演説のススメ 3
『ほんで? なんや困っとる風やったけどなにかあったん?』
……本気で聞いているのか分かっているうえで聞いているのか分からないなあ……聞いても答えてはくれないと思うけど……
『実はここの人たちがどんな話を怖がるのか分からなくて……なにか助言がもらえればありがたいんですけど……』
『怖いものなあ……そうやねえ……順序がおかしいかもしれんけどここの人間は地上が怖いんよ……なにせ地上に耐えられずにここまで潜ってきたような連中やからね』
『それは……追い込まれたっていうことですか?』
迫害されたのかも……ただでさえここは人の定義が曖昧だから何かの拍子にそういう風なことが起きても不思議じゃないな……人種とかそういうレベルじゃないみたいだし……
『へ? 違う違う。単に地上が肌に合わないっていう話や。日差しとか雨とかそういう変化を好かん連中がまとまって地下に向かったってだけやから』
『そうですか……虐められたわけじゃなくて良かったです』
『いじめる? まさかあ、内輪もめならいざ知らずよその種族に手を出したらえらいことになるやん。下手したら戦争になってしまうやんかあ。そんなことせえへんって』
……人類は良い方向に進化したみたいだ……たぶん人類じゃない方向の進化だけど……
『地上が怖いって言ってもそれはもう神話とか昔話の類でなあ、今の奴らは地上の事なんて何もしらん。地上とつながっているのは長くらいなもんなんよ……だから相当盛った話をしてもバレへんから安心してええよ。それこそこの世の地獄みたいな感じで話してくれたらええのよ』
……それならどうしていきなり地上を目指すような層が出始めたんだろう……それくらいの知識レベルならそれこそファンタジー世界に行くレベルの話なんじゃ……
『あの……どうして地上に行こうとする人がいるんでしょう。そんな伝わり方なら地上があることさえ信じていない人もいそうですけど……』
『ん~……これは言わへんつもりやったけど……疑問を解消しないのも良くないしなあ……実はな……地上の情報を持ち込んだ奴がいるらしいのよ……それが誰なのかまでは分からんけどなあ……そのせいで若い衆が感化されたらしいわあ』
地上の情報を持ち込んだ……? 一体なんの目的で……地下に不満があるのか……それとも地下の支配でも目論んでいるのか……いきなり地上に攻め込んだりするのは現実的じゃないだろうし……地盤を揺らがせてその隙に乗っ取るっていう考えなのかも……
『ま、その辺のむつかしい話は長達の領分やから。坊は演説の準備をしとったらええわ。終わったら甘やかしたるから頑張りや?』
頭を撫でられている……少し固いなあ……根っこの派生みたいな手だから当然か……
『ほなな~』
行ってしまった……この情報で話の内容が固まってくれれば良いけど……
「……何してるの?」
「なにって……そんらの……おみじゅをのんでるんらよお?」
「そほですよぉ? まぼろぉさんものみましょうよう?」
なんか酔っ払いが2人いる……待ってあれ水だよね? お酒みたいな感じは全然しなかったけど……匂いもないし……どういうこと?
「ねえねえ……むししないでよお……ほらあ……おいしいよお」
「ぐぐいっと……いきましょうねえ……えへへ……まぼろぉさんの手は柔らかくて気持ちいいでふねえ」
すごい絡み酒……手のひらにすくった水をぐいぐい押しつけてくるし……というか酔ってるのに力つよいなあ!!
「待って待って落ち着いて!!」
「いーやー!! 待ってたらきみはまたどこかにいっちゃうんでしょー!!」
「もうおいていかれるのはやですぅー!!」
うわあ……なんか地雷踏み抜いたような……僕のせいなんだけどさあ……覚えていないことで責められるのは辛い……何も言えなくなるじゃないか……
「うぅ……どうしよう……」
「すきありぃ!!」
「うわっぷ!?」
水鉄砲みたいな感じで口に入れられた!? そんな精密射撃できるのアレ!? まずいよ僕まで酔ったらっていうか僕未成年だし……ってあれ?
「……水だねえ、普通に」
「おいしいでしょお?」
「まさにかんろですよねえ?」
本当に水なんだけど……2人にはお酒みたいな働きをしている? そんなことある? 非常識なこと自体は何回か見ているけど……僕には分解できて2人には分解できない何かが入っている水なんだろうか……でもこれ地底湖の水だって……
「……酔ってるフリしてる?」
「何言ってるのお? よく分からないよぉ」
「ふりってなんですかあ……ひっく……すぶりならできますよお?」
「うひゃあ!?」
燕間さんが長い刀で素振りを始めた!? 危ない!? なんであんな覚束ない感じでビュンビュン振れるの!?
「本当に酔ってるのか……どうしたら酔いが覚めるんだろう……」
「えーい!!」
「うわあ!?」
デリさんがのし掛かってきた!?
「たーのしーねー? きみはどう?」
「いや大変ですよ……」
酔った人の対処法なんて知らないよ……どうしよう……




