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10万年後は魚が歩く4

「あっ……君って水の中で息できる?」

「できません……」

 デリさんに連れてきてもらった家は一部を除いて水没していた、村長さんのところの家は特別で他のところからのお客さんも来るところだったから水上にあったそうな。

「あっちゃあ……どうしよっかな……」

「その、ここまで連れてきてくれただけで十分ですから」

 あのままじゃ死ぬだけだったろうし。

「でも君って寒さに弱いでしょ?このまま夜になったら君凍えちゃうよ」

「なんとか……します」

 特に予定はないけれど……たぶん何とかなるだろう。

「本当に?大丈夫?一緒に居ないと私は助けてあげられないよ?」

「大丈夫です、これ以上迷惑はかけられないです」 

 ただでさえ今まで甘えっぱなしなんだ、ここで生きていくためには強さを持たなくちゃならないんだと思う。

「そう……いつでも頼ってね?」

「はい。ありがとうございました」

 一応歩く用の道があるみたいだから歩き回ってなんとかできることを探そう。きっと今の僕にもできることはあるはずさ。


~2時間後~


「どうしよう……何もできそうなことがない……」

 基本的には水中生活みたいだし、なんて話しかけて良いか分からないし、怖いし、映画みたいにここで働かせてくださいとも言える環境じゃない。

「やっぱりデリさんに頼ったほうが良かったかなあ……」

 いやいやダメだ。僕だって男なんだ、いつまでも依存していたらダメだ。でもちょっと早かったかなあ。もうちょっとだけ甘えていた方が良かったかもしれない。

「……あんちゃん仕事が欲しいのかい?」

「ひゃっ!?」

 どこからか声がした!?でも見えない、水中から声がしたのかな?低い男の人の声だ。

「そのままで聞きな、あんちゃんみたいなヒレなしにできる仕事は限られてる。紹介してやってもいいが、あんちゃんにはキツいかもしれねえ。それでもいいかい?」

「なんでもします!!」

 今を逃したら僕は本当に何もできないままで過ごしてしまう。そんなのは嫌だ、自分の力で生きていくんだ。

「きひっ……そうかい。なんでもするってえのは嘘じゃないな?」

「はい!!」

 どんなことでもやってやろう、そうしなければ生き残れないんだったらそうするしかないんだ。

「良い返事だ、ついてきな。案内してやる」

 ちゃぽんという音と一緒に水面に淡く光る触覚みたいなものが出てきた。チョウチンアンコウみたいな人だったのか。

「見失うなよ?」

 言われたとおりのついていくと、薄暗く入り組んだ場所へと向かって行った。

「あのう……この辺りってずいぶんと雰囲気が変わりますね……」

「そりゃあそうだろうよ、ここらはタネ屋やら色つきの場所だからな」

 タネ屋、色つき、聞いたことのない言葉が出てきた、意味は分からないけどあんまり公にできないような場所なのだとうっすら気づく。

「僕って……何をさせてもらえるんですか?」

「ああん?ここまで来ても分からねえのか?本当に坊ちゃんだったのか?」

 嫌な予感しかしない、もしかしてこれは身体を売るような場所なんじゃ……。

「まあ、どこでも物好きはいるってことでな。ヒレなしじゃなきゃダメって言う奴もいれば火傷するほど熱い肌じゃねえとダメだって言う奴もいるんでな」

 完全にそっち系の匂いしかしない。このままだと僕は魚人のみなさんの慰み者にされてしまうのだろう。逃げなきゃ……ここに入り込んだら出てこられない気がする。

「やっぱり僕には無理そうなので……止めたいんですが……」

「はっ、ここまで来て逃げられると思ってんのか……頭の中珊瑚礁かお前」

 馬鹿にされているのだとは思うけど頭の中珊瑚礁の意味がいまいち伝わらない。

「い、嫌だ……こんなところで身体を売るなんて僕にはできない……!!」

「は?身体を売る?何言ってんだお前。お前の身体を喰ったところで美味くもなけりゃあ、何の素材にもなりゃしねえよ」

 え?違うの?というか食べる前提なのが非常に怖い。

「だって……ここはその……いやらしいことをする場所なんじゃ……その……性行為とか」

「あ?もしかしてお前勘違いしてねえか、他のとこの奴は知らねえけどよ。子どもを拵えるのなんざ卵にぶっかければそれで終いだろうに。なんでそんなことにわざわざ他の奴の手を借りなきゃいけねえんだよ」

 あ、そういうところは魚のままなんですね。じゃあ僕はいったい何をさせられるんだろう。

「じゃあ僕は何をするんですか……?」

「接待だよ。陰から見てたがお前海神と話してただろ?つまりは古代語が喋れるってこった。それなら今まで取引できなかった相手とも商売できるじゃねえか。お前には俺の言葉を相手に伝えて欲しいんだよ」

 あー、なるほど。通訳ってことか。それならなんの問題もない、むしろやってやる。

「それなら喜んで!!」

「なんだお前いきなり……まあいい。早速明日から働いてもらうからな、お前にはそこの物置をやるよ」

 光る触覚が差したのは小さな小屋だった。でも僕が寝るには十分な広さがありそうだ。

「陸の奴らが置いてったもんが置いてあるからそれで寒さでもしのぎな」

 中を見ると毛布に似たものや綿に似たものがあった。寝るのに問題はなさそうだった。なんとかなるものだなあ。

「明日は殻持ちの奴らと交渉だ。精々食べられないように気をつけな」

 やっぱり不安になってきました。



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