内緒話に虚飾は不要
「ナニヲ、ハナスノデスカ?」
首をかしげる燕間の瞳は揺れない、まっすぐにデリを見つめる。
「……離れててと言ったからたぶん聞かれない、だから無理に不自由に喋らなくて良いよ」
デリの瞳も不動だ、確信を持って見つめている。
「ふふ……分かられてしまいましたか。流石に耳が良いようですね」
「喉使ってないんだから言葉を覚えたてみたいにはならないでしょ?」
2人とも何かあった場合はいつでも刃を抜けるように身構えている、あの少年がいたら絶対に発生しない殺伐とした空間が形成されていた。
「ふぅ……探り合いをする気はないの。最初に言っておくけれど私の声はあなたを壊せる、あなたは声より早く動ける自信はある?」
「……確かデリさんと言いましたね。あなたは息を吸っている間に真っ二つになりますと言ったら信じてもらえますか?」
デリの耳はなんの変化もない燕間の心臓の音を聞き、燕間は少しずつ大きくなる揺れを感じている。両者ともに言ったことに偽りなどなかった。デリの声は全身感覚器と化した燕間の容量を超える音を送り込める、一呼吸の時間があれば燕間の刃はデリの命を穿つ。これは脅しではなく事実だった。
「でも」
「そんなことをすれば」
2人の声が合わさる。
「君が悲しむ」「まぼろしさんが悲しむ」
初対面である2人の唯一の接点の少年。それだけがお互いに命をかけた戦いを行わない理由だった。少年を悲しませることはできない、その1点においてのみ2人の思いは一致していた。
「……自己紹介でもしましょうか?」
「では新参になるえんまから」
燕間の口から産まれてから今に至るまでの経緯が語られる。目は生まれつきであること、家族に耳を焼かれてこの城で人質になったこと。親子のこと、そして少年の声に救われたこと。それらを簡潔にデリに叩きつけた。
「ふうん」
それに対するデリの対応は一言それのみであった。
「私の名前はデリ、それだけ」
本当にそれだけでデリの自己紹介は終了した、今のお前の信頼度などその程度だと突きつける態度だった。しかし、これはデリが冷たいとかそう言う話ではない。初対面の相手に対する情報開示としては名乗っただけマシともいえるくらいなのである。
「燕間、あなたはこれから私たちと旅をすることになった。それは決定、君が決めたことに私は異論を挟まない。それであなたは君のためにどこまでできるの?」
「どこまで?その質問に意味がありますか?」
「ある、この答えで私があなたを信用するかが決まると思って」
「そうではなくて、どこまでできるなどという質問に意味はないのです。どこまで? そんなものこの身ががすり切れて空のひとかけらになるまでに決まっているではありませんか。できることならばそのひとかけらがまぼろしさんの慰みになればもう言うことはありません」
心底不思議といった表情で燕間は言い放つ、心音、瞳、羽、その他一切の揺らぎなし。それはさも天と地が存在するのと同レベルで当然という風だった。
「デリさん、あなたは違うのですか?」
「……私は君にいらないと言われるまでは一緒にいる、そのせいで海の藻屑になっても私は幸せ」
「欲の少ない方ですね、死ぬまで一緒にいたいとは言えませんか」
「そんなの……枷にしかならない。君はきっと私が要らなくなる日が来るから」
燕間が大きなため息をつく。肺の底からの深いものだった。
「そんな日は来ません。えんまは少し強引に迫りましたがそれでも最後までえんまを連れていくのを渋りました。自慢ではありませんがえんまは強いです、そこらの賊などものの数でもありません。その価値を分かってもなお、あなたが了承しなければダメだと言ったことの意味を考えてみてください」
実際には少年には用心棒を雇うとかそう言った思考がすっかりなかったのでこの推理は的外れなのだが、それを知るものはここにはいなかった。
「そんなの……今だけ……いつかは足手まといになる……君はきっと強くなる……から」
「ええいまどろっこしいですね!! さっきまでの迫力はどこに行ったんですか!!」
「だって……」
「だっても勝手もありません!! 言っときますけどまぼろしさん馬鹿みたいに弱いうえに伸びしろないですから守ってあげないとボロ雑巾みたいになって死んじゃいますよ!!」
事実である、少年の身体能力では打ち勝てる障害など数えられるほどしかない。
「あなたがまぼろしさんの一番なんです!! 今のところは……」
「最後のなに……?」
「いえいえ、今のところ一番でもこれから変動していく可能性がありますから」
「───!!!」
強めの超音波が燕間の全身を叩く。
「痛いです!!痛いですからそのキンキン声やめてください!!」
「後輩が生意気なこと言うから」
そう言ったデリは笑っていた。
「最後に確認しておきたいことがある。もし君の邪魔になるようだと判断したら私はあなたであっても躊躇いなく排除するから気をつけて」
「奇遇ですね、燕間もいつでも鯉口を切る準備はするつもりです」
凶悪な笑みと一緒に2人は握手をした。
「痛い!? あんたの手尖りすぎ!!」
「あらごめんなさい。これでおあいこですね?」




