底に沈む花 2
話しかけられている……声は多分中に入ってた人だと思うけど……姿も見えないし……どこから話しかけてきているんだろう……?
『身体はさっき潰されましたから探しても無駄ですわ、でも気に病まないでくださいましね。わたくしにとって肉体は檻以外のなにものでもないのですから』
肉体が檻……? 一体何を言っているんだ……そんな台詞は身体を持たない生き物でもない限り出てこないはずだ……精神生命体だとでも言うのか……そんなの……
『まさか……神様……ですか……?』
『かみ……神ですか……いつかはそう呼ばれていたこともあったような気がしますが……信仰も役割も失ってただの肉として扱われていたわたくしはもうその資格を失っているでしょうね……』
忘れられた神様……? それが化物として封じられていたと……ちょっと何言ってるかよく分からない……聞いた僕が言うのもあれだけど神様ってなに……? それにここは地球なんだから封じるとかちょっと……科学的じゃないっていうか……魔法のあるファンタジー世界じゃないんだから……
『あの……どうしてあんなことに?』
『聞いてくださいますか……聞くも涙語るも涙のわたくしの悲劇を……』
あ、長くなる奴だこれ。
『実はわたくしは根と花の眷属から生まれた神だったのですが……ある能力を持っていまして……それが原因となってわたくしは肉の檻に閉じ込められたのです……』
能力……触った者を殺すとかそんな物騒な能力だったんだろうか……それなら閉じ込められるのも分かるような気がするけど……
『その能力というのが寄生なのです……宿主を選ばぬ寄生能力がわたくしにはありました……それに気づいたときには既に手遅れで同族の半数はわたくしになってしまっていました……それに危機感を抱いた他の神々に肉の檻に入れられたというわけなのです……』
短かった……でもまあ仕方ないかな……たぶん僕でもそうしたろうし……無差別な寄生能力なんて危険すぎ……あれ? 寄生能力……? それはつまり……
『お気づきになりましたか……実はもうわたくしはあなたに寄生してしまっているのです……』
『そう……ですか……このままだと僕はどうなってしまうんでしょう……』
乗っ取られるのか……死んでしまうのか……どちらにせよもう手遅れだろう……頑張った結果がこれだと思うと……少しやるせない……せめて2人のことは思い出してからが良かったけど……
『いえ、特にはなにも』
『そうですよね……僕はもうておく……は?』
なんて? 寄生能力が危険だから閉じ込められたんじゃ……?
『あなたの身体はその……水が合わないというか相性が著しく悪いというか……わたくしの侵食が進まないようでして……ですから特には影響はないものと思われます』
『本当ですか!?』
たぶん1000年の間に進化した生物用の能力だから旧世代の僕には寄生が上手くできないってことなんだ……良かったあ……
『でも、これからあなたはどうなるんですか? 消えてしまうとか……?』
『ああ、それなら心配はいりません。肉体などわたくしには檻同然ですが……少しの間融通するくらいの権能はありますので』
少しの間の融通……? 何か肉体を持ってやりたいことがあるのかな……?
『あなたの短い命が尽きるまでの間くらいなら……わたくしは肉体を維持できるでしょうし』
え? 僕の短い命……もしかしてついてくるつもりなのかな……?
『わたくしの事は……そうですね……ヤツドリと呼んでくださいな』
『えっと……拒否権とかって……』
『まさか嫌なんですか!? それなら仕方ないです……この世に未練もありませんし潔く消えるとしましょう……わたくしの永遠の責め苦を終わらせてくださってありがとうございました……』
消えるの!? せっかく助けたのに……それはなんだか寝覚めが悪いような……でも手のひらで転がされているような……うーん……
『それでは……速やかにいなくなりましょう……さようなら……』
『あ、ちょっとまって!!』
ああ、迷っている間に本当に消えてしまった……でも自称神様なんてついてこられても困るし……永遠の責め苦っていうのから解放できたならそれで良かったのかもしれない……言い訳だけど……消えてしまったものはしかたない……これからはもっと早く決断できるようになろう……
『坊はいったい何を話してはるんやろうなあ……なんかずっと独り言してるようにしか見えへんなあ……ショックを受けすぎて頭の根の張り方が緩んでしまったんやろうか……?』
「またなにかと話してる……聞こえないから音以外のやりとりで話す相手みたいだね。でもあれだと気が触れてても分からないような……」
「まぼろしさんが遠くに行ってしまってもえんまはお仕えします……!!」
なんかボロクソに言われてる……もしかしてヤツドリさんってテレパシー的なもので話していたのか……




