10万年後の地下事情 2
土の中を進んでいく割には息苦しい感じはない。どこに向かっていくのかも分からない……それでも抵抗しようという気にもならない……どうしたんだろう……異常事態のはずなのに……何をする気も起きないんだ……
「ああ……なんかどうでもいいなあ……」
ぼうっとしていたらいたら広い空間に放り投げられた……なんか懐かしい感じがする……そっかモルト母さんのときにも放り投げられたっけ……
「いたっ……くない?」
もふもふとした土の上に落ちたおかげで痛くはなかった、腐葉土みたいな感じ……ふっかふかでベッドのように思えてきた。もう寝てしまおうか……。
「……すぅ」
『ええ? 寝てはりますの? 大物というか無神経というか……とりあえず暴れたりはしないでくれるのなら好都合やね』
何かむずむずする……肌の上を何か細いものがはい回っているような……そんな感じ……まあいっか……それを払いのける気にもならない……
『あらら? まるで抵抗がない……どういう身体してますの……うわあ……こんなの初めて見ましたわ……ぐっちゃぐちゃやないですか……右腕は水のもんで左腕は鱗持ちとか意味が分かりません……胴と足も見たことないし……なんですのんこの人……』
だんだん上がってきている……ような……目とか鼻とかに入られたら嫌だなあ……
『これでひとまずの身体検査は終わりやけど……気になるなあ……中身は一体どうなってはるんやろう……気になるなあ……少しだけや……一本の先っちょだけ……中に入れてみても良いやろうか……姐さんに怒られそうやなあ……でも……好奇心には勝てませんなあ……!!』
上ってくる……僕の中に入ってアバ姉さんの心臓がどんな風に動くかはラオさんが身をもって教えてくれたから……きっとこの人は食いちぎられる……それは……すこし……いやだなあ……口だけなら動かせそう……
『やめたほうが良いですよ……僕の中に入ると……その……食べられちゃいます……』
『ひぁっ!? 起きとったんですか!? もう悪いお人やわあ……さっき食べられるって言いました?』
『はい……僕の心臓は借り物なので……勝手に触ると触った人を食べちゃうんです』
『ぷっ……!! あんたおもろい人やねえ……心臓がそんなことするわけないやん……てことで……ちょっとばかし見させてもらいますわ……』
ああ、そうか……話を聞かない人だったのか……それじゃあ僕にはどうしようもない……聞く気のない人も聞かない人も僕にはどうすることもできない……どうかこの人が全部食べられたりしませんように……無理かな……僕の祈りなんかが届くとも思えない……さようなら顔も名前も知らない人……
『……あんた、夢も希望もないってツラしてはりますねえ……そんなお人が冗談を言う余裕なんてありゃしまへん……さっきの本当ですか』
『僕は……嘘なんてつきません……でも……信じてもらえなければ一緒ですよ』
そうだ、信じてもらえなければ……なんの意味もないんだ……
『でも……良かった……あなたは信じてくれるんですね』
『あなた“は”……ねえ。 裏切りにでも会いましたか』
裏切り? とんでもない、裏切ったのはきっと僕の方なんだ。だからあんなことになった、僕だと信じてさえもらえなかった。
『ぼくは……ぼくは……』
ああ、思い出す。あの冷めきった目は信頼なんて一欠片だってなかった。信頼されていたなんていうのは僕の幻想に過ぎなかったんだ。きっとあの2人は僕に嫌々ついてきていたに違いない……そうだ……そうなんだ……
『不思議ですね……悲しいはずなのに……涙の1つも出てきやしないなんて』
『そりゃあんた……準備ができてないだけや……壊れないように崩れないように頭と心が麻痺してはるんです』
麻痺? 確かに気力も何もないけれど……それでも今の状態から変わるだなんてとてもとても思えない。それほどまでに今の僕は凪なんだ。
『なんならそれをチョチョっと治せますけど……どうします? 治さへん方がいいかもしれませんけど』
治す……ね。そんなことができるならやってみてほしいくらいだ。断る理由はない。
『それじゃあ、やってみてもらえますか。多分無駄だと思いますけど』
『本当に良いんですか? それは本来なら時間をかけて治すもんや。言いはしましたけど自然に任せた方がいいかもしれんのですよ』
『大丈夫……僕は……なんとかなると思います……から』
そうだ……今から何があっても僕は変わらない……そんな確信がある。
『ん〜……そこまで言うなら……いきますよ?』
『どうぞ……なんでもしてみてください』
顔に何かが吹き付けられたような……感じ……甘い……におい……花のような……?
『頭が……痛い……!?』
頭に中をドリルか何かで削られるような激しい痛み……!!
『うわあああああああああああああ!!?』
『あーあー、言わんこっちゃない。やっぱり駄目やないですか』
『ああああああああああああああぁぁぁ……!!』
『ありゃ、今度は本当に眠りはった』




