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10万年後は魚が歩く 2

 そんなこんなで僕は村の中に入ることを許されたらしい。

「やー、良かったねえ。まさか海神さまのお守りまでもらえるなんてね」

 これはお守りなのか……ただの捕食ターゲットの印になっているようにしか思えないんだけど……。

「良かったです……食べられなくて」

 今のところはという但し書きがつくのであまり安心できないのが悲しい。

「じゃあ次はうちの村長のところに挨拶にいくよ」

「えっと……村長さんは僕の事を食べたりしますか……?」

 もしかしたらそんあ文化があってもおかしくないと思い始めた僕である。ここは本当に未知の10万年後なのだから。

「あはははは!!しないしない。だって村長の主食は海藻だから!!」

「あ、そですか」

 良かった、肉食じゃないのならなんとかなるかもしれない。

「見てみて、これが私の村だよ!!」

 建物らしきものが見え始めた。そしてその全体を見渡したときに僕は開いた口を閉じることができなかった。

「すごい……」

 水上建築とでも言うのだろうか、水の都というのが10万年前にもあったらしいけどここはそんなものじゃない。材質までは分からないけど海と建物が完全に調和している。小舟のようなものに食べ物らしきものを乗せて売り歩いていたり、学校らしきところで勉強をしていたりと完全な一個の文明がそこにあった。

「えへへ~、でしょー?」

「本当に……すごいとしか言えない」

 僕が見切りをつけた10万年前にもこんな風に僕が見たこともない景色がたくさんあったのだろうか、知らないことがたくさんあったのだろうか、そう思うとなんだかもったいないことをしたという気持ちが湧いてきた。あんなに逃げたかった場所なのに。失ってしまってから価値に気づくなんて馬鹿だなあ。

「あっちの一番大っきな建物が村長の家だよ!!」

 珊瑚礁がせりだしたような形の建物をお姉さんが指さす。確かにあそこまで大きなものは他にないから偉い人がいると言うのが分かりやすい。

「なんだいなんだい、デリが誰かを背に乗せているよ。これは今日は祝いの膳を作らなきゃいけないかねえ?」

「(デリさんっていうのか)」

 話しかけてきたのはスラッとしたシルエットの魚人さんだった。サンマか太刀魚だろうか、もしかしたらダツかもしれないけど細い身体にぎっちりと筋肉を搭載している様に見える。お姉さんと同じように焼けた肌に黒い髪だった。

「もうやめてよダレおばさん。私はまだそういう話はしたくないの。こっちの人は1人で浮かんでたから助けてあげたのよ」

「あれまあ、ここらに来るのは水の民だけだと思っていたけどねえ。ここは田舎だけど良いところさね、見るものもあんまりないけどゆっくりしていきな」

「あ、ありがとうございます」

 なんだか全身をなめ回されるように見られている気がする、それで背筋がゾクゾクとするのはなんでだろうか。

「ふーん……かわいい子じゃないか。それにマナとの相性も良さそうだねえ。デリが貰わないならあたしが貰っちゃおうかな。ねえ坊や、姐さん女房は嫌いかい?」

「え?え?」

 わわわわわ、近いし当たってるし、どうしたら、どうしたら、あわわわわわ!!

「ぷっ……!真っ赤にしちゃってまあ本当にかわいいねえ。その気があるなら改めてあたしの所に来ると良いさ。そうしたらヒレ取りエラ取り丁寧に教えてあげるよ」

 手取り足取り的なことなのだろうか。何を言っているか分かってもこういう慣用句的な使い方をされるとよく分からないから注意が必要だなあ……。

「やめてよおばさん、いくらおばさんが強すぎてお嫁のもらい手がないって言ってもいきなりすぎ!!」

「うぐっ!?痛いとこつくじゃないか……そうだよ。焦ってんだよ、ここらの男はあたしを恐れて近づきもしないからね。そうなったらよその男捕まえるしかないじゃないか」

 悲しそうな顔をしているとさっきまでぐいぐい来ていたのが嘘のようだ。

「まあ、今日はこのくらいでお暇させてもらうとするかね。じゃあね坊や」

 ダレさんが向こうへ泳いでいった、ものすごく早い。確かにあんなスピードで泳げるなら相当強いんだろうなあ。

「ごめんね?おばさんは悪い人じゃないんだけど……」

「大丈夫です、悪い人じゃないのはなんとなく分かります」

「そう?でも結婚のことは本気にしないでね。ここの人がみんなあんな風だと思われたら困るから」

「うん、それは大丈夫」

 流石にあんな感じの人ばっかりだと村が成り立たない気がする、たぶんああいう人は1人くらいのほうがバランスが良いんだろうきっと。

「今度こそ村長のところに向かうね!!」

「分かった、お願い」

 村長の家にはすんなり入れた、受付とか衛兵とか護衛とかそういう感じの人がいるのかと思ったけどそんなことはないようだ。

「村長さんを守る人はいないの?」

「え?村長を守る?あははははははは!!そんな必要ないよ!!」

「え?どうして?村長さんがやられちゃったら困るんじゃないの?」

 ひとしきり笑った後デリさんが恐ろしいことを言った。

「村長が一番強いのになんで守るの?」

 僕の中にあった髭のおじいさんという村長像は粉々に打ち砕かれた。



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