知らなければならない隣人
『取り込み中のところ悪いんやけど……飯にしような、坊辛そうやからちょっと許したってな』
カツランさんが僕を腕の中に隠してくれた……どことなく優しい香りがする……落ち着く……でも……これから逃げて良いんだろうか……僕はこれで良いのかな……本当に……このまま知らないままでいいのかな……それで僕は……良いのかな……?
「……何を言ってるか分からない……君から教えて」
「お願いします……まぼろしさん」
これを伝えていいのかな……それでこの場を収めても……意味は……
「教えて?」
「え……うん……ご飯だって……」
「そう、じゃあ食べようか。ご飯食べないと死んじゃうからね」
あれ……案外あっさり……デリさんと燕間さんはそれで良いのかな……僕にその……なにか言いたいこととか……
「大丈夫ですよまぼろしさん……私達はもう焦りません。ゆっくりと時間をかけることを厭いません。結論を焦っていても駄目なんだと分かりましたから」
「え? そう……なの……」
「うん、大丈夫。君に思い出せとかそんなことを言う資格は私達にはない……だから一緒に居ることを許して欲しいな」
それくらいなら……まあ……別に……良いのかな……僕は2人のことを分からないけれど……それを拒むことをするのも……あんまりしたくない。
『ほんで、そこの2人は何を食べはるん?』
2人は……何を食べるんだろう……僕の知らない僕がいるとしたなら……知っていたのかな……?
「あの……2人は何を食べるんですか?」
「そうだなあ……君が食べろって言うならなんでも食べられるけど……そうじゃないなら……あんまり熱いものは駄目かな……」
「燕間はなんでも大丈夫です。なんでも食べられます」
そうなんだ……デリさんはお魚さんっぽいから……体温が低いのかもしれない……蜻蛉っぽい燕間さんは肉食かと思ったけど雑食らしい……
『あんまり熱いもの以外は大丈夫みたいです』
『ほうか……じゃあ坊とは別のものになるなあ……肉は大丈夫か聞いてもらえる?』
確かに僕でも熱かったあれをデリさんが食べたら火傷じゃ済まないかもしれない……聞いてくれて良かった……
「食べられないお肉とかありますか?」
「焼いた肉はあんまり……できれば生のほうが好きだよ」
「えんまもそうですね。火は通さない方が肉は好きです」
生でいくんだ……流石にそこは予想していなかった……消化器系は僕とは桁違いに丈夫みたいだ……羨ましい……
『お肉は大丈夫だそうです、それとできれば生がいいと』
『へ? それでいいん? じゃあ簡単やね。少し待っててな、すぐにできるわ』
行ってしまった……沈黙が場を席巻する……気まずいなあ……僕から何か言えるような状況でもないし……どうしようかな……
「……こんなことを話すこともなかったね……ご飯をゆっくり食べたこともなかったような気がする……もっと君とお話しておけば良かったね……」
「一緒に居たのは短い間ですから……えんまはまぼろしさんのことを良く分かっていません……お仕えしたいとは思っていても分かろうとはしていなかったのですね……」
どうしよう……なんかすっごくしんみりしちゃってる……余計に喋りにくい……!! 何か明るい話題は……そうだ……自己紹介しよう……初対面……ではないみたいだけど……初対面みたいなものだし……ここはちゃんとした方が良さそうだ……頑張れ僕……ここで動かずにいつやるんだ……!!
「えっと……名前は思い出せないんですけど……僕はここでは坊って呼ばれてます……それで1000年前にコールドスリープをして……それで目覚めました。記憶は朧気ですけど……そのよろしくお願いします……あれ?」
なんかキョトンとした顔をしている……僕はおかしなことを言ってしまったのかな……? 謝ったほうが良いかな……?
「自己紹介……? 君が? 今更? ぷっ……ふふふ……じゃあ私もやろうかな……私の名前はデリ……鯨狩りの村にいたところを君に連れ出してもらった鯨の子だよ……覚えていないだろうけどね。特技は声と耳で色んなものを見たりできるよ。よろしくね」
鯨の子……というよりイルカみたいだけど……超音波で内部構造を把握したりできるってことなのかな……すっごいなあ……
「えんまも倣いましょう……えんまは芦原の国でまぼろしさんに空をいただきました。生来より目は見えておりませんが色々ありまして羽も失ったところでまぼろしさんにそれを取り戻してもらったのです。特技は……そうですね真似事の剣術と全身の肌で感じることです」
空を……いただく……? 僕は一体なにをしたんだろう……というかこれで僕は以前この2人と会っていたことが確定したわけで……いったい僕はこの2人と何があって分かれて地下にいるんだろう……分からないことが増えてしまったなあ……
「そういえば僕はここで何をすれば良いんだろうなあ……」




