10万年後の恐ろしい竜 3
『私達の里へようこそ、ゆっくりしていってネ』
パクさんに連れてこられた里はなんというか……その……時代が良く分からない混沌とした場所だった……あっちに竪穴式住居みたいなのがあったと思えばこっちには中華っぽい建物があったりして……何が何だか……
『とりあえず偉い人のとこいくよ、ついてくるネ』
『は、はい』
あ、なんだか懐かしい……これはデリさんの時だな……あのときは大きい村長さんに腰を抜かしたっけ……でも大丈夫。翼の生えたティラノサウルス以上の衝撃なんてそうそうないはずだから。
『ここ』
立派な建物だなあ……これはなんていうんだろう……楼閣?
『偉い人おっかないけどあんまり驚くの駄目ネ、おっかない割に繊細だからあんまり驚いたり怯えたりすると傷つくネ』
『分かりました……』
前置きにおっかないと言われてしまった……パクさんがそう言うんだから相当だろうなあ……気を引き締めていかなきゃ……
『ワン様お客さんだよ』
『……入るが良い』
凄く低い声……地の底から響くような声だ……
「良く来たな……パクが連れてきたのならばお前は資格があるのだろう。歓迎するぞ」
「……うっそだあ……」
これで驚くなってのは僕には無理だ……だってここは恐竜の人たちの住処じゃないの……!?
「し……神龍だ……!!」
どう見ても龍だ……恐竜なんかじゃない……神話に出てくるような長い身体……ふわりと浮いている……うわあ……本当にいるんだ……色は金色だけど……
「む……しえんろん……とは何だ? 我の事を知っているとでも言うのか?」
「い、いえ……似たようなものを……その伝承で……聞いたことがある……のです……」
「ふむ……いつか下界に姿を見せたことなぞあったかもしれん……その時に見られておったか……まあ良い。我の姿はこの通り目立つ故語りぐさになることもあろう」
というかこの人たぶん共通語を喋ってる……すごいなあ……よく見たら歯も舌も喉もあるから話せるんだ……パクさんの舌は細くて二股に割れていたから発音が難しいのだろう……
『すごいネ、ワン様見ても気絶しなかったの初めて』
『びっくりはしてるけど……なんとか持ちこたえました……』
できればどんな風か言って欲しい……前説が足りないのはもう流石に慣れてきたけど……あったら嬉しいなくらいでいたほうがいいんだな……
「ん? 汝……パクの言葉が分かっているのか……それどころか自身も竜の言葉を扱っている……汝は……もしや人間か?」
え? 今なんて?
「あの……今人間って……」
『分かるのならばこちらで話すぞ、共通語は少々息が詰まるからな。人間は歴史上にたびたび現れて大いなる変革をもたらす者だ、その者たちは揃って強大な力を持っていた。我も一度間近で見たことがあるが凄まじいものだった……』
人間がたびたび……現れる? もしかして転生者の人たちかな? 時間差で転生した人たちが色々とやっているのかもしれない……
『あれは……もはや歩く災害とでも言うべきものだったな……なんだったか……勇者とか呼ばれていたな……当時戦乱のまっただ中にあった二つの国の片方に現れた後に絶大な力をもって敵国を滅ぼした。しかしその後の勇者に待っていたのは背後からの刃だったのだ。その時に愛する者と仲間も一緒に殺されたのだが勇者だけは生き延びた……いや生き延びてしまったと言う方が正しいな……勇者がどうするかは想像に難くあるまい?』
『復讐ですか……』
『うむ……あやつの力は文字通り無双を誇っていたのでな。恨みのままに国をいくつも滅ぼす可能性さえあった……故に国家総出で討伐にかかったのだ』
酷い話だ……利用するだけして終わったらポイっていうことか……それが復讐による滅亡を呼ぶのは当たり前じゃないか……
『甚大な被害が出た……だが、勇者も生き物ではあった。休む間のない波状攻撃の前に遂に膝を折った、全身から血を流しながら呪詛を吐いておったよ。トドメをさしたのもまた人間であったのは因果ではあったが。まあ、このような災害になるのはごく一部でな……どちらかと言えば英雄とか救世主とかそういう風に呼ばれる者の方が多い。それでだ……』
風が吹く、強い風……そして背筋が凍る感覚……何度か味わったこれは……殺意だ。
『汝はどちらかな? 善き者であればそれでいい、だが悪しき者ならばここで死ね』
足が震える、歯の根が合わない……絶対的強者からの殺意は僕の身体には強すぎる……でもこんな場面も初めてじゃない……!!
『何言ってるネ、名無がそんな大きなことできないよ。いくら何でも弱すぎるネ』
『いや……人間の力は想像の範囲を容易く超える。現に右腕と心になにかを飼っていると見た』
飼ってるって……確かに貰い物ではあるけど……もしかしてこれって結構凄いものなのかな……?
『さあ、汝の返答はいかに』
『僕は……人間ですけど話すことと聞くこと以外はできません。腕と心臓は母と姉にもらいました。信じてもらえなくても構いません……ですがここで死ぬわけにはいかないんです。待たせている人がいるんです』
『それで? 我は汝が善き者か悪しき者かと問うている。死ねぬ理由など皆持っているぞ』
圧が一層強くなった……呼吸が乱れそうになる……しっかりしろ……言葉を紡げ……!!
『僕は……世界を滅ぼせません、人を殴っても傷つくのは僕の方です、悪事をなしたことは記憶の中ではありません……それでも自分が全くの善かと言われてはいそうですと答えることはできません……そんなことを言えるほど……僕は僕を信じられない……』
『そうか……』
目の前で口を開けた……炎でも吐かれたら僕は死ぬだろう……でも言えることはすべて言った……あとは任せるだけだ……
『裁定を下すとしよう……』




