演説のススメ
『地上は非常に危険な場所です、三歩歩けば皆さんの身体は剣林弾雨にさらされることになるでしょう……私の腕を見てください。両腕とも違いますね? これは地上で失った物を無理矢理補ったものです……皆さんもこうなりたいと思いますか?』
目の前にいるたくさんの人たちは青ざめた顔をしている……どうして僕がこんな演説をしなくちゃいけないかはちょっと分からないんだけど……ここまでの経緯はこうだ
『ごめんなあ坊……姐さんが坊に地上の話を若い連中にしてやって欲しいって言うとるんよ。坊には無理をさせられんって言うたけど……どうしてもってなあ……ごめんなあ……』
『大丈夫です……やります』
半泣きでカツランさんが言うものだから恩もあることだし断ることなんてできやしない……でも僕の頭の中に地上という場所の記憶は全くもってない……非常に困った……
「はぁ……どうしようかな……デリさんと燕間さんは地上のことを話せって言われたら何か言えたりする?」
「地上の……? どんな話?」
「えんまができることでしたらなんでも話しますけれど……」
あれ……そういえばこの2人の言葉は個々の人には分からないんだよね? ということは2人の言ったことをオウム返しにすれば何とかなるんじゃないかな? ここまできて頼るのを渋っても意味は無いし……こうなったらとことん頼ってしまおう……
「僕がここの人に地上のことを話さなきゃいけなくなったんです……でも僕に記憶が無いから2人に助けて貰おうと思って……ダメですか?」
「ぜんっ……ぜんそんなことないよ!!」
「なんなりとお助けいたしますとも!!」
よかった……そういえばどんなことを話したらいいんだろう……聞いておかなきゃ……
『あの、どんなお話をしたら良いんですか?』
『それがなあ……多少嘘でもええから脅してくれって言われてるんよ……実を言うとな、地上に向かおうとしてる若い連中を思い直させるための話をして欲しいってことよ』
脅し……つまりは長の人たちはここの人たちが地上に向かうのを良しとしていなくて……それに反対して地上に向かおうとしてる人たちを抑えたいってことか……そのための脅し……地上を知っているものからの直接の話という説得力でねじ伏せようってわけね……
『なるほど……分かりました。やってみます』
『本当にええの? まだ無理しちゃいけん身体なんよ? 終わったらめいっぱい甘えてええからな?』
「わぷっ!?」
抱きかかえられた……肌も木みたいなのかと思ったけど……そんなことはないみたいだ……柔らかくてほんのり温かい……
「ぎりっ……」
「ギ……ギ……」
うわあ!? 何かいきなり背後から不穏な気配がするぞ!? あと歯ぎしりの様な音と硬質のものが擦り合う音が……!?
『なんや後ろの子らは怒ってるみたいやけど……なんかしたん?』
『いえ……その……たぶんカツランさんのせいだと……』
『なんでや? 怒らせるようなことしたかいな?』
それは僕も聞きたい……なんで怒ってるんだろう……でもこのままだとまずいのは確実……どうしたら……
「君とその人が仲良しなのは分かったから……打ち合わせでもしようよ」
「まぼろしさん……話すことの確認が終わりましたら内容を決めませんといけません……さあこちらへ」
腕でも掴まれて連れて行かれるかと思ったけど……そんなことは無いみたいだ……雰囲気よりは怒っていない……?
「……(ここは我慢……ここで君を無理矢理引きはがすことは可能……でもそれをするとそこの根っこに負けたみたいだから絶対に駄目……あくまで君は自分の足で私達のところに来ることに意味がある……君が自分で私達を選ぶことに意味があるんだ……!!)」
「……(大丈夫ですよえんま……ここは引いてどっしりと構えるところです……全てはまぼろしさんの意のままに……でもそこの根の者はなんだか好ましくありません……えんまは信じていますまぼろしさんはえんま達のことを選んでくれると)」
なんだろう……メッセージ性のこもった眼差しを向けられているような気がする……でも言って貰わないと分からないなあ……
『カツランさん、準備がありますので放してください』
『もうちょっとこのままでもええんやけど……準備の時間は多い方がええもんな……じゃあ頑張ってな』
放して貰えた……良かった心なしか2人の圧力も収まったような気がする……カツランさんとくっついていたのが気にくわなかったのかな? それじゃあまるで2人が僕のことを好きみたいじゃないか……まさかそんな……こと……
「いやいや……ないない……自意識過剰だよ……」
「どうかした?」
「お加減でも悪いのですか?」
流石にそんな妄想を2人に垂れ流したら引かれてしまうだろうから……これは僕の心の中に厳重にしまっておこうかな……
「なんでもないよ……地上のことを放して地上に行きたくないと思わせて欲しいって言われたんだけど……できる?」
つまるところ地上のネガティブキャンペーンをすれば良いんだ。
「やってみるよ」
「お任せください!!」
2人がいれば百人力だ……これで大丈夫だろう……




