10万年後の蜻蛉さんも肉食
『あなたがまぼろしさんですね』
僕は今非常に危険な状態にある。身体は空にあり僕を支えているのは細く華奢な腕一本のみ。簡単に言えばエンマさんに拉致されていた。まさか蜜千代さんのところから戻るときにさらわれるとは……予想もしていなかった……。
『震え方で分かります……あなたですよね』
これは尋問なんだろうか、何かしらの確信を持って聞いてきているように聞こえる。ここでいいえ違いますと言ってもダメなんだろうな……。
『そう……です……けど……あの……怒ってます……?』
そういえば今は口が動いているから本当に喋っている……耳が聞こえなくなったのは後天的みたいだからそれは不思議じゃないけど……震え方で分かる……っていうのは……声の振動ってことなのか……?
『怒る……えんまがあなたを……どうして……?』
あれ、騙したことを怒ってきた訳じゃない……じゃあ僕はなんで拉致されたんだろう。
『だって……これって……尋問……ですよね……?』
『へ?』
『え?』
そんなにキョトンとした顔をされても困る。
『もしや……まぼろしさんは飛べない……のですか……?』
『はい……飛べないので……エンマさんが手を離すと僕は死にます……』
これは……あれだな……飛べることが大前提の世界で生きているから飛べない奴っていう考え自体がなかったやつだね。
『これは大変失礼を……他の方には聞かれたくない話でしたので……空でと思ったのです……加えて失礼承知で言いますが……エンマではなく燕間です」
あ、イントネーションが違うのね。燕間さんなんだ……閻魔さんでもないんだね。
『尋問じゃない……でも……他の人に聞かれたくない話っていうのは……?』
『まぼろしさんは……どうしてえんまを助けてくれたんですか……』
どうして……どうしてと言われても……僕にはそんな語れるような理由なんてないのに……この感じだと何かしらの答えを出したほうがいい……のかな……。
『燕間さんを……助けたいと思ったから……?』
『見ず知らずの他人を付ける筋合いなどないはずです……何が目的だったんですか……何か思惑があったのではないですか……!』
やっぱり尋問だった。でもそんなこと言われても困る……筋合いがなければ人を助けてはいけないのだろうか……。
『えっと……人を助けるのに理由が要りますか?』
『そんなことは……ありえません……人は打算で動くもの……えんまの知っている人は皆そうでした。まぼろしさんだけが違うとどうして言い切れましょうか』
人不信がひどい……立場がある人だったみたいだし……陰謀渦巻く政治の世界も知ってるんだろうな……それに家の人に耳を焼かれたって言ってたし……それは……こうなっても仕方ないかもしれない。
『人が信じられませんか……?』
『……』
黙り込んでしまった……まずい……ここで手を離されたら僕は死ぬ……どうしよう……どうしたら良いんだろう……狡い言い方をすることになってしまうかもしれない……。
『空へと連れていった僕でも……?』
『そんな……言い方は卑怯です』
僕もそう思う……でも信じて貰わないといけない……こういう肝心なときに言葉が出てこない……ぼくは所詮その程度だ……。
『どうしたら……信じてもらえますか……』
『……覚悟を……見せてください……無償の施しを信じて欲しいと言うのなら……今からえんまのする事に耐えてください……』
この流れは非常にまずい……絶対拷問される流れだ……きっと多種多様な拷問が待っているんだろうなあ……しかも10万年後基準だから僕は普通に死ぬかも知れない……今思うと……蜜千代さんって言ったことの真偽を嗅ぎ分けて信じてくれるから相当話しやすい人だったんだなあ……あれ?蜜千代さんに証言して貰えばいいんじゃないかな?
『ちょちょ、ちょっと待ってください!!蜜千代さんの所へ行きましょう!!あの人なら僕の言ってることが本当か嘘か分かりますから!!』
『……どうして蜜姫様のことは正しく呼べるのですか……』
心なしかギリリと言う音が聞こえた気がする、なんなら火花まで散ったような……ちらりと覗く燕間さんの歯が凶悪な尖り方をしているので近くで見ると非常に怖い……。
『ふふ……却下です』
『ええ!?なんで!?』
そんな笑顔で言われても……僕は燕間さんのことを理解できていないみたいだ……何が目的が全く分からない……。
『行きますよ……ええ……反論は許しませんとも……』
『ご、拷問ですか……?』
ええい、びくびくするよりも聞いてしまった方が良い。その方がまだ精神的に良い……と思う……。
『拷問……そんなことは致しません。隣にいていただけるだけで良いのです』
『あ、そう……ですか……』
拷問はないみたいだ……でも隣にいるだけで良いってのも何がなんだか……。
『今から蜻蛉の家に挨拶に行きます』
……今なんて?




