10万年後も失われたものは戻らない
『フミさん!?』
胴体を槍で貫かれてしまっている、とめどなく血が流れている、分かるのは今のままだとフミさんはここで死んでしまう、それだけ、なにか処置を、あ、止血を、でも包帯もない、圧迫しなきゃ、でも身体の構造も分からないのに勝手に押していいのか、それともなにか他の……この状況を打破できるなにか画期的な一手があるはず……
『かふっ……そんなに狼狽えるな……これでも皇族の末席……いつかこんなことになるとは分かっていたんじゃ……見るにこの槍先には毒まで塗られておるようじゃし……今のお主にできることなどない……じゃからこれを気に病む必要もない……これは……仕方のないことじゃ……高貴なる者の宿命とでも思っておくのじゃ……』
諦めた顔、全てを受け入れて、死を受け入れて、これでいいのだと、これが相応しいのだと思っている顔、そんな顔……生きている人がするものじゃない……いきなり命を奪われる人がしていい顔じゃない……いつ死んでもおかしくないないなんて……そんなの……おかしいよ。
『フミ……様……申し訳……ありません……えんまがもっと早くに気づいていれば……!!』
『よいよい……これはどうにもならぬ……おそらく万全でもこれは食らっていたであろうよ』
どうして……どうしてそんなに達観できるんだ……こんなに理不尽なことがあるか……!!
「え、え?なに……槍……刺さって……え?」
「誰かにフミさんが攻撃された……もう手遅れ……みたい」
「そんな……どういうこと……!?」
デリさんの困惑ももっともだ、僕だってなにがなんだか何も分からない。どうしてフミさんがここで殺されなくちゃいけないのかも、どうして今なのかも。
「分からない、フミさんは仕方のないことだって。高貴な者の宿命だって……」
「そんなことあるわけない!! どんな生まれでもこんな風に殺される理由になんてならないよ……」
「うん……僕もそう思う……」
遠くの方で何か警報じみた音が聞こえる、京のほうから聞こえているからここに警察のような人たちが飛んでくるのかも……
『お主らを巻き込んでしまったことを……すまなく……おも……う……これか……ら……めんどうな……ことになる……どうか……幸多からんことを……いのっている……たび……びと……よ』
フミさんの身体が動きを止めた、これが命の終わり。あまりにも唐突であまりにも理不尽な生命の終焉が僕の目の前で行われた。さっきまで動いていたのに、さっきまで話していたのに、もう動かない、動けない。
「死んじゃった……の?」
「……うん」
こんな風に人は死ぬのか……なんの前触れもなく……一気に命は失われる……なんて……なんて恐ろしい……なんて悲しいこと……
「まぼろしさん、京のほうから大量の人がこちらに向かっています。逃げられる段階はとうに過ぎ去っています。大人しくしているのがいいかと……」
「うん」
今はちょっと他のことを考えられる余裕がない、あまりにも衝撃が強すぎて、まともに頭が回らない。なにもまとまらない。だから、色んな人がこっちにやってきて何かを聞かれたり、何か答えたりしたような気がするけれどその内容を僕はあまり覚えていない。
1つだけ分かっているのは僕たちを見る虫の人たちの目が憎しみと敵意に溢れていることだけだった。
「……これって処刑されるのかな?」
僕たちはみんなまとめて地下牢のようなところに閉じ込められてしまった、どうせ逃げられないと考えたのか荷物を奪われたりはしなかったけど……どちらにせよここから逃げる気力も手段も持っていないことは事実だった。
「おそらくは……皇族への危害などこの国もっとも重い罪にあたります。首を落とされる前に京の中を引きずり回されるでしょう……そのあと落とした首と身体は無残なほどに引き裂かれるのだと思います」
「……どうしたら逃げられるの、君だけなら逃がせるんじゃない?」
デリさんが言うけど僕は今から1人で旅をするなんてことをできるとは思えない。知れば知るほど10万年後は1人でどうにかなるような甘い世界ではないことを分かっているから。
「残念ながら……ここから逃げるということは罪を認めることと同義です。すぐさま刑を執行しないということはまだ刑が確定していないということでもあります……ですからそこに賭けるしかないのです……」
「でも……それじゃあ……!!」
「はい……刑が決まったらどうあっても……」
そっか……今僕にできることはなにもないんだ……ただ粛々と待っているしかできないんだ……今の心境がフミさんのに近いのかな……こんなに早く理解できるとは思わなかったけど……
「じゃあ今逃げたほうが!!」
「無理です、ここには近衛がいます。一守様よりも強いと言われる方が4人もいるのです。逃げられる訳ない……」
「大丈夫、もういいよ。僕は……きっと……ここまでだ……こんなことになっちゃってごめんね……僕が居なければこんなことには……」
「っ!!」
破裂音が響く、僕が頬を張られたことに気づくのに少しかかった。感情の爆発によって出た行動に力加減などあろうはずもない……衝撃の理由に気づいてから僕の意識は暗転した。
「ああっ!?気絶しないで!?」
ごめんね……僕は……よわい……んだ……




