10万年後の女の友情は怖い 2
『何をしているのだ、咄嗟に刈り取ってしまったではないか』
戦闘が始まる瞬間に2人は膝から崩れ落ちた、僕の目では何も見えなかったけど蜜千代さんが2人を昏倒させたようだ。
『僕じゃ止められなくて……ありがとうございます』
ダメだな、争いの火種ばっかり生み出して自分で火消しなんてできやしない。これじゃあ僕が関わらない方がずっと良かったかもしれない。
『……我はお前のような妖怪ではない、ゆえにお前が何を考えているかは分からないが。お前は余計なことなどしていない。胸を張って良いのだぞ?』
蜜千代さん……未だに僕の事を妖怪だと思ってるんですね。でもありがたいなあ……それを言ってもらっただけで少しだけ救われた。
『で、こやつらは起きた後も殴り合いをやらかすと思うか?』
『させません……話を聞いてくれる状態であれば僕が止めて見せます』
今度こそ……やってやる。
『信用しよう、起こすのは簡単だ。どちらから起こす?』
これの発端はデリさんの暴走だから……僕なんかのことで怒ってくれたのは嬉しいけど有無を言わさずワンパンしに行くのはダメだよ。
『デリさんからでお願いします』
『あい分かった、イオの者から起こすとしよう』
蜜千代さんがデリさんの顔の前で手をかざすとデリさんの目がかっと開かれた。
「うわあっ!?蜂に襲われる!?」
いったいどんな夢をみていたのだろうか……そんなことはいい。早く説得しないとまたダークサイドになってしまうかも……
「デリさん。僕の話を聞いてくれる?」
「……そうだったね……ちょっとどいてくれる?そこの女一発殴れない」
話を聞く気もない……あんまりしたくなかったけど……
「デリさん!!」
「ひゃっ!?」
肩をつかんでしまった……僕の体温は水の民の人には熱いみたいだからあんまり触れたくなかったんだけど……これは不可抗力だと思いたい。
「ど、どうしたの、熱い……よ?」
「僕は今この燕間さんに旅に一緒に行きたいと言われてるんだ、デリさんはどう思う?」
「ダメ、これは私と君の旅だよ。他の人なんて要らない……と思うけど君がどうしてもって言うなら考える……」
ダメ……じゃない? でも僕には否定して欲しそうな感じがする、今僕が信頼できる人は限られている。デリさんはその筆頭だ。残念ながら燕間さんはそこまでに至る理由がない。デリさんの信頼を揺らがせるくらいなら……
「そっか……分かった。やっぱりこの話はなかったことに……」
「でも、2人だけだと危険な場面が多いの……だから……護衛の人はいつか必要になってたと思う。聴く限りではここの人たちはみんな例外なく強いの……そこの子もね……」
……? 話の流れがつかめない……さっきとは違って受け入れるような……
「えっとごめんなさい……賛成してくれてるのか反対しているのか分からないんだけど……」
「両方……なの。他の人に来て欲しくないのも本当だし、強い同行者が必要なのも本当。だから君が決めてくれたらそれでいいの」
「え……良いの?」
「良いの、それで良い。それなら私は従えるから」
なんか僕に都合が良い感じで気が引けるなあ。でもそう言ってくれるなら僕はその信頼を信じて行動しよう。それがきっと信頼に対する正しい姿勢だから。
「でも、言葉が分からないから常に通訳してもらうことになっちゃうね」
「シンパイ、ニハ、オヨビ、マセン」
え?片言の共通語……いったい誰が……?
「イマ、ハ、ツタナイ、デスガ、スグニ、シュウトクイタシマス、マボロシサン」
「うっそ……燕間さんなの……!?」
だって、発声の仕組みからなにもかも違うから喋れないはずじゃ……というか起こしたなら言って欲しかった。
「あの子の羽から声がしてる、すごいよあれ。私たちの言葉を拾って再現してる、よっぽど感覚がするどくないとあんなことできない……」
「アノ、ハダガピリピリ、スルノデスガ……」
もしかしてデリさんの超音波も感じ取れてる……いくらなんでもそんなこと……
「ソチラノ、カタカラ、コマカイ、ユレガ……」
これは感じ取れてる……まさかとは思ったけど本当にすごい……
「これで言葉の問題はなくなった……ね?」
「うん、それでね。君はなんでマボロシだなんて呼ばれているの?」
あれ、少し圧力を増しているような。
「聞いてない私も私だけどね」
そういえば名乗っていないような……だって名前なんて聞かれてこなかったし……どちらかと言えば人間ですと答えたほうが多いような……
「君の名前教えて、私だけずっと君と呼ぶのはいや」
名前……名前……いや、名前っていう言葉の意味は分かる。個体ごとについた識別番号のようなもので両親から与えられた愛の形……僕は誰なんだろう……僕の名前は……なんだろう……?
「分からない……名前が……思い出せないんだ……どうしてだろう……だからデリさんの好きに呼んでいいよ?」
思い出せない……覚えていない……そもそも僕の名前なんてあったのかな……?
「……分かった。名前が分かるまで君は君のまんまで良いよ。すこし女の子同士でお話するから離れてて」
「うん……分かった」
いったい何の話をするんだろう……




