですかね…。』

「お城を?」

『そうです。父上でもある王が過保護すぎて…それが嫌でお城を抜け出した事があったんですよ。』

「そうなんだ…」

(どうやって脱走したんだ?)

「どうやって抜け出したの?」

『フフフ…』

アルがそのときの事を思いだし、笑みをこぼす。

『エル様の部屋の扉には衛兵が立っていて、常に見張っています。それは侵入者を防ぐという理由の他に、エル様自身を外に出さない、という理由もあります。そこでどうしても外で遊びたいエル様は部屋にある、はめ殺しの窓を蹴破って外に脱出したのです。あのときは驚かされました…。』

(…どこの世界に窓を蹴破って脱走する姫がいるんだよ‼)

「それでどうなったの?」

『その後はもう城内は大騒ぎですよ。城中、あらゆるところを探しても見つからず、城外に出て、探そうと思っていたところをひょっこり帰ってきました。』

「ママは何をしてたの?」

『なにをしていたんでしょうねぇ…?でも、帰ってきた時に見せた笑顔は良い笑顔でした。まぁ、そのあと国王から凄まじい勢いで怒られて半ベソかいていましたが…。』

(…へぇ~…あのエルがねぇ…)

「なんだか今のママからは想像がつかないなぁ。」

『そうですね。お淑やかになられたのは、多分アークさんと出会ってからですかね?』

「パパと?」

『はい。アークさんが魔王討伐に向かう途中エルグランドに立ち寄ったのですが…そのときからですね。』

「きっとパパに気に入られたかったんだね‼」

マオが微笑む。アルも微笑む。

『フフフ。そうですね。それまではおてんばだけども、世間知らずで箱入り娘だったんですけどね。』

「きっとママには箱が小さすぎたんだね。だからパパと一緒に飛び出しちゃったんだ。」

マオがドヤ顔をする。

『マオ様、上手い事を言いますね。…そうですね。最後にワガママというかおてんばを発揮されたのはアークさんと旅立つ時ですか…王に反対されて、それを押しきり、ついていきましたからね。あのあとの王は気の毒な位に落ち込んでいました。』

「そうなんだ…おじいちゃんちょっと可哀想…。」

マオが少し寂しげな顔をする。

『でも、今回こうしてマオ様がエルグランドに来るという事になった時は、今までに見たこと無いくらいはしゃいでいましたよ。…あ‼この話は王にはナイショでお願いします。』

アルが口の前に人差し指を立てる。

「わかった。ナイショだね。」

マオも指を立てる。

(…楽しくお話ししている場合じゃないんだがな…それにしてもこのメイドなんなんだ?なぜこんなにも隙がないんだ?それにあの動き…何かがおかしい…)


時折、談笑を交えながら馬車はエルグランドをひたすら目指す。




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