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地の底より覗く者

 地下を生きる場所として選んだものがいる。

 それらは地上に羨望のまなざしを向けたりはしない、むしろ変化の激しい地上の人々を哀れんでさえいる。彼らにとって地上とは苦行の坩堝に他ならない。永遠の安寧を得る地下こそが彼らにとっての楽園であるのだ。

『まんず今日も平和だなや……だども……変化のない毎日は色んなもんを腐らせちまう……久しぶりに地上から誰か呼び込んでみたいと思うけんど……どうだか?』

 細長い身体を持つ蚯蚓の長が言った。安寧は時として停滞を生む、そして停滞は衰退へと変化するものだ。それを危険と思ってのことだった。

『せやろか……別に今のままでええやろ? いつも通り土を掘って……いつも通り飯を食う。それでええんとちゃうか』

 土竜の族長はめんどくさそうにぼやく。比較的活動的な土竜の類は毎日の掘削による地下の拡張という仕事があるために停滞を感じにくいところがあるのだ。

『シンセンナ、キンガタリナクナッテキタトコロ、ワタシタチハサンセイ』

 菌類の統括を行っている人格は今はキノコをベースとした人体の形を取っている。胞子によって増える彼らは定期的に外の新しい菌を取り込んで自己進化を促す必要があるのを身を以て知っていた。ゆえに外からの来訪者は歓迎すべき上客なのだ。

『そうやねえ……私らもその話をしようと思ってたんよ、細長の兄さんらが言うように前の招きから随分と時間が空いとるよねえ。そのせいで少しばかり良くない流れができはじめてるんよお』

 植物の球根と下半身がつながっているような姿をしたアルラウネの長が待ってましたというように笑った、面白いものを見つけた子どものような表情だった。

『内乱がなあ、起きようとしてるんよ。なんでも太陽が欲しいとか言うボンクラが出てきててなあ、地上への進行を計画してるとか聞こえてきてるんやけど……どう思われはります?』

 皆一様にその情報に思うところあったのか思案にふけるような表情となる。

『それでなんやけど、やっぱり招きをした方がいいと思うんよ。地上の有様を聞かせてやれば上の獄に行きたいだなんトンチキなこと言うの止めると思うん』

『確かになあ。上へ行きたいだなんていっとるもんがいるのは知ってたども……どうすっかは決めあぐねてだもんなあ……』

『嘆かわしい事やで……うちの若い衆もこそこそとなにやっとるかと思えば……』

『チジョウ、ワルクナイ、デモ、ヨクモナイ』

 アルラウネの長が一層笑みを深めた。

『そうやろ? で、誰を招くかなんよ。誰か候補を思いつく方おります?』

 それぞれの長が唸るが特に意見が出ることはなく、少しの沈黙が場を埋めた。

『居てはりませんようですね? 実はいい人見つけて置いたんです』

 がさがさと音を立てながら根で人形を作り始めた、それは見たところ少年のようであった。

『この子です』

『ただのわらしではねえか?』

『なんやねん、ごっついもん出てくる思うたら拍子抜けもええとこやんけ』

『……?』

 散々な反応であった、それも仕方のないことである。地上への招きは一大行事であるが故にその人選には細心の注意を図らねばならない。なにせ言葉はまず通じないうえに招いた者の衣食住がまかなえるかも分からないのだから。

『まあそんな風に思われるのも仕方ないことです、ですがね。この子実は凄い力持ってはるんですよお』

『凄い力ってもなあ……地上の話だべ?』

『せや、地中で空飛ばれても意味ないで』

『スゴイ……スゴイダケジャワカラナイ』

 アルラウネの長が息を吸い込んだ。

『この子、私らの言葉分かります。それどころか私らの言葉話せます』

 その一言が他の長に伝わるまでに1分ほどの時間を要した。それほどまでに地上と地下の交流という者は乏しいのだ。

『嘘だべ……そったなことできるわけねえ』

『フカシこくなや、粉だけやなくてホラまで吹くようになったか』

『シンジラレナイ……ゴメンナサイ』

 信用は全く得ることはできなかった、それでもアルラウネの長は全く引かなかった。

『そう言われるのは分かってます。私も初めて見たときは根を疑ったもんです。この子、今まで見る限りでは、虫のと水のと鱗と全部喋ってます。あり得ますかそんなこと?』

 これら3種は全て言葉も音の出し方も違う。本来であればそれらを少年が使いこなすなど到底無理な話である。

『技術でどうにでもなるやろ、もしかしたら見た目だけ若くて中身は爺かもしれんやろうが』

『それも言われると思うてました。でもこの子の口の動き方全部一緒なんです、とても使い分けているようには思えません』

『ツマリ……ナニカトクシュナノウリョク?』

『その通りです、これで私らとだけ話せないなんてことがあると思われはります?』

 長は皆黙る、情報を信じられないというのとこれが事実だったときの有用性を天秤にかけていた。

『そいつは今どこにいるんや……』

『今は空を飛んではります、なんで降り立ったタイミングで招くことになるでしょうね。場所は降り立った瞬間に分かります』

『……賛成や、信じられへんが……それが事実やったらとんでもないことになるで』

『おらぁも賛成だ……その童には悪いが……』

『イロンナイ』

 満面の笑みでアルラウネの長がその答えを聞いた。

『決まりですね? では招きをやりましょう』


 



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