10万年後も失われたものは戻らない 3
僕の意識がはっきりとしたときには既に器頭さんの姿はなく、僕の額にもお札はなく何があったかを示すものは1つもなかった。あるのは記憶のみ、これが僕の都合の良い夢でなかったことを証明することはできない。でもあれはきっと本当だった、それだけは自信を持って言える。
「犯人捜し……か……探偵でもないのに……どうやって探せば良いのかな……」
きっとこれから3日間の猶予が与えられる、それがどのような形で与えられるかまでは分からないけれどその時間で成し遂げなければ僕たちに未来はない。やれるかじゃないんだ、やるんだ……たぶん……
『ふん……起きてやがったか……国賊のくせに殊勝な心がけだなええ?』
ここに来てから初めて看守の姿を見た、全体的に丸いシルエットに腕が6本……背中の丸みからしか判断できないけどダンゴムシかな……?
『理由は分からんがお前らに恩赦が出た、今から3日間のみこの永世京で過ごすことを認めるそうだ。それが過ぎたらここへ戻ってこい。その時が貴様らの最期だ。まあ、戻ってこなくてもその場で処刑が執行されるから同じ事だがな、常に監視の目があることを忘れるな。特に今回は葉隠れ衆頭領の四守様が目を光らせている。そこで眠りこけている仲間にも変な気は起こさぬように言っておけ、死神の刃は常に喉元で光っているとな』
それだけ言ったら鍵を開けて居なくなってしまった……最期だけ妙に詩的な表現をしていたなあ。
『イッテオキマスガ、ジョウダンノタグイデハ、ナイノデスヨ?』
一瞬だけ見えた器頭さんの構えた刃は首にぴたりと当てられていた、気づくとか気づかないとかそういうことではない……本当に首元にいつでも刃が届くことを分からせられた。
「……とりあえず、2人を起こそうかな……」
ここで怖じ気づいていてもなんにもならない……行動を始めなければ待っているのは確実な死なんだ、どうにかして本当の犯人を見つけなければ……
「それにしても随分とぐっすり眠っているな……こんなに死んだように眠るものかな……」
それくらい疲れていたってことだと思うけれど、さっきの看守の人は普通に話して出て行った、そんなことをされても寝続けるほどこの10万年後は平和じゃないと思うけど……もしかして……
『器頭さん……何かしましたね……薬か何か使ったんじゃないですか……?』
返事はない、そりゃそうか。さっきのは脅しも含めたものだからやっただけで今の返答を行う理由はない。
「あれ?」
ひらひらと紙のようなものが落ちてきた。そこには何かしらの文字のようなものが書いてあったけど……
「読めない……そっか……話すのと書くのは別だもんな……話せるからって読める訳ではないんだ……」
困った、これがさっきの返答かもしれない。もしかしたら指示書の類かもしれない。早く燕間さんに読んで貰おう。
「……起こせるのかな……?」
問題はここなんだ、明らかに僕よりも肉体的スペックが遙かに上な2人を揺さぶったとして目覚めに足る刺激になるかどうか……
「……」
起こす順番を考えれば……何とか……なるか……な
「デリさーん、起きてくださーい」
とりあえずデリさんに声をかけてみる、耳が異常に良いデリさんなら普通に話しかけても起きてくれるかもしれない。
「……すぅ」
ダメだ、起きない。であれば仕方ない、火傷なんかはしないと思うけど……できるだけ被害の少ない場所に……
「えい」
デリさんの手を握ってみた、手は繊細な部位だからより刺激には敏感なはず……
「あっつい!?」
「あ、起きた」
良かった、驚かすような起こし方になってしまって申し訳ない気持ちで一杯だけど……
「え?手?握って?え?」
酷く混乱させてしまったようだ、無理もないな。だってこんなの熱々の缶コーヒー握らせて起こしたようなものだろうし。
「ごめん、デリさんに起きて欲しくて」
「え……私……そんなに寝て……?」
自覚もないほどに寝ていた……そんなに深い眠りに落とされてたんだ……
「燕間さんを起こすのを手伝って欲しいんだけど……ダメかな?」
「……とりあえず手を離して……」
あ、忘れてた。
「熱いよね、うっかりしてた」
「いや……それ以上握られてると……私が茹だっちゃうから……その……ごにょごにょ」
「え?」
「いいの、それでそこで寝てるのを起こせばいいのね?」
話が早くて助かる。まさかとは思うけど殴って起こしたりは……しないよね。大丈夫だよね、そんな蛮族みたいな起こし方しないよね。
「もしかすると君にまで聞こえるかもしれないから耳を押さえておいて」
「分かった……?」
声で起こすんだ、でもそんな大声まで出さなくても……
「…………!!!」
音は出てないようだけど……少し震えているような……超音波の大音量ってことか……
『うわあ!?うるさい!?」
あんまり驚きすぎて両方の言葉が同時に出ちゃってる……すごいなこれは1人ハモりができそう……
「起きたね、ちょっと乱暴かな?」
「何するんですか!!肌が割れたらどうしてくれるんです!!」
「虫の肌がそんなに柔じゃないの知ってるから大丈夫、加減はした」
2人とも元気そうで良かった……さて、これからのことを説明しなくちゃ……




