追うもの、守るもの
少年が地下に招かれる時に聞いた声は幻聴などではなかった。金より預かっていた出入りの札を用いてデリと燕間は少年の後を追っていたのだ。そして、デリと燕間は目の前で少年が土に飲まれていくのを見たのである。
「そんな……底隠しなんて……ただのおとぎ話だと思ってたのに……」
「底隠し……なにそれ……どこに連れていかれたの……!!」
「底です……この世の底にある場所に連れ去られたんです……」
デリがうなだれた燕間の肩を掴む。水かきが破れそうなほどに力が込められている。
「どうやったらそこに行けるの!? 早く行かないと……私たちは許してもらわないといけない……そうでしょ!!」
「無理……です。底に行けるのは底の住人だけ……そうでなければよほどの情報通でない限り……あ」
燕間の瞳に火が灯る。すぐさま立ち上がると永世京を指差した。
「いました、よほどの情報通。諦めるのは聞いてからでも遅くありません」
「……早く行こう……!!」
「はい!!
2人が向かう先は情報をも商品として取り扱う大商店。地下へと至る手段を手に入れる可能性に賭けて全力で駆ける。
『李気さん!!情報を買いたいんです!!』
『あ? なんだいきなり……まあ良いけどね……こっちに来な』
店の前に立っていた李気がこちらへ来いと顎をしゃくる、しかしそれは以前通された地下ではなかった。そんなことを気にも留めず燕間は詰め寄った。
『底に行きたいんです……行き方を教えてください……!!』
『ん~…駄目だね』
ふわりと燕間の身体が浮く、己の意志ではなく李気の腕によって持ち上げられていた。
『ずいぶん無茶をしてるね、複眼も濁ってるし……甲殻もボロボロだ……そんな状態でよくもまあ底に行きたいだなんて抜かしたもんだね』
『放してください……えんま達は行かなきゃならないんです……!!』
じたばたと暴れる燕間だがその抵抗に力はほとんどない、身体が心についてきていないことは明白だった。
『そっちの子もボロボロじゃないか……身体を万全の状態にするのが先だよ……どうせ連れが底に引きずり込まれたんだろう? それなら安心しな、取って食われたりはしないよ』
『本当ですか!?』
『本当さ、底隠しで招かれた奴は国賓だからねえ。もしかしなくても好待遇だよ』
李気の言葉に燕間の気が緩む、その瞬間を狙いすまして拳が燕間の顎をかすめた。かくんと燕間の首が折れる。それに驚いたデリもまた李気の攻撃を避けることはできなかった。
『それでも向かおうとする気がしたから強制的に休ませてやらないとね……まだ子供だってのにいろいろ背負いすぎだよ』
ぐったりとした2人を背負って李気は店の奥へと消えていった。
※※※
『姐さん……連れてきた子の検査終わりました』
『カツランお疲れ様や、ほんでなんかおかしな所とかあったん?』
カツランと呼ばれたアルラウネの成人は顔を曇らせた。思い出したくもないものを思い出してしまったようだった。
『それが……あの子の身体……見た目以上に酷い有様でした。確かに見た目と中身もおかしな混ざり方してるとこありますけど……それがもともとそうだったようなくっつき方してはるんでそこは別に問題ないんです』
『じゃあ何が問題なんよ?』
カツランがきつく拳を握る。
『あの子……かなり長い間まともに休んでません……新しくついた部分の効果なのかは分かりませんけど……もともとの身体がものっそい脆くて弱いのに当然みたいに他の部分に合わせて動いてはったんでしょうねえ……痛み方が尋常じゃないです……あのまま動き続けてたら死んでましたわ……きっとあの外付けの腕とかつけた奴は人のことよう分かってなかったんですねえ。可哀そうでしたわ……あんな子供が無理して動き続けなあかん状況なんておかしいですよ』
『死なれたら困るわ……せっかく切り札として呼んだのに……せやねえ……カツランって薬師やん』
『そうですけど……姐さん?』
カツランと相対したアルラウネの長がニヤリと笑った。
『あんさんがあの子面倒見たってや、そんで万全になったら話してもらお。それで万事解決やんなあ?』
『姐さん!? そんなん無理ですって上の人のことなんて分かりまへんもん!!』
『頼んだで~~……』
アルラウネの長が移動してカツランだけが取り残された。長の言うこと絶対、逆らっても死ぬことはないが死ぬような目にあうことは十分予想がついた。
『姐さん……無理ですって……あんなんどうすればいいんですか……根も葉も花もない人なんてどうしようもないですって……』
そういいながらカツランの脳裏には心も身体もボロボロの状態で招かれた少年の姿が浮かんでいた。成人してもいないだろう少年だ、それがあんなに酷い有様になる。それは許してはいけない悪徳だとカツランの心は告げていた。
『地上ってのは……ほんまに恐ろしい所やわ……せめてここにいる間くらいはいい思いしても神さんの怒りは買わないやろ……ほんならうんと甘やかしてやらんとな……そうやなあ……起きた時に食う飯でも作っといたろ……あれ? 上の人って何食べはるん?』




