10万年後の女王蜂を怒らせた
「ねえ……絶対あの人怒ってるよね?カチカチじゃなくてガッチガッチしてるもん!!」
「大丈夫……僕が何とかするから……」
とは言ったものの、蜂さんに連行されてまたもや蜜千代さんの前に来た瞬間からイライラした様子を隠そうともしないってことは本気で怒らせてしまったようだ。
『何か申し開きはあるか……』
『……申し訳ありません。私にはどうしてそこまでお怒りになられているのかが分かりません』
『ほう……よくも言ったものよ。我がなんと言ったか覚えているか?』
えっと……確か……。
『口の聞けぬ者の話を聞けと仰せになりました……』
『そうだな?我は話せと言ったのだ、誰が外に連れ出せと言った!!』
一気に身体から汗が噴き出した、震えも一気に来た。前に会った時には相当気遣って僕に威圧感を与えないようにしていたんだ……これが……蜂さんの王様の迫力……。
『し……しかし……』
『よく考えてものを言え、次の一言が遺言になるやも知れぬぞ』
言う言葉を間違えたら……死ぬ……でも言わなくても多分殺される……言わなくちゃ……言わなくちゃ……言うぞ……言うんだ……。
「か……は……はひゅ……!?」
どうして声がでない……どうして話せない……苦しい……空気が入ってきてない……どうして……いきなり空気が薄くなるなんて……視界がせまい……。
「ひゅー……ひゅー……げほっげほっ!!」
苦しい……苦しい……言わなきゃ……言うんだ……早く……早く……はやくはやくはやくはやく!!
「落ち着いて……」
デリさん……手が冷たい……気持ちいいなあ……。
「吸い過ぎだよ……息を吐いて……ゆっくり……」
「ふー……はぁ……」
一気に視界が広くなった……呼吸が整っていくに従って落ち着きも戻ってきた。
「大丈夫……?」
「ありがとう……助けられてばっかりだね……」
「ううん……良いの。もう話せる?」
「大丈夫だよ。もう大丈夫」
すっきりした……これから何を言えばいいかは分からないけど正直に話すしかない……。
『エンマさんは空を飛びたいと言っていました、だから空へと案内したのです』
『……その名をお前は知らぬはずだ……どこで知った……』
『エンマさん本人お聞きしました』
『すん……すん……嘘ではない……どうやって聞いたというのだ……あの子は言葉を失ったはずだ……それをどうやって……』
真偽の判断を相手側が絶対の基準でやるから本当のことを言っていると信じてもらえるはずだ……どうせ見破られるんだ……ただ素直に話すしかない。
『語りかけたら答えてくれました、確かに聞こえていないようでしたが。言葉に反応を返してくれたんです』
自分でも無茶苦茶なことを言っていることは分かる。耳は聞こえないけど問うたら答えてくれたなんて普通なら馬鹿にしていると思われても仕方がない。でも目の前の人は嘘と真実を判断できる、僕が本当のことを言っていることが分かるはずだ。
『嘘……ではない……お前……さとりの類だったか……心を読む妖怪がいるというのは知っていたがよもや実在するとは……』
そんなに僕を妖怪にしたいのだろうか……でもまあ、やってることはそうでもしないとできないことなのだろう……僕だってどうしてできたのか説明できない……そういうことにしてしまおうか……嘘はバレるから意味ないな……。
『……燕間はなんと言っていた』
『空を飛びたいと……』
『それだけか……恨み言などは言っていなかったか』
『その……自分は役立たずだと……この場所で腐るだけができることだと……』
何かが潰れる音がした……見ると蜜千代さんのところの床がひしゃげている……もしかして僕は最後の引き金を引いてしまったのかもしれない……ここまでか……。
『う……うう……く……何という……あの子が何をしたと言うのだ……先祖が始めた諍いで……どうしてあの子があのような目に合わねばならぬのだ……あまりにも不憫ではないか……あの子に何の責もないだろうに……どうして最後の尻ぬぐいをあの子がやらねばならぬのだ……代われるものなら代わるというのに……ままならぬ……ままならぬなあ……』
泣いている……相手から送られてきた人質のことを思って……この人は思っている以上に母性の塊なのかもしれない……たぶん女王蜂に位置する人のはず……もしかしてここにいる蜂さんも全部子どもだったりするのだろうか……。
『……今の燕間は笑っているな……知らぬとはいえ我も燕間を苦しめてしまった……お前が取り戻した笑顔をお前を処すことで失ってしまうかもしれん……』
エンマさんは僕のことを幻だと思ってるから僕が居なくなってもなんのダメージも受けないんだけど……このことは黙っていよう……聞かれていないことに答える必要はないよね……。
『お前の所行は不問とする。褒美も与えよう、何が欲しいか言ってみろ』
急に言われても……そんなの思いつかない……デリさんはどうだろう……?
「デリさん、何かくれるって言うんだけど何か欲しいものはある……?」
「それならあの甘いのが欲しい!!」
蜂蜜かあ……身体にも良いらしいし……金銀財宝みたいなのもらっても旅の邪魔になりそうだし……行商みたいに売ってもいいし……良いかもしれない……。
『では……甘い蜜が欲しいです』
『ふっ……欲のない奴よ……それでは最高のものをくれてやる……こっちだ……ついてくるがいい』
え……あの大きさでも陸上で普通に動けるんだ……虫の筋肉は凄いって聞いたことあるけど……想像を遙かに超えてるのかもしれない……。




