10万年後の蜻蛉さんも肉食 2
『それでは行きます』
有無を言わせないというのはこういうことを指すのだろう。僕が何かを言う前に身体をがっちりとつかみ直されてしまった。不躾かもしれないけどお腹の方は柔らかいんだなあ……。
『ふっ!!』
「うぎっ!?」
急加速に伴う衝撃とGが僕を襲う……身体がミシミシと音を立てている……そりゃあそうだよね……あんな風圧が起こる位の加速したらそんな風になるよね……!!
『どうかしましたか?』
このなんでもない風に聞いてくるのは本人的にはちょっと駆け足くらいの気持ちで飛んでいるって証拠だ……これ以上の加速をされたらきっと僕の身体はもたない……言わなきゃ……。
『身体が……辛いです……できれば……もっとゆっくり……お願いします……』
『ええっ!?申し訳ありません!!』
『かはっ!!』
きゅ……急停止もダメなんだ……慣性の法則で……僕に……ダメージが……あ、ダメだこれ……急速に視界が閉ざされていく……僕には耐えられなかったみたいだ……。
『まぼろしさん……?まぼろしさん大丈夫ですか?まぼろし……さん?』
ごめんね……僕はもう答えることができないみたい。デリさんにも悪いことしたなあ……連れだしておいてすぐにリタイアだなんて……
『どうして、そんなつもりじゃ……まぼろしさんを傷つける気なんて……嫌……嫌です……目を覚まして……お願い……お願いです……』
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『おい、起きろヨ』
『痛い!?』
文字通りたたき起こされるのは二度目だ。
『アバ姉さん……?どうしてここに……』
『周りよく見ろヨ、ここは俺の神域だ』
確かに言われた通りだった、いつの間に僕はまたここに来たのだろうか。僕はここに来ようと思ったわけじゃないのに……。
『あれ、僕死んだんですか?』
『それじゃあ俺が心臓をやった意味がねえだろうが……大丈夫だヨ。お前は生きてる、ただ気を失っただけだナ』
良かった……僕の冒険はまだ終わりを迎えてはいないみたいだ。
『でも、それじゃあなんでアバ姉さんの所に来ているんですか?』
『一個教えといてやろうと思ってナ』
なんだ……アバ姉さんが近づいてくる。
『おら』
『うわっ!?』
ものすごい力で押されて後ろに吹き飛ばされた!?いきなり……なんで!?
『何するんですか!!』
『それが俺の眷属の軽く小突く感覚だヨ』
『え?』
さっきのが……ありえない……そんなのうかつに触れあったら僕どうなるんだろう……ゴリラが遊ぼうとしたら人間が壊れちゃうみたいなことになってしまう……。
『肉体の強度にかけちゃ俺の眷属は半端ねえからヨ。あんまり無防備に近寄ると死ぬぜ?』
『そんな……今回は燕間さんに拉致されたのでどうしようもない気がするんですけど……?』
『うるせえ、口答えするんじゃねえヨ!!』
うわぁ……なんか間接技を仕掛けられている!?コブラツイスト……!?
『いたたたたた!?」
『姉貴にそんな口聞くする愚弟はこうなんだヨ!!分かったか!!』
でもこれも全然本気じゃなくて、細心の注意を払ってやっているってことなんだな……きっと本気でやったら僕の全身の骨は砕けているだろうし。
『アバ姉さんって優しいんですね』
『……何言ってんだ馬鹿……』
『あだだだだだだ!!!力加減間違ってますって!!』
『うるせえうるせえ!!減らず口はこうやって閉じさせんだヨ』
しばらく間接を極められたあとにようやく解放された……良かった……割と本気で痛みがひどかったから……手加減を忘れてないかと不安になった……。
『まあ……とにかくだ……俺の眷属に悪気はねえんだ……だから許してやってくれ……』
『別に怒ってないですよ?モルト母さんにもこんな風にされましたから。力加減が必要なくらい僕の身体が弱いのが問題なだけですから』
『ん?モルトパールが?あいつに何されたかは聞いたが痛めつけられたとは聞いてねえぞ?』
『あれ?言ってませんでしたか?』
はしょってたみたいだ、モルト母さんの名誉のためには言わない方がいいかもしれないけどまあ良いよね?
『初めてモルト母さんの所に行ったとき少し雑な扱いをされて……』
『あー、あいつそういう所あるからナ……あとでそのことで虐めてやろう……ふふ……』
ごめんなさいモルト母さん、あなたの弱みを握らせてしまう結果となりました……猛省……
『それなら良い、お前を痛めつけた俺の眷属は泣きわめいてるだろうから慰めてやってくれ。悪い奴じゃねえんだ……頼んだぜ』
『分かりました。でも距離感はどうやって伝えたら……?』
『ああん?そんなもん1つしかねえヨ。自分から触っていって自分の脆さと弱さを教えるしかねえ』
そっか……自分から晒していくしかないんだな……どんなに頑張っても僕はデリさんや燕間さんと同じ身体にはなれないんだから……。
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『おきてぐだざい~もう強引にづれだしだりじまぜんがら~まぼろじざん~』
ちょっと引くくらい号泣してらっしゃった。びっくり……というか本当に力強いな……掴まれてるところが痛い……。
『あの……閻魔さん……僕の身体は……あなた達と比べてすっごく弱くて脆いんです……こんな風に』
燕間さんの頬に触れる……少し固いような感じなんだ……。
『温かい……ふわふわ……』
僕の手をとって恐る恐る触っている……指先が尖っているから少しだけちくちくするけど……大丈夫だ。耐えられる範囲だ。
『あ、ここはこんな風になってるんですね』
ポキっという小気味よい音が聞こえた……指を見ると明らかに変な方向に向いている。
『っ……そこは……そんな風にはなりません……!!』
『ええっ!?ごめんなさい!?』
僕は生きて帰れるのでしょうか……非常に不安です……。
どれくらい力加減が必要かというと人間と虫くらい必要だと思ってくださればちょうど良いです。




