10万年後だって政治はややこしい 2
『良いか、細かいことはいい。お前はただ我らが言った後に一言認めると言えばそれで事は済む。分かったな?』
あれよあれよと言う間になにか祭壇のようなものを挟んで蜜千代さんと燕間さんのお母さんが向かい合っている場が作り出されてしまった。儀式っぽいけど……本当に何もしなくて良いの?これって司祭ポジションに当たるから重要なんじゃ……
『大丈夫よ、これは始めるまでの条件が難しいだけでここまで整ってしまえば後は簡単なの。まさかその条件が揃う時が来るとは思わなかったけどね』
そんなに厳しい条件が設定されているんだろうか、でもそんな大したことをしてなかったような……祭壇はそこらのもので適当に作ってたし。
『……これを行うには3人必要だ、契約するものとそれを認める見届け人。ここで一番重要なのは我らの言葉を理解できる見届け人だ。我ら以外に我らの言葉を理解できるものは皆無であるうえに誓いほど複雑な内容を正しく分かるものはいないと言っていい。しかもその者は我らの近似種ではならないときた。これだけでも無理難題なのだが条件はまだある。聞けるだけではダメなのだ。我らの言葉で認めることが必要になる。近似種以外でそんなことができる者はいない。だからこれで解決することなど基本的にはあり得ないのだが……まさか条件を満たすものがいるとは……』
ものすごいハードルの高さだった……言語的なもの以外にも身体的条件も合わなきゃいけない……でも似たような種族じゃダメって……やらせる気ないよなあ……流石に厳しすぎないか……もしかして……
『あのう、大昔はみんな同じ言葉喋ってたりしました?』
『ん?よく知っておるな。創世神話なぞ歴史家しか覚えておらぬというのに』
やっぱりそうかー……多分古代語は本当の意味で共通言語だったんだろう……それだったらこの条件は比較的楽にクリアできる。そんあ言語だったなら確かにモルト母さんが古代語の喪失を嘆くのも分かる気がしてきた。
『どうして同じ言葉を喋らなくなったんですか?』
『なんだったか……確か神への反逆を行おうとした時に怒りを買ったとかなんとか……そんな風なことを教えられたような……』
バベルの塔と同じような感じなんだ……そこら辺の神話が似ているのが面白いなあ。10万年経っても人間じゃなくても似るものなんだなあ。
『そんなことはいい。さっさと始めるぞ準備は良いな?』
『はいはい大丈夫ですよ』
何をするんだろう……誓いって言ってたからなにかを言うんだろうとは思うけど……
『腕は鈍っておるまいな?』
『みっちゃんこそ、戦場に出たのはいつぶりかしら』
あれれ?おかしいな?燕間さんのお母さんは薙刀を持っているし……蜜千代さんは槍みたいなもの持ってるけど……使うの?
『ふむ……腕が良いか』
『そうね、痛くしないでね?』
『はん、痛みなんぞ意にも介さぬだろうに』
腕……まさか……!?
『せいっ!!』
『はあっ!!』
思わず目を瞑ってしまった……絶対アレだよ……腕を切り飛ばしてるよ……知ってるもん……僕やられたことあるから分かるもん……
『まあ、こんなものだな』
『ええ、大丈夫よ』
見たくないなあ……大惨事だよ……血の海だよ……怖いよ……心臓も穿たれたし……腕ももがれた事あるけど見るのは……嫌だなあ……
『何をしている、しっかり見よ。そうでなければいる意味がない』
『は、はい……』
やだなあ……スプラッタは苦手だよ。
『あれ、ついてる』
『何を言っている、腕を切り落としたとでも思ったか?』
『あらら、可愛いこと。そんなことはしませんよ』
見ると腕に薄く切れ目がついていて血が流れ出ている。良かったそうだよね、いちいち腕とか切り落としていたら身が持たないよね……あれ……ブーメランかな……僕も自分の身体を大事にしよう……
『我らはここに双方の血を持って誓いを立てる』
『流れし血は赤き誓いの鎖になり我らをつなぐ』
祭壇の中央に置かれた水盆に血がたまっていく……なんだかんだで血なまぐさいのは変わらないんだ……うう……血の匂いは苦手……
『誓いはここに……血脈をもって証となす』
『誓いを永久に……血族の先に伝えよう』
あれ、2人ともこっちを見ている……今のタイミングで認めると言えばいいのかな?
『み、認めます』
うわ……血が一気に光り出した……これも神様がやってたようなものの類似系なのかな……僕の役割はこれで終わり……?
『うむ、これで良い。これで我らは血で結ばれた同胞よ』
『ええ、これでもう争う理由はないわね』
あ、手の甲に赤い模様が……それが証になるのかな……これで人質の代わりになるのなら良いのだけれど……大丈夫なのかな?
『うん、これで人質も要らないわね。えっと……まぼろしさんでしたっけ……あなたに娘をあげるわ』
『……むう……仕方ない……我では燕間を幸せにはできぬ……頼んだぞ』
『ふつつか者ですかよろしくお願いします……』
え……やっぱりそうなるの……どうしよう……僕だけじゃ決められない……。
『あの……本当にありがたいのですが……お断りします……今のところ……』




