10万年後の恐ろしい竜 5
瞬きするような自然さで目が覚めた。知らない天井が見えるけどたぶんラオさんの山小屋だと思う……
『目が覚めたな? 頭は痛むか、喉は、胸は? お前が喋れることはパクから聞いたから説明はしなくていい。症状はあるか』
『あり……ません』
不思議なほど気分が良い……眠る前までの気分の悪さはどこにも残っていなかった。
『よし、ならいい。それであたしに何の用だい?』
『羽を失った人がいるんです……取り戻す方法を教えてください……!!』
『は? そんなことできるもんかい……あたし以外にはね』
ラオさんが尻尾を強く床に打ち付けた。
『だがね、理を歪めるには対価が必要さ。お前にそれが払えるかね?』
『なんでも言ってください、やってみせます』
『そうかい、そいつぁ重畳だね。じゃあその心臓と右腕もらおうかい』
しんぞうとみぎうで?
『なんでもするって言ったろう? 嘘だったのかい?』
『腕は……わかりませんけど……心臓はやめておいたほうがいいと思います。一度抉り出された時はやった人が虫に食べられかけました』
『へえ、ますます興味が湧いたねえ……なんとしても手に入れたいもんだ。体の外に出したら駄目ってことなら身体の中で見たら良いのさ』
どういうこと……身体の中を見るなんてデリさんみたいに超音波でも使うか、透視でもしない限り無理なはずだけど……
『じゃあ……少し苦しいかもしれないが……対価の一環ってことで許しておくれ』
『うぐ……!?』
う、腕が身体にめり込んで……!? 苦しい……異物感がすごい……痛みがないのが逆に気持ち悪い……なんだこれ……
『ははあ……なるほどなるほど……これは授かりものか……おかしな感じがするはずだよ。害のあるものなら摘出して代替品でもいれようかと思ってたけどね……これは加護か……じゃあいいね』
『うっ……!?』
引き抜かれる時も変な感じがした。どんな手品でやったんだろう……
『おうおう、すっかり齧られちまったみたいだね』
『大丈夫ですか!?』
差し込んでいた腕が無残に食いちぎられていた、僕の身体の中でいったいどんなことが……!?
『大丈夫さね、伊達に長生きしてるわけでもないんだ』
ラオさんの腕が痙攣し始めた、と思うと食いちぎられていた箇所がみるみるうちに塞がっていく……まるで逆再生のような……
『すごい……治っちゃった』
『そうだろう? そしてこの力がお前が求めているものでもあるのさ』
再生能力……?
『あたしの血肉は損傷を治す力があるって言ってるんだ』
『っ!? それじゃあ……』
僕がそれを手に入れるのって……
『お前があたしを傷つけて、あたしの一部を持って帰りな。それを飲ませれば羽でもなんでも治っちまうだろうよ』
そんな……それじゃあ……
『無理ネ、名無の弱さ半端じゃないよ。ラオを傷つけるなんて夢のような話ネ』
『何言ってんだい。さっきの見ただろう、あたしの腕をあんなふうに食いちぎれるんだから少し削るくらい簡単だろうに』
『……無理です……あれは反撃として作用するので点…自分からは使えないんです』
『え? じゃあ腕は? 腕には何かないのかい?』
『水の中で息ができたり、早く泳げたりします』
他の能力があるのかもしれないけど、そんなの知らないし。
『そいつはすごい……すごいけど今は要らないねえ』
おっしゃる通りです……
『じゃあ何かい? お前があたしを傷つける術はないって言うのかい?』
『はい……』
『困ったね、さすがに他の奴にあたしを攻撃させるわけにもいかないしねえ』
まさか、攻撃力のなさがこんな最悪の形で問題になるなんて……今からいきなり強くなるなんてできないし……
『ラオ、名無がラオに攻撃すれば良い?』
『まあ、そうだねえ。少しの手伝いくらいは認めるけどパクがあたしを殴るのはなしだよ』
パクさんが何かを取り出して渡してきたけど……これは布と牙?
『これ投げてラオに当てれば傷の一つくらいは付く』
『あの……これは?』
『私の抜けた牙と羽を編んだ布ネ、こうグルグルして投げれば非力さも少しは補えるネ』
つまりパクさんの牙でスリングショットをしろってこと……?
『パクの牙か……それならいけるかもしれないね。それでも少しばかり練習が必要になるね、素人じゃあ当てることも難しいよ』
やったことない……けど……少しでも可能性があるなら……やらない理由はない……
『やります、それしか道がないなら幾らでも』
『……一回投げてみな』
『はい!!』
遠心力を使って……回して……投げる!!
『……こりゃあ遠そうだね』
見事に牙はあらぬ方向に飛んで転がってしまった。
『もう一回やってみな……』
『えいっ!!』
全く当たらない……え? というかこれってどうやって当てるの?
『名無……センスない……』
だいぶ……道のりは険しそうです……




