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~魔王の終わりと始まり。~


『魔王様‼魔王様‼すぐそこまで人間達の軍が‼勇者が来ております‼どうか、どうかお逃げください。』

叫びながら玉座の裏にある秘密の階段を駆け降り、秘密の部屋に乱入してきたコヤツは我輩わがはいの側近中の側近、我輩のお気に入りの甲冑が長年、魔界の瘴気とわが魔力にあてられて魔物へと化身したアムドだ。

『魔王様‼やはりこちらにいましたか‼もうすぐそこまで勇者が迫っております。どうかお逃げください‼』

アムドが泣きそうな、鬼気迫るような顔で懇願する。

「のぅ、アムドよ…なぜ人間は我らを目のかたきにするのであろうな…」

『…わかりませぬ。それよりも…』

「アムドよ…儂は逃げぬ。お前こそ早く逃げろ‼」

『なにをおっしゃいます‼魔王様こそお逃げください‼今ここで魔王様が討ち取られてしまえば魔族はおしまい、先代の大魔王様にあわせる顔がありませぬ。』

「儂は逃げぬ‼魔王としての役割をはたさねばならぬ‼それに、民や部下が大勢やられておるのに大将の儂が逃げる事など到底できぬ‼」

『ですが…』

「アムドよ…覚えておるか?お前が自我を持ち儂の側近になった時の事を…」

『はい、昨日の事のように覚えております。』

「お前は元々父上の甲冑であったな…それを父上が儂にくれ、100年くらいたった頃か…お前が魔物へと化身したのは…」

『はい。その通りでございます。』

「その後どうだ?」

『その後と言いますと…?』

「いや、お前の化身した祝いに連れて行った魔界No.1と呼び声高いCLUBサキュバスのリリスちゃんとは…?」

『なぜその事を‼』

「いや、上に立っていると色々と声が聞こえてくるものでな…」

『お陰さまで…仲良くさせていただいております。』

「そうか…ならばこそお前は逃げろ‼惚れた女を悲しませてはならぬ‼」

『ですが…』

「くどい‼逃げぬと言ったら逃げぬのだ‼」

『…わかりました。』

「のぅアムド…儂はただ、人間と…いや、皆で争いなどせず穏やかに暮らせればそれで良かったのだ…人間とも何度も話しあおうともした。だがいつも断られ…何がいけなかったのかのぅ…」

『私にはわかりませぬ…』

「儂にもわからん…よいかアムド…もし仮に儂が勇者にやられたら次の王はお前だ‼だが復讐や敵討ちはするなよ‼皆で穏やかに平和に暮らせるよう…民のために苦心するのだぞ‼」

『わかりました。』

「さぁ、もう行け‼リリスちゃんと幸せにな‼」

『はい。魔王様もご武運を‼』

アムドが涙を滲ませながら走り去って行く。

(想えば色々とあった…懐かしいな…儂は皆が、民達が穏やかに平和に暮らせるよう勤めてきたつもりだったが…人間達は聞く耳すら持ってはくれなかった…これも魔族に産まれた宿命か…ならば最後まで魔族として、人間達の理想的な魔王を演じきるまでよ‼)

決死の覚悟を決め、秘密の階段を上る。玉座の間に出て辺りをうかがう。

(ふむ…まだ、勇者は来てないようだな。)

玉座にドカッと座り込む。

(…アムドはうまく逃げれたか…アイツに次の魔王を任せれば大丈夫だろ…それよりも問題は人間達だ…何故あいつらは魔族を目の敵にするんだ…こちらからはなにもしないのに…儂らが住んでいる魔界だって瘴気が酷くて人間達には利用価値すら無いのに…わからん。まぁ今回、儂が倒れれば人間界、魔界、双方に100年くらいは平和が訪れるだろう…儂にはもう…それしかできん…)

辺りを静寂が包む。おかげで今までの想い出や色々な考えが頭の中をめぐる。

(…死んだらどうなるのか…もし生まれ変われるのであれば平和な時代に産まれ、笑いながら生きたい。)


~ガシャーン‼~


けたたましい音とともに扉が破られる。

(…来たか…)

「ようこそ‼我、玉座の間へ‼」

『貴様が魔王か‼』

「いかにも‼ここまでの道中楽しんでいただけたかな?」

『ふざけるな‼貴様のせいで仲間が大勢死んだ…戦士に…魔法使いも…』

よく見ると勇者のパーティーは勇者含め2人しかいない。勇者と耳が少し尖っている感じからしてエルフの少女だ。おそらく僧侶役か?

「そうか…それはすまない事をした。お詫びに2人仲良く仲間達の所に送ってあげよう。」

『貴様こそあの世で仲間達にびろ‼』

「さぁ、来るがいい‼」

戦いが始まった。勇者、魔王ともに譲らず長期戦の様相を呈していた。

(…まずい…これ、多分本気出せば勝てる…)

それもそのはず、本来勇者パーティーは4人、なのに道中、不慮の事故で2人がリタイアしている。さらにリタイアした2人が火力の要である戦士に魔法使いだ。無理もない。さらに言うなれば勇者はここに来るまでにさまざまなアスレチックで満身創痍。おまけにお供はHPの回復しか出来ない薬箱だ。

(ここで儂が勝てば世の中は更なる戦乱が訪れる…しかし儂が負ければ束の間とはいえ平和が訪れる…よし‼)

突然、魔王が攻撃の手を止める。

「次の一撃で勝負を決めよう。」

『…望むところだ…』

「ぬおぉぉぉぉ‼」

『うおぉぉぉぉ‼』

魔王と勇者、お互いの身体が交差し、お互いを過ぎた所で動きが止まる。

「…見事なり。」

魔王が膝から崩れ落ちる。

(…これで…これでいいんだ。これで束の間とはいえ平和が訪れる。あとはアムド達に任せよう。あいつらならきっと人間達と共存の道を…)

勇者が魔王の側に来る。が少し様子がおかしい。

『…魔王…最後…お前…』

どうやら最後に手を抜いたのがバレたようだ。

(…ヤバい、バレた⁉)

「…フフ、なん…だ?もっと…喜べよ…」

『…何故最後手を抜いた‼』

「…なんの…ことやら…」

『…まぁいい、これで貴様も終わりだ‼』

「…フフ…例え儂が…滅びようとも…人間達がいるかぎり… 第2、第3の…魔王が…現れるであろう…」

ごとを‼』

「…その時まで…束の間の…平和を…噛み締めるがいい‼…フハ…フハハハハ‼…グフッ‼」

(…よし‼これで儂の魔王としての役目は終わった…なんだか目の前がぼやけてきた…これが死ぬってことか…)

魔王の身体が崩れ、灰になり舞い上がる。勇者は浮かない顔をして両手を見ている。

『勇者様?』

エルフの少女が顔を覗きこむ。

『あぁ、大丈夫だ。』

『さぁ、勇者様‼皆が待っています。帰りましょう。』

『…あぁ。』

(…あの時、確かに魔王は手を抜いた。しかもあのまま長期戦になっていたら負けていたのはこちらなのに…何故だ…?)



……おうよ、……魔王よ、起きなさい。

「…ううん…」

誰かに呼ばれ、目を覚ます。

「…ここは⁉」

辺りを見渡すもなにもなく、ただ果てしなく真っ白な空間が続いている。

『魔王、魔王よ…』

「誰だ‼」

呼び声に返事をする。

『私は人間達が言うところの神です。』

「神だと?神がいったい儂になんのようだ‼」

『まずは魔王というお役目、ご苦労様でした。あなたのお陰で人間界、魔界、双方に束の間の平和が訪れるでしょう。』

「フンッ‼神を名乗るのであればこうなる前にどうにかしてもらいたかったわ‼」

『申し訳ない。色々と忙しいもので…お詫びに転生先を選ばせてあげます。何がいいですか?』

(…話が急すぎる…しかも姿を見せない…胡散臭うさんくさい…)

「なぜだ?なぜそんな事をする?それよりも姿を見せず神を自称するヤツなど信用出来るか‼」

『…それもそうですね…では…』

辺りの空間から光りが集まってくる。それはだんだんと人の形をなしていき、一瞬目がくらむほどに光ったと思うと神らしきものがいた。

(うぉっまぶしっ‼)

『…では…これでいかがですか?』

光りが落ち着き目が慣れてくると、神と言うには若い感じの男が立っていた。

(こいつが神だと‼見た目は人間の若い男ではないか‼だが…)

見た目は好青年だが雰囲気とでも言うのか、オーラとでもいうのかそれは、およそ人間、いや、魔族や他の種族とはかけ離れている。

『さて…それでは転生先はどうしますか?』

「いや、まだだ‼なぜこんな事をする‼」

『…今までの一部始終を見ていてあなたの行動に非常に心を打たれましてね…魔族をはじめ、人間達にもなかなかあそこまでの事をできる人はいません。他者の幸せや平和を願い、それを叶えるために自らの命を犠牲にするなどなかなか出来ることではありません。ですから、お詫びというかご褒美とでもいいましょうか…』

「…話はわかった。」

『…では…』

「それで?儂に何をさせたいのだ?」

『…と言いますと?』

「何かをさせたい、やらせたいからこんな事をするのだろう‼」

『いえいえ、そんな事はありません。私は純粋にあなたの気持ちに心を打たれたのです。ですから打算等は一切ないです。』

(…終始笑顔か…ますます気に入らん。絶対に何か裏があるはずだ…だが…)

「…転生する先を選べると言ったがそれはどんなのでも可能なのか?」

『はい。あなたがまた魔族になりたいといえば魔族に、人間といえば人間に、はたまた植物になりたいといえばそれもまたできます。』

(…ふむ、それが本当だとすれば…何を選ぶのが正解なのだ…こいつは絶対に何かを儂にやらせたいはずだし、何か裏があるはずだ…)

魔王が迷っている、考えている様子を見てか、神がきりだす。

『ちなみにあなたのステータス等はそのまま次の転生先に移します。魔法や体力、知識や記憶等もサービスで移しましょう。言うなれば、強くてニューゲームですね。』

(…これはもう一度魔族を、魔王をやれと言うことなのか?でなければおかしい…仮にこいつが言うように自分で動けないような植物を選んだ場合、そんなものはなんの役にもたたん。かといって微生物みたいなやつを選んでもおそらくなんの意味もないだろう。となると…やはり魔族か人間、場合によっては他の種族に転生さして何かをさせたいのだろう…)

「では聞くが、もし植物を選んだ場合はどうなる?」

『それはそのようにしますよ。』

「それではなんの意味もないだろ‼儂の今の記憶やステータスを移す意味がない‼」

『でしょうね。ですからなるべくあなたには違う転生先をおすすめします。』

「…本当の事を言え‼でなければ儂はこのまま転生先をずっと選ばん‼」

『まぁ私が強制的に選んでもいいんですがね…わかりました。』

(…やはり裏があったのか…)

『もうかれこれ、なん世代もの間、魔族や人間、人間を基準とした他種族は争っています。これをどうにかしていただきたいのです。』

「勇者の真似事をしろというのか‼」

『いえ、そうではございません。』

「ならば…」

『わかりやすく言うならば平和、全ての種族が安心して暮らせるような世界を作ってもらいたいのです。』

『もう長い間…争いを見てきました。はじめはそのうちにやめるだろうと思って自主性に任せていたんですが…なかなかそうも言っていられなくなってきたのでね。』

「…なぜ?なぜ儂なのだ?他にも適任者がいたであろう‼例えば人間の勇者とか…」

『確かに、そういった意味では適任者はいたかもしれません。ですが勇者とはそもそもどんな人物と思いますか?』

「勇者とは魔王を倒した者、もしくは勇気ある行動や行い、他者の見本となるような行動をしたものの総称ではないのか?」

『おおむね、正解です。ですがあなたは先程まで魔王だったから聞きますが世の中は平和になったと思いますか?』

「ある意味では平和になったと言えるだろう…」

『…ある意味とは?』

「人間にしてみれば自分達を脅かす脅威が去り平和になったと言えるだろう。しかし、魔族達から見れば魔王が倒れた事により、いつまた人間達が攻めて来るのだろうと言う不安が増し、これではとても平和とは言えぬ…」

『そうです。私が考える平和とはあらゆる種族の壁を越え、皆が笑って1日を過ごせるのが真の平和だと思っています。』

(…儂と同じ考えだな…)

『ですから勇者では適任者になり得ないのです。勇者は人間達にのみ平和をもたらす存在ですからね。』

「…ふむ。」

『本当はあなたの自主性に任せたかったのですが…神である私の意思が入る事はあまりいいことではないですからね…では転生先はどうしますか?』

(…今さら魔族になった所で平和に出来るとは思えん…なるなら人間か?人間達の事を少しでも知れば平和に出来るかも知れん。)

「では人間がいい。」

『人間ですね?ちょうどいい、申し分無い物件があります。』

(…物件って…)

「…転生する前に1つ聞きたい。」

『…なんですか?』

「またここに来る事は出来るのか?」

『…あなたが死ねばまたここに来るでしょう。それまでは基本来る事は出来ません。どうしてです?』

「…なに、不備があった場合クレームをつけに来ようと思ってな。」

『…ハハハ‼そんな事はありません。』

「だといいがな…。」

『それと先に言っておきますが私がちからを貸せるのはここまでです。転生したあとは自力でなんとかしてください。』

「もとより期待はしておらん。しかし、神もなかなか身勝手だな。力を貸したり貸さなかったり…」

『元々、神とはそんなものです。身勝手で気まぐれで…まぁあてにされても困りますからね…これもまた神のいたずらかも知れませんよ?ではまた死んだら会いましょう。』

(…その言い方なんか嫌だな…)

そう言うと神が両手をうえにあげる。

『神の名において命ずる‼この者に人として、再び生をあたえたまえ‼』

その声を聞くか聞かないかのうちに目の前が白くフェードアウトしていく。

(…いったいこれからどうなるんだ?どんな人間の所に産まれるんだ…)

目の前が真っ白くなり、突然、真っ暗になる。と、思ったらまた徐々に明るくなる。

(…これが転生…)


~人物紹介~

魔王~ 本作の主人公、あらゆる種族を越えて仲良く笑いながら日々過ごしたいと思っている。勇者との闘いで、人間と魔族の束の間の平穏の為にわざと手加減し命を落とす。

アムド~ 魔王の側近、大魔王からお下がりで貰った鎧に命が宿った魔族。キャバクラ大好き。

勇者~ 人間達の勇者、おそらく人間達のなかでは1番強い。でも魔王よりは弱い。

神~ 神様、おそらく全知全能、

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