10万年後の蜻蛉さんも肉食 3
ブックマークが50件となりました。皆さんの応援は非常にありがたく思います。拙作ではありますがこれからもみなさんに楽しんでいただければ幸いです。
『ごめんなさい……もうしません……えんまはまぼろしさんの身体のことがよく分かりました……卵や赤子のように触れなければならないのですね……』
幸い燕間さんに曲げられた指は脱臼のような状態だったようで折れてはいなかった、無理矢理はめ込むことでなんとか動かせるようになったのでまあ大丈夫と言ったところだろう……
『うん……お願いするよ……』
赤子や卵レベルだとはっきりと言われてしまったのは正直ショックだけど……間違えて壊されてしまうよりはいいだろう……たぶん……。
『では……ゆっくり飛びますので……』
ゆっくりと言うがそれでも結構早い、気を失うほどの速さではないけれど多分100キロくらいは出てるんじゃないかな?
『あと少しで着きますからもう少し辛抱してくださいね……まぼろしさんは居るだけでいいので本当に何もしないでください……お願いします……』
何もしないことをお願いされてしまった……別にいいんだけど……なんだかなあ……。
『見えてきました、あれが忌まわしき生家です』
忌まわしきってそんな……もうちょっと手心っていうか……でも耳まで焼かれたっていう話しだしなあ。そういう風に思っても仕方ないかもしれない。
『あれが……』
湖の中心に家が建っていた、その周辺には葦のような植物が生い茂っている。蜻蛉の産卵場所ってあんな感じだったなあ……やっぱりそういう習性は残っているものなんだなあ……。
『では、下ります。くれぐれも何もしないでください』
家と岸をつなぐ橋に降り立った。途端に笛のような音が響き渡る。
『やかましいものですね……肌がぴりぴりとします』
燕間さんがそう言った瞬間には既に僕たちは槍と刀に囲まれてしまっていた。
『何者だ……ここは蜻蛉の頭領の屋敷であるぞ……即刻首を刎ねられても文句は言えないと思え……』
囲んでいるのはどうやら燕間さんと同じ蜻蛉の人たちみたいだ。だからこんな一瞬で接近することができたんだ……鎧も金属的ではなくて布とか革みたいな軽そうなものだから速さが信条であることがうかがえる……それにしても早すぎると思うけど……。
『半年でえんまの顔も忘れましたか……ではもう一度刻み直しましょう……その身に痛みと恐怖を髄の髄までたっぷりと……ね?』
待って……燕間さんが怖い……なんかこう……殺気だっているというか……何かしらのオーラが出ているような……燕間さんってお姫様だよね……荒事なんて……
『無刀の壱、稲妻』
暴風が巻き起こる、その中にあって僕にできることなど風に飛ばされないように身を固めることくらいだった。どこからか打撃音と悲鳴が聞こえてきているような気もするけれど……今の僕にそれを確かめる事はできない。
『まったく……蜜姫様との戦が終わったからといって弛みすぎです』
僕がようやく目を開ける事ができるようになった時には周りにあった刀剣も槍も人も等しくなぎ払われていた。もちろんやったのは隣にいる燕間さんなのだろう。
『燕間さん……強いんですね』
だって……ほら……役立たずとか……腐るだけができることとか……そんな風に言ってたから……まさかこんなにデキる人とは思わなかったっていうか……正直少し舐めてた気がする……武家みたいなところの娘さんが何も教わらないなんてことはないんだなあ……これはちょっと異常に強いかもしれないけど……。
『いえいえ、こんなもの真似事に過ぎないので……』
謙遜できるレベルを遙かに超えているような気がするけど……。
『鎧袖一触か……相変わらず馬鹿げた強さだな燕間』
家から、なんか貫禄のある人が出てきたぞ……和服みたいな服を着ている……男の人はもっと外骨格がはっきりとしてヒーローのスーツを着てるみたいになるんだなあ……。
『お久しぶりですお父様、前に会ったのはえんまの耳を焼いたときでしたね』
『復讐でもしにきたか?お前は納得してあちらに行ったと記憶しているが』
『違いますお父様、そんなことはどうでもいいのです。この耳も目も別に苦でもなくなりましたので』
『ほう……それはまた……言うようになったではないか……』
薄く笑った燕間さんのお父さんは本当に嬉しそうに見える。
『で、そこのはなんだ。まさかとは思うがお前の連れ合いとでも言うつもりではあるまいな?』
『連れ合い……そんな烏滸がましいことをえんまは言いません。えんまはただお父様に許可と餞別をいただきに来たのです』
『話が見えないが……」
僕も見えない……燕間さんはいったい何を言おうとしているのだろうか。餞別ってなにか祝い事でもあるのかな?
『えんまはこの方。まぼろし様の妾になります。ですので餞別としてえんまの愛刀である羽斬六道を戴きに参りました』
『ん?』
『え?』
今燕間さんはなんと言ったんだろう、頭の理解が追いつかない……なんて……めかけ……なんだっけそれ……確か……正妻以外の妻……みたいな感じだったような……?
『はああああああああああああああ!?』
『えええええええええええええええ!?』
奇しくも僕とお父さんの絶叫は同時に響いた。




