10万年後の偉い人 2
『貴様……何を持っている……包み隠さず明かせ』
さっきの反応を見る限りたぶんこれに反応したんだろう……でもこんなもので何か変わるのだろうか。だってこれはただの蜂蜜なのに。
『こちらですか……?』
『ぬうっ!?芳醇な香りに高貴な黄金色……加えて見間違う筈もない宝玉のごとき輝き……ならばそれは八守の……』
『お主……そんなもの持ってるならば早く出せば話がすぐに終わったじゃろうに……どうしてもったいぶるようなマネを……』
え?なにこのリアクション……この脱法蜂蜜そんなにすごいものだったのか……いやすごいものだとは思ってたけど……
「まぼろしさん……蜜姫様が手ずからお作りになった蜂蜜の玉は蜂玉と呼ばれます……それを個人で所持しているのは普通ありえないことなのです。言わば蜜姫様直々の贈り物をもらえるほどの功績を挙げたという証拠に他なりません……」」
まさかそんなありがたいものだったとは……あそこで蜂蜜が欲しいと言ったデリさんにありがとうという言葉をいくら言っても足りないね。あとでちゃんとお礼を言っておかなくちゃ……
『ふうむ……八守のお墨付きか……しかも悪い虫がつかぬように警告までつけおって……貴様よっぽど気に入られたようだな……八守に嘘は通じないことは有名だ……私もそれを何度も見てきた……これは……』
ドズンという音が響いた。超重量のものが落ちたことを示すそれは目の前のカブトムシの死神が刀を手放したことで発生していた。続いてながれるような動作で座ると両の拳を地面に打ち付ける。
「うわあっ!?」
その衝撃で僕が少し浮いたのでその威力は言うまでもない、小さな地震くらいは起こっていると錯覚するほどのものだった。
『申し訳ない!! これは私の勘違いだったようだ……あなた方が八守の蜂玉を得られるほどの傑物とは見抜けなんだ……どうかこの通りだ……許して欲しい』
蜜千代さんの蜂蜜でここまで変わるのか……これが信用と権力……恐ろしい力だ……この世界でも腕力以外の力は有効なんだなあ……
『あの……僕たちは殺されませんか?』
『もちろんだ……この一守宗茂が総力で以て皇子様と共に都へとお連れしよう』
『……良かった……本当に……』
あ、ダメだ……安心したら一気に力が抜ける……もう立ってられないや……はは……脚もガクガク……身体はガタガタ震えている……怖かったなあ……良かった本当に……
「頑張ったね……途中からは何を言っているか分からなかったけど……頑張ってくれたんだね」
デリさんに支えられてようやく立っていられる状態だ、情けないとは思うけど……デリさんに支えられていると凄く安心する……
「デリさんのおかげだよ……蜂蜜がなかったら僕たちは死んでた……本当にありがとう……これからも一緒に頑張ろうね……」
はは、なんだろう。安心したらなんだか涙が出てきた……どうしてだろう……
「泣かないで、私は君が泣いているのを見たくない。笑って、そのためなら何だってしてあげるから」
「ありがとう……デリさんには助けられてばっかりだ……じゃあもう少しだけこのままで……」
なんかもう……色んな人に助けられてなんとか生きていられるなあ……10万年前はそんなこと思ったこともなかったけど……おんなじだったのかな……
「もう……2人だけで随分と仲睦まじいご様子ですね……あと半分はえんまが貰いますよ……まったく……これで一緒に居られない時が来るだなんて寝言もいいところですよ……」
デリさんとは逆の肩を燕間さんに支えられた、なんとなくふわふわしてるイメージだったけどそんなことはなく全力で寄りかかっても大丈夫だろう……身体のスペック差は残酷だ……
『して、貴殿はいったいどこから来なすった。私が知る限りどの種にも当てはまらぬようだが……もしや妖怪の類ではないだろうが……』
『まぼろしさんはさとりの妖怪ですよ、大昔に我々と交わったさとりの子孫だとか……』
何その嘘しかない紹介……そんなおとぎ話のような存在と紹介されても誰が信じるんだろう……だってそんなの……先祖に鬼がいるので超能力使えますって言ってる霊能力者並みに怪しいじゃないか……
『なるほど……さすればその容姿で我らの言葉を話せるのも納得だ……その能力があればこそ八守の信用を勝ち取れたのだな……』
納得するんだーー!?それでいいの本当に……!?怪しさ満点じゃない!?
『まさかお主が妖怪だったとは……このフミの目でも見抜けなんだ……世界は広いのじゃな……』
そんな遠い目をされても困る……ここで心を読んで見ろと言われても僕にはそんなことできないし……これからさとりですと紹介され続けるのだろうか……先が思いやられる……まず妖怪って討伐対象にならない……?
『しかしそのことを都の術者には言わん方がいいだろうな……あやつらにバレたら問答無用で処されるかもしれん……もしくは捕まって解剖されるやも……』
うわあ!?やっぱりこの紹介ダメじゃん……
「燕間さん……僕の事さとりって言うのや本当にやめてね……」
「はい……肝に命じておきます……」




