消えたと思いました? あれは嘘ですわ!!
さて……第一段階は終了ですわ……名も知らぬ恩人の少年には悪いですけれど……せっかく蘇ったのです……ただ消えるのはあまりにももったいないというもの……できる限りのことはさせていただきます。手始めにわたくしにあんな仕打ちをした者どもにご挨拶をしなければなりませんね?
「驚いたわあ……カツランに伝えていなかったのがまずかったんよ……まあアレを処分できたから良しとしますわあ……昔の神さんを殺してもうたけど……なんや障りでもあったらいややなあ……」
あれは……わたくしと同じ根と花の眷属の今の長……縛り上げてくれた張本人ですわね……その障りを今から起こしてやるから覚悟することですわ!!
「……そこに何かおるなあ……? 悪いこと言わんから出てき、今ならまだ半殺しくらいですましてやるかもしれへんよ?」
わたくしに気づくくらいの能力はありますか……ですがもう意味はないです。
「お久しぶりですわ、先ほどぶりかしら?」
「っ!? 生きて!?」
うふふ……今になって根を張り巡らせても無駄ですわ……わたくしの声が聞こえたということはもう終わりということですから。
「諦めなさい……アイビーという名を知っているなら意味が分かるはずです」
「……蝕みの神アイビー……とっくの昔に人格なんて消え去ってると思うてはりましたわあ……随分とお元気そうで何よりですわぁ……」
良かった、名前の説明からしなければいけないとなると少しばかり面倒でしたから……でも昔の名はあまり好きではないです、今の私はヤツドリですから。
「それで……何が目的ですか……? 復讐でもしにきはったんですか?」
「そんな、まさか。わたくしは感謝したいくらいですのよ? 肉体という軛から解き放ってくれたんですからね?」
「そう……やったのか……あれ自体が……封印……ああ……失敗した……底の底にでも放り投げてしまえば良かったんやなあ……」
そうされていたらわたくしは本当に永劫の封印にあったでしょうね……それはもうもしもの話にすぎませんが……
「復讐やないなら何が目的ですのん……見当もつかないですわぁ」
「少し聞きたいことがあります、あの少年をここに引き込んだ目的はなんですか?」
生け贄とか食料とかそんな答えをしたなら仕方ありません、早晩この場所はわたくしの支配下に入るだけですわ。
「あれはお客さんです……地上に進行したいとかいう馬鹿共に地上の凄惨さを教えてもろたろうと思うとったんです」
「……語り部ということですか?」
「そうとも言いますねえ、だからそれが終われば上に返しますしなんなら土産の1つでも持たしたろう思ってました……」
なんだ……随分と優しくなったものですね。反乱分子なんてただ殺して大地に還すのがわたくし達の流儀だったはずですが……良い時代になったということなのでしょうかね……?
「そうですか……ですがその役割はたぶんあの少年にはできませんよ?」
「なんでですか? あの坊くらい達者に喋れるもん居ませんよ?」
そういえばあの子は何の苦もなくわたくしと話していましたわね……どう見ても同族じゃありませんし……おそらく迷い込んだ人間なのでしょうね……話す能力とはまたパッとしない力を授かったものですが……あの子にはそれくらいでちょうど良いのでしょう。
「あの子に記憶はありません、厳密には無いのではなく蓋をしてしまっている。今のあの子にはここに来てからの記憶しかないですわ」
「へ? それ本当ですか?」
「わたくしが寄生していたのですから間違うはずもありません、何かよっぽど辛いことでもあったのでしょうね。鍵は恐らくあの2人の娘でしょう」
そこに関してだけなにかこじ開けられるような可能性を感じました、むしろそこから開けないと記憶の蓋は開かないと思って良いでしょう……
「それは……なんとも……困りましたなあ……明日には若い衆を集めて講演してもらおうと思うてましたのに……」
大勢の前での演説ですか……それはもしかしたら良い刺激になるかもしれませんね……上手くやれば記憶を呼び覚ますことができるかもしれません……
「それはそのまま行いましょう……地上の話をすれば良いならいくらでも手法はあります。それで本当の記憶が呼び覚まされるかもしれません」
「……まあ嘘でもビビらせられれば良いですけど……本当に大丈夫ですかあ?」
「あら? 何を言っているのかしら? あなたに拒否するなんてことができるのかしら。わたくしのことを御存知だったはずですけど?」
「……乗られた者は悉くかの者になり、そして二度と戻ることは無く。荒ぶる神にあらねど神々はかの者を温かき檻に閉じ込めたもう……」
あら、そんな風に伝わっていたのですわね。温かき檻だなんて随分と良い言葉にしましたね、あんなの永劫の苦しみを与える拷問に近いものでしたけどね。
「あなたはまだあなたのままで居たいのではなくて?」
「……降参ですわあ……言うとおりにします……全く神さんに関わるとロクなことになりませんねえ」




