演説のススメ 2
デリさんと燕間さんとの打ち合わせが始まったのはいいんだけど……どうにも内容が定まらないまま時間がすぎてしまった。
「う~ん……脅すって言ってもここの人たちが何を怖がるかが分からないから難しいなぁ……」
「うちの村だったら何を怖がるかすぐ分かるんだけど……ここは海でもなければ私と似たような見た目の人もいないからね……」
ミミズみたいな人は違うの? と言ったら怒るんだろうなあ……たぶんそれぞれに明確な線引きがあるんだろうし……
「えんまの所ですと幽霊のような怪談が怖い話の定番でしたが……今はそういう類のお話をするわけではないですよね」
「そうだね……怖い話と脅す話はたぶん違うね」
そもそも幽霊っていう概念があるかどうかが怪しい……そこら辺の話をカツランさんに聞ければ良かったけど今はいないし……
「どうしよっかなあ……」
呼んだら来てくれたりしないかなあ……でもそうなると僕たちのことを常に盗聴している疑惑が出てきてしまう……まさかね……でも一回やってみようかな……
『カツランさーん……ちょっと聞きたいことがあるんですけど……』
小声で言ってみた、こんな音量で聞こえてくるとしたらこれはもう疑惑ではなく確信になると思う……まあ盗聴しても僕たちの言ってることは分からないっぽいから純粋に僕の呼びかけを待ってるということになるのだろうけど
『おーい差し入れ持ってきたよ。吸いすぎる根はすぐ腐る言うてな、一気にやりすぎるのも身体に悪いからちょっと休んだらいいわあ』
……微妙な感じで来たなあ……これは聞いてて来たのかたまたま来たのか判断がつかない……うーんどうしたものだろう……また何か機会があったら試してみようかな……
『湖の美味しい水やでえ、たあんと飲んでな』
出てきたのは大きなボウルのようなものに並々と水が入ったものだった……一体何リットル入っているんだろう……こんなにあって飲み切れるかな……地底湖があるみたいだけどそのまま飲んで大丈夫かな……おなか壊さないといいけど……
「え? これってまさか……伝説の底の海の水?」
「聞いたことがあります……底の国にある巨大な湖の水は天井の甘露のごとき逸品だと……まさか飲む機会が訪れるとは……!?」
そんなにすごい水なのか……飲んで……いいのかな……なんか作法とかあったりするのかも……
『なんやえらい驚いてはるねえ。飲んでも大丈夫な水やって坊から教えてやってえな』
『それが……伝説の水とかなんとか……そんなにすごい水なんですか?』
『へ? そんなことあらへんよ? ただの水やって』
なんだやっぱり普通の水なのか……良かった……それなら特に気にせず飲めるね。
『えっと……なにか管のようなものってありますか?』
さすがにこのボウルに口をつけて飲むわけにもいかないからね……ストローとまではいかなくても何かほかに代用になるものがあればいいけど……
『くだ? ああそうやったねえ。上の人は水を吸い上げられへんのやったねえ。じゃあ少しだけ待っとってなあ』
んん? カツランさんの根っこがボウルの中に……そしてポンプのような動きをしている……吸い上げているんだろうけど……そこからどうするんだろう……
『それじゃあ、失礼するわ』
え? どうして近づいてくるんだろう……なんで口をとがらせて……え? え?
「そこまでですよ?」
「ひいっ!?」
目の前に刀身が!? 燕間さんが怒ってる!?
「まぼろしさんに何しようとしてるんですか……く……くく……口吸ひなんて……許しませんから!!」
くちすい……? え? 僕に? カツランさんが?
『……バレたようやね? 坊を驚かせようと思たんやけど……止められてしまったわあ』
本当だったみたいだ……そりゃあ驚くけど……本気だとは思えない……
「……」
喋らないデリさんからも何かしら殺気のようなものが放たれている気がする……もしかしてデリさんも攻撃の準備をしていたのかな……?
『もうせえへんからあっちの子に身体振るわせるの止めてって言ってくれる? あんまり振るわされると火が出そうやわあ』
『え!? そんなことになってたんですか!?』
『そうやで? たぶん中の水が沸々しとるから坊には飲めんなあ』
声の振動で温度を上げる? 電子レンジじゃないんだからそんな馬鹿なことできるわけ……できるわけ……できてるのか……よく見たらカツランさんの身体から湯気が出てるし……早く止めさせないと!!
「もうしないって言ってるから2人とももうやめてあげて、そんなに怒らなくてもいいでしょ!!」
「まぼろしさんがそう言うなら……」
「むう……仕方ないね」
2人とも止めてくれたみたいだ…良かった……話せば分かってくれるって良いなあ……あれ? どうしてこんな風に思うんだ……まるで話が通じない相手と会ったことあるみたいに……そんなことあったかな?




