10万年後に失った声 2
「……(抜けたね)」
「抜けましたね」
痛みもなかったので首の矢を思い切って抜いてみたらなんと鏃にあたる部分が噛みちぎられたようになくなっていた。
「(アバ姉さんって金属もいけるんだ……)」
「まぼろしさん……先程から手で意思を伝えられていますが声は出ないのですか?」
そういえば手振りで意思が伝えられるから声を出そうと思わなかった。これってもしかして声以外でやり取りしてる人の感覚に近いのかも……というか見えてないのに何で分かるんだろう……空気の流れでも感じ取っているのかな……
「……!!」
あれ?
「……!!!!」
あれれ?
「(大変だ、声が出ない)」
「ええっ!?そんな!?」
そんなに驚かなくても良いじゃないか……今でも別に不都合はないんだし。
「まぼろしさんの美声が聞けなくなってしまうんですか!?」
美声? そんなことを思ったこともなかったけど、燕間はそんな風に思っていたのか……なんか照れるなあ。
「ええええええええ!!? 君の声がでなくなったああああ!!?」
遠くの方からデリの声も響いてきた。すごい声量だ。やっぱり超音波出せるような喉は違うなあ。
「どういうこと!?」
そんな世界の終わりみたいな顔しなくても……
「君の声はなくなるなんて……そんなの……海がなくなるようなものだよ!?」
僕の声ってそんなに重要なの!?
「(そんな大げさな……この通り意思は伝えられるしさ)」
「そういうことじゃないの!! 君の、声が、聞けなくなるのが、嫌なの!!」
燕間もそんなに首をうんうんって降らなくても……そんなに僕の声ってすごかったのか……イケボだったのかな……やっぱりなんだか恥ずかしいぞ……
『……う、うう、なんや……なんで身体裂けてるん。痛くはないけど……不便やわあ』
カツランさん……なのか、まだ判別がつかない、
「(燕間、警戒して)」
「はい、分かってます」
『どうしたん……そうや!! 坊の首の矢は……って抜けてはるねえ。それに傷もないし……どうなってるん?』
これは……戻ってる?
「(見てみよう)」
あれ? 視界が変わらない……どういうこと? 別に僕の意思でできたわけじゃないの!?
「(デリ、ちょっとつねって)」
「え? そういうのが好きなの?」
「(そうじゃないよ!! ちょっと涙を出したいんだ)」
「そうなの? してほしいことがあったら何でも言ってね?」
デリが僕の腕をつねった。あ、加減のこと言ってなかった……
「(ん゛ん゛っ!?)」
皮膚がねじ切れるかと思った……でもこれで涙は出てきた……痛いけど
『何してるん?』
「(糸みたいなものがもうない……やっぱりあれで操られていた、もしくは乗っ取られていたんだな……そうなると本体がいるはず……見つけられるか?)」
痕跡を見ようと目を凝らす。
「(見えない……ダメか)」
『またケガしてしまったんやねえ……ごめんなあ、守れんで』
『(それよりもカツランさんの身体は大丈夫なんですか?)』
『身体? ああ、こんなん飾りやもん。心配には及ばへんから安心してええよ』
飾り……ってことはなんなら根が本体ってことなのかな? 植物としては正しい……のか?
『いやあ、えらい目に合わせてしもうたなあ……とりあえず坊を撃った奴の首は落としたから堪忍なあ』
リコリツスさん……だっけ。言葉通り刈り取られた首を一個持っている。土竜の人かな?
『でもそれだけじゃあケジメには足りへんなあ……まあ良い頃合いやし……この首で許してくれはる?』
自分の首を指差す、いやいやいや唐突だし首なんていらないし
『(要らないです、だからそんなこと言わないでください)』
『せやけど……これじゃあ……あんまりやんか。勝手に連れてこられて殺されかけるなんてのは……通っていい道理じゃない。ここにいてもそれくらいは分かるわ』
だからって首なんてもらっても困る……どうしたらいいか分からないし。
『(ヤツドリさんからも何か言ってもらえませんか?)』
『あー、気づかれてますわ。出てきた方が良いんとちゃいますか? それにしてに坊にはヤツドリだなんて言ってはったんですねえ』
リコリツスさんの中にヤツドリさんの本意識のようなものが入っているの見えた。……やっぱり消えてないじゃないか。
『……御機嫌よう。怒ってます?』
『(いいえ。あなたのおかげで助かりました。まさかみんなに寄生していたとは思いませんでしたけど)』
『そこは本能みたいなものですから仕方ないのですわ。発芽はさせませんからご安心を、永い幽閉で制御が効くようになりましたの』
それはすごい、つまりいつでも乗っ取れるというわけですね。やらないと思うけど……少し怖いなあ。
『(実は僕を狙った人がまだ他にいるんです。他人に糸のようなもので干渉して操る能力があったんですけど……心当たりはありませんか?』
『なんですって……それはまずいですわね。一旦ここの全員に寄生して確かめる必要がありますわ』
それ本当にやって大丈夫なやつ?
『ちょちょちょ……ちょっとそれは待ってもらえます!? こっちでやりますから!!』
やっぱりダメだったみたいだ。
『3日で炙り出しますんで辛抱してくださいな……この通りです』
僕に頭を下げられても……
『(ヤツドリさん……待ってもらっても良い?)』
『むう……仕方ありませんわね……そう言われるのでしたら……不本意ですが待ちましょう。その間にあなたの喉も治せるか試してみましょうか』
『そういえば喋ってないねえ、どうしたん?』
『(傷はもうないんですけど……声が出なくなっちゃって……)』
『何か理由があるはずです、3日あれば色々試せますから必ず取り戻してみせますわ!!』




