10万年後のサプライズパーティ 6
『あっちも終わったみてえだな……』
鏡に映ったフミさんは倒れた上那さんを抱きかかえていた。
『……妾が地に横たわる時が来るとは思っても見なかった。久しぶりね史廻』
『母上……気分はどうじゃ? 人に戻った感想は』
『……現人神なんてろくなものじゃないわ、人に神の力なんて扱わせるものじゃない……人はどこまでいっても人でしかないのよ』
少し前までの寒気がするような笑みじゃない、暖かなひだまりのような微笑み。これが上那さんの本当の顔なんだきっと。
『きっとあなただけの力じゃないでしょうけど……妾を倒したのはあなたよ……だから次の虫皇になるのはあなた……そして虫皇になるためには三宝を引き継がなくてはならない……ごめんなさい……こんな役割を……』
『兄上、姉上も了承してくれているのじゃ。三宝を得たものは神ならぬ現人神になる。それはつまり俗世からの乖離、意味するところは神への供物に他ならないのじゃ……そんな役割は誰も望まぬ』
『そう……ね、あなたは一等優しい子だった。だから妾を救うためにこんなになってまで……』
優しくフミさんを撫でる手つきは慈愛に溢れている。モルト母さんに会いたくなってきた……
『……良いのじゃ……これも母上を永遠から解き放つため……止めねばいつまでも続けておったじゃろう?』
『さすがは妾の子ね、良くわかってる。例え歪もうとも子にこんなものを引き継がせるものかって思っていたわ。それも叶わなかったけれど……』
あれ……上那さんの身体が崩れてきてる……末端から砂のようになって……
『母上……そろそろ時間のようです』
『ええ、神に捧げてきた妾の身体は三宝の力なくしては保てない。でも、すごくいい気分よ』
もう、下半身が砂に……
『はは……うえ……』
『いい母親じゃなくてごめんなさい。きっと酷いこともたくさんしたでしょう。それでも最期に子供に抱かれて死ねるなら……悪くない人生だったわ』
砂になるのが止まらない、もう首まで……
『先に行って……待ってるわ……できるだけ遅く来なさい……これは妾からの最期の勅令……』
『はい……』
『あ……い……して……』
上那さんだったものがフミさんの手からこぼれ落ちた。
『くっ……』
溢れかけた涙をフミさんは拭うと三宝を身に纏った。
『我が名は史廻、虫皇である。そして我で虫皇は最後とする!!』
周囲の人が一斉にざわめきだした、この宣言はこの国の終わりを意味しているらしい
『安心せい。この国はもう虫皇などという神の供物なしでもやっていけると確信している。我はこの呪わしき地位に終止符を打つ』
フミさんが三宝を脱いだ……そして傍に落ちていた神堕ろしの剣を握る……まさか……!?
『見るがいい!! これが虫皇の時代の終焉じゃ!!』
神堕ろしの剣で一閃された三宝はいともたやすく壊れてしまった。ちょっともったいないなあ……
『この国の棟梁の名は国主とする。我は旧時代の虫皇ゆえ国主にはならぬ。頼りになる兄上、姉上に国を任せて隠遁するのじゃ!!』
うわあ!? 丸投げだコレ!?
『なに驚いた顔してんだよ……当たり前だろうが。あいつがどうやって上の世代の皇子を黙らせたと思ってんだ。母親倒すまでやったら引退するのが条件だったんだよ元々な……』
『そう……なんですか……』
そういうことだったのか……乱暴だと思ったけどこの舞台を用意するためだけにそこまで……
『三宝までぶっ壊すとは思ってなかったけどな……まあ確かに人には過ぎた代物だ』
『そういえば……結局フミさんが一人で戦った方が強いのは何でだったんですか? あんなに不死身なら別にみんなで戦ったら良かったんじゃ……』
『そんなこと言うわけ……いや……あいつはもう戦わねえからいいか。あいつも術者なんだよ、しかもとびっきり強え。チート持ちの俺とは別ベクトルのぶっ飛び方をしてる』
ぶっ飛び……? 能力が高すぎる……?
『あいつは……幻術しかできねえがそれの対象が自分なんだ。だからまあ、自分だけならどうにでもできるっていうのが表向きの理由』
『表向き?』
じゃあ、裏の理由もあるみたいに聞こえるけど……
『本当の理由は自分と親しい奴がいると混ざり合っちまうんだとよ。自分と相手の境界が曖昧になるっつうかな……だからあいつは敵に囲まれてた方が強い』
自分にかける幻術って何だろう……僕の理解を完璧に超えている……これ以上考えても無駄かな……やめておこう。
『これで我は暇をもらう。さらばだ』
あ、フミさんが消えた。
『ふう、終わったぞ……』
と思ったら、すぐにこっちに戻ってきた。案の定残された人たちは右往左往している……大変そうだ
『ん? 皆どうしてボロボロなのじゃ……まさか』
『四守が裏切ったんだよ……危うく全滅するところだったぜ……』
『……すまなんだ。それは予想外じゃった……じゃが誰が四守を? お前を含めて奇襲されて勝てるものはいないと思うのじゃが』
『そこの旅人だよ』
くがねさんが僕を指差す。僕というか……アバ姉さんなんだけどなあ。
『っ!? まだ縛る気か……!!』
え? どうしてそんな顔を……まるで親の仇でも見たような……




