10万年後に失った声
『しっかりするんよ! 気を抜いたら死んでしまうよ!!』
こえ、きこえる、へんじ、しなきゃ、
「ごぽっ……ぜひゅー」
ダメ、こえでない、ぼくは、どうなるんだろう?
『無理に喋ったらあかん!! 傷が広がってしまうやろう!!』
おこられた? こえだすのおさえよう、おこられるのよくない
『まだショックで朦朧としてるみたいやね? それなら覚醒させるわ。暴れるんやないよ』
こな? かおに……っ!?
『気つけや。少し強めの』
一気に頭がはっきりとする、そして戻ってくるのは痛みと熱さだった。
『おっと、暴れるのはなしや。傷が開いて死んでまうよ?』
何故だろう、カツランさんは僕を助けようとしているはずなのにどうして僕の身体は逃げようとしているんだ!?
『……なんで逃げようとしはるん? もしかして……嫌なん?』
悲しそうな表情に嘘はないように見える。でも拭えない、違和感が、どうして?
『坊の手当てさせてくれへんかなあ……死んでしまうって』
見えないものを見るしかない……でも涙なんてそう簡単に出たりは……いや違う、涙は常に出ているんだ……だから僕の問題だ。
『なんや……白い涙……?』
必要なのは意思だ、僕はパクさんに捧げた涙の代わりに手に入れたこれを使うんだ……
「っ!?」
視界が開ける、と同時にカツランさんの身体につながる糸のようなものが視認できた。これは何だ!?
『へえ……私の糸繰りが見えてるんやねえ……ならばもう芝居は必要あるまい。私の大義の為に死ね』
大義? 僕を殺してどんな大義が達成されるっていうんだ……でもこれで糸で何かしらの影響を受けている可能性が出てきたな……
『地の底に縛り付けられた者どもを解放するのだ!! 暖かな日の下へと導くのだ!! 邪魔するものは許さない……それがかつての故郷の同胞だとしてもだ』
かつての故郷の同胞……まさか!?
『前世にあって私の理想は夢想に他ならなかった。だがここではどうだ、未だ蒙を啓かれぬ愚民が大勢いる……ここならば私の大願は成就する!!』
大願……そんなの大抵ロクでもないことに決まっている……
『私が全てを管理する理想的な社会ができるのだ!! 誰も飢えず怠けず笑顔で働き続けるユートピアが!!』
……この人はいったい何時の時代から来たのか、今更そんなことを言う人がいるとは……
『ここは手始めだ。地下を制し地上を制する……その輝かしい第一歩を貴様のような小僧に阻止されてたまるか!!』
これがカツランさんの意思なのか、糸による操作なのか分からない。分かっているのはこのままだと僕は殺されるってことだ。
『貴様は放っておけば死ぬ、だが万が一にも生きていられては困るのだ。だから念入りに殺してやる。礎になるのだから光栄に思いたまえよ?』
喉の傷からは不思議ともう血は出ていない、だけど逃げれる気もしない。いつのまにか木の根で僕に周りを囲うようにして逃げ道を塞いでいる。
『何か言いたまえよ……遺言くらいは聞いてあげようじゃないか。ああすまないな……その喉を貫いたのは私の撃った矢だったなあ? じゃあ今際の際の言葉も残せないじゃないか』
嫌な笑い方をするな、心底哀れんだ笑みだ……そんな風に人を見下す奴は足元を掬われるんだ……
『ああ……素晴らしいなあ。この万能感、こんなものを味わったのはいつだったか……これが正義なのか。ふふふ……正義は我にあり!!』
自己陶酔に入っている……そんなことをするくらいなら早く攻撃すればいいのに……だから取り返しのつかないことになる。
『さて、私にはこれからやることが山のようにあるんだ……そろそろ後悔の時間も終わったろうし……死んでもらおうか』
僕には何もできない、だからこの状況でもできることは話すことだけだ。でもそれは今封じられている。でも、言葉は、意思の疎通は音だけでやるものでもないんだ。
『(お願いします、ヤツドリさん)』
目の動き、手の動き、その他の些細な動きでも僕は意思を伝えられると分かった。そして今の目ならカツランさんの中にいるヤツドリさんのこともはっきりと分かる。おそらくあの場所にいた人全員にヤツドリさんは寄生していたんだろう。ほんの少しだけしかいないみたいだけど動きを止めるくらいなら……
『……何をした……!?』
身体が急に止まったことに驚いているようだ、それはそうだろう。自分の身体が自分のものじゃなくなった経験なんて誰もしたことがないだろうから。
『(お前に言うことは1つもない)』
『何だ……手の動きだけで……どうして意思が伝わるのだ……テレパシーか!?超能力者なのか!?』
どちらかと言えば手話だけど、説明する必要もないだろう。今がカツランさんの素なのかそれとも操られているのか分からないうちは手の内は明かさない。
『お前は……話すしか能がない筈だ!!』
『(その通りだよ)』
よく分かっている。僕は話すことしかできないんだ。でも助けを呼ぶくらいはできるんだ。今の僕なら手を打つだけで良いはずだ。
『(助けて!!)』
音が響く。その音が消えるかどうかという瞬間に既に羽は到着していた。
「ぜえええええええい!!」
長い鞘が地面に突き刺さる。
「逆風」
燕間の抜刀しながらの切り上げがカツランさんの胴を裂いた……ここの世界の人は丈夫だから死んでないと思うけど……大丈夫かな……
「まぼろしさん、峰打ちですから安心してください。何かおかしなことが起こっていると感じました」
もしかしてそんな事まで伝わってたの……我ながらデタラメなことを……
「あの……矢が……大丈夫なのですか?」
……大丈夫じゃないと思う




