10万年後だって政治はややこしい
『貴様らは馬鹿かああああああ!!!』
空から怒号が聞こえてきた。この声は蜜千代さんだ。やっぱり人質が勝手に移動するのは問題だよね……
『あらあら、みっちゃんはいっつもうるさいけれど今日はいつもより元気なのねえ』
みっちゃんって……あの蜜千代さんをそんな風に呼べるお母さんはいったい何者……もしかして本当の頭領はこっちの人のほうだったりして。
『全く……少し目を離したと思ったらまた勝手なことをしおって……見る限りでは燕間にさらわれたと見るのが適当だと思うが違うか?』
『その通りです蜜姫様……えんまがまぼろしさんをさらいました。ですのでまぼろしさんを咎めないでください……悪いのはえんまなのです……』
『ッ!?』
蜜千代さんが固まってしまった……まるで幽霊でも見たかのような感じで驚いているような……そんなに驚くことあったかな……?
『燕間……どうしてお前が聞こえる……お前の耳はもう……!?』
『そういえばそうねえ、私たちできっちり焼き切ったはずなのにどうして聞こえているの?』
そうか……なんか普通に話せているから特に気にもしていなかったけどやっぱり異常事態だよね。
『そんなことですか、簡単です。羽と肌で感じる震えを声として認識しているだけですから』
『……ありえるのかしら?』
『分からぬ、しかし目も耳も失ったものがそれを補うだけの感覚を得たということならば信じられる。なにより燕間は嘘を言っていない……』
あれかな、目が見えない分他の感覚が鋭くなるみたいなのが目と耳を補うために触覚に全部回されたってことになるのかな?
『みっちゃんが言うなら本当なのね、それで今日は何をしにきたの?愛娘の門出を祝ってくれるのかしら?』
『……門出とはなんのことだ』
一気に場が締まる、蜜千代さんの威圧感で心なしか身体が重い気さえするほどだ。
『蜜姫様……えんまはまぼろしさんの妾となりとうございます』
『ダメだ、何を馬鹿なことを言っておる。というかまぼろしって誰じゃ?』
燕間さんが僕の方を指さした。
『貴様……どうやって燕間をたぶらかした……やっぱりそっ首たたき落としてやろうか……!!』
蜜千代の指が僕の首にかかる、アバ姉さんの言うことが本当ならば普通の人よりも大きい蜜千代さんならば僕の首なんてすこし指に力をいれるだけでへし折れるだろう。
『申し開きをしてみよ……』
『だめよみっちゃん、その人が私たちの言葉が分かるわけないじゃない』
『それがこやつは特別なのだ。我らと同じように聞いて話すことができる』
『あらまあすごい……そんな人なら別に……』
ここで僕がさらわれただけなんですと言っても信じてはもらえるだろうけど……それでこの場がどうにかなるとも思えない……でも嘘は通じない……どうしよう……。
『燕間さんのことは僕もここで初めて聞きました……しかし幽閉を続けるわけにもいかないとおっしゃっていたと記憶しています。いっそのこと旅に出てしまったほうが良いのではないですか』
『貴様は何も分かっていない、人質がいなくなってはどうして不可侵を信じられようか……友好の証たるものを出奔させて何が協調か!!』
やっぱりそうなるよね……分かってた……そうなんだよね……結局これは国同士の話であって個人の思惑とか意思とかは無意味なんだ。
『我がどんな思いで燕間を幽閉し続けてきたか……分かるまいな……来たばかりのよそ者に何を話しているのだ……熱くなりすぎた……我はお前に依頼をしただけだった……少し冷静になろう……』
すごい……あんなにヒートアップしてから自分でクールダウンするするまでが一瞬だ……ここまで自分をコントロールできる人はあんまりいないと思う。
「ふぅ……おおよその話は分かっている。お前を連れ去った燕間がここまで運び妾になるだのなんだの言い出したということでいいのだな?』
『そのとおりです……』
『ではそこで倒れている忠勝めはどうした。まさかお前が倒した訳ではあるまい?』
『それは私よ、娘と殴り合いしようとしてたから後ろからね』
『そうか……気の毒に……やはり嫁には勝てぬものか……』
蜜千代さんの目が一気に憐れみを帯びる、なんか夫婦の力関係が透けて見えるなあ。
『みっちゃん、1つ提案があるのだけど』
『それは友人としてか?』
『違うわ、六守の代理としてよ。人質の交換なんて古いと思うの、そろそろ次の方法を始めても良いんじゃないかしら』
次の方法……人質の交換に変わるものっていったい……検討もつかない……。
『要は争わない口実が欲しいってことよね、じゃあ私たちが身内になってしまえば良いじゃない。もちろん義理だけどね』
義理の家族関係を作るってことなのかな……盃でも交わすのだろうか……そんな極道みたいな儀式じゃないよね……きっと。
『無理だ、ここには2種しかいない。見届け人がいなければその契約は……いやできるな……ここにもう1人いたか……』
僕の方を見て蜜千代さんがぼそりと言った。




