10万年後の空は優しい
『うわぁっ!?』
モルト母さんのミニチュアと同じ感じでアバ姉さんが出てきた!?
『いちいち驚くナ……そんなんじゃ俺のやった心臓でも足りない』
『どうしたんですかいきなり!!』
『愚弟がくだらねえ事で悩んでいやがるから、俺が助言の1つでもくれてやるヨ』
「わっ……海神様とは違うけどそれも神様なの……?」
そうか、デリさんにも見えてるんだ。説明しないと。
「この人は虫の神様のアバドン様だよ、部屋でちょっと白目むいてる間にお話してたんだ」
「あ、あの時か……」
白目むいてガクガクしてたのは本当なら知りたくなかったけどね……。
『良いか、蜻蛉族っていうのは俺の眷属の中でも一番空との親和性が高い。下手な翼持ちよりも高いくらいだ。だから、こいつが飛びてえっていうなら飛ばしてやれば良い。目だの耳だのがねえと飛べねえほど柔な造りにはしてねえヨ』
『本当ですか……僕にはとてもとても……』
『おめえの物差しで他人を語るんじゃねえヨ、良いから飛ばせ。それで全て解決すらぁ』
あ、消えてしまった。とりあえず外に出して飛ばせてあげれば良いのかな……でも出てくれるかな……いや出して見せる……。
『……空を飛ばせてあげると言ったらどうします』
『残酷なまぼろし……もう飛べるはずもないのに……でも……そう……飛べるなら……連れていって欲しい……空へ』
未だに僕の事は幻だと思われている、でも今はそれでいい。外に出せるならそれでいい。
『エンマさんを外に出したいのですが良いですか?』
ここで蜂さんにダメと言われたら僕には為す術がなくなってしまう、どうかここでオーケーを出して貰いたい。
『……それは蜻蛉姫との対話に必要なのか』
『はい、そうしなければこの人は永遠にこのままです』
蜂さんが固まってしまった。ダメか……。
『……良いだろう……ただし監視はさせてもらう』
良かった……これで第一段階はクリアした……あとはここから外に出るためにどうすればいいかってことなんだけど……。
『しかしどうするつもりだ、蜻蛉姫は触られることを非常に嫌がる。それをどうやって?』
え?そうなの?それはちょっと知らなかった……どうしよう……言葉で誘導できればいいのだけど……。
『試したいことがあります……』
やるしかない……。
『僕の言うとおりにしてください……空へ連れていきます』
『壁に阻まれるのが分かっているのに……でも……一度くらいまぼろしにのせられてもいい……これがダメだったらもう……』
多分これで誘導に失敗したらもう言葉に耳を傾けてくれないだろう。これは失敗できない……いよいよ綱渡り感が増してきた。
『立ち上がって正面へ進んでください』
『立つのももう……いつぶりだろう……』
やった、エンマさんが立ち……飛び上がった……!?
『蜻蛉族の6肢に持久力はない、故に羽が移動の大部分を行うのだ。しかし、自発的に動く蜻蛉姫など見るのは初めてだ……貴殿は妖怪の類ではあるまいな』
妖怪……そう言うなら蜂さんのほうがよっぽど妖怪じみてますよ。と考えるのは僕が10万年前の感覚を引きずっているからだ。
『壁が……ない……?』
よし、部屋の前の廊下まで出てきてもらうことに成功したぞ……考えてみれば浮いてくれているほうが段差に気を付けなくて良い分誘導しやすいかもしれない。
『いえ、いえ……違うの……これは勘違い……今このときだってえんまの身体は横たわっているかもれない……』
『僕の言葉に従ってください、次は……』
そうして僕はエンマさんを城の出入り口まで誘導する。開け放たれた扉から風が吹き込んでいる。
『万が一があったとき、貴殿の首が落ちることは分かっていような?』
そういえばそんな約束があった様な気もする……でもこれって故意にやったことになるのかな……なるんだろうなあ……。
『はい……』
『……嘘……嘘……この風は……空……そんなことありえない……えんまはもう……飛べない……のに……どうして……身体が……』
エンマさんの羽が忙しなく動いている、空を感じているということなのだろうか。
『さあ、目の前はもう空です』
告げた瞬間に僕の身体は風圧で押されてひっくり返りそうになる。いや待って、ロケットスタートとかそういうレベルの話じゃない……。
「大丈夫?」
デリさんに受け止められてしまった、あの風圧でびくともしないあたりやっぱりここでは僕の身体は貧弱が過ぎるんだと思い知る。
「見て、あの人とても嬉しそう」
「うん、良かった」
僕の視力だと一瞬止まった瞬間しか分からないんだけど……きっとデリさんには嬉しそうに飛ぶエンマさんが見えているんだろう。
『あ、ああ……空……風……えんまは……えんまは飛んでいます……見えずとも……聞こえずとも……えんまの身体は飛んでいます……私の肌で……羽で……全てを感じます……えんまは……まだ飛べるのですね……!!』
ああ、本当に飛べるんだ。凄いなあ、見えなくても聞こえなくても全身で感じて飛べるんだ……アバ姉さんの言うとおりだった……外に出してしまえば膿んだ心もすっかり晴れてしまったようだ。
『まさか……こんなことが……!?』
蜂さんも驚いてる、そりゃそうだよね。情報を得る器官が2つもないのにそれでも飛べるなんて僕も思わなかった。
『なんじゃあああああああ!?』
蜜千代さんも驚いているようだ、あの大きさの身体だから驚きも大きいなあ。
『話を聞かせてもらおうか』
『え?』
どうして僕は周りを蜂さんに囲まれているんだろう……え……連行されるの……?




