10万年後の女王蜂はお姫様 3
ちょっと何を言っているかよく分からない。話せない人の話をどうやって聞けと言うんだろう、これは一休さん的な頓知を期待されているのだろうか。
『ナナフシが見つかったような顔をするではない。実は少々面倒なことが起こってな』
『面倒なこと……ですか……?』
その面倒ごとを僕に向かって丸投げしようという魂胆か……やっぱり暴君かもしれない。
『我らは長年ずっと蜻蛉共と争ってきたのだが……つい先日その争いに終止符が打たれてな。それで友好と停戦の印に人質を交換したのだ。だがな……その人質というのが目が見えぬ、それだけならばまあなんとかなるのだが耳がつぶされておってな。機密の漏洩の阻止と厄介払いを同時にしたのだろうが無下にもできぬ、いつまでも座敷に幽閉しておく訳にもいかぬのだ。ここに来てから声を聞いた者もおらぬ、無理を言っているのは分かっているが一度会ってみてはくれまいか』
いや、友好の証の人質の耳をつぶすとかなに考えてんだろう。それじゃあ友好もクソもないじゃないか。相当しぶしぶ和解したって感じなのかな?
『力になれないかもしれませんが……』
『それでも良い、可能性が少しでもあるのならな』
……ただの人質にどうしてここまで気をかけるのだろう。為政者的には、いれば良い人質に良い待遇をする必要もないだろうに。
『案内はお前を連れてきた者にさせよう、どうか頼む』
『分かりました』
できる限りの事をしよう……できない事だったら素直に謝るしかないけど。
「……はっ……私は……空で……何を……?」
デリさんも漸く意識がはっきりしてきたようだ。良かった、デリさんの耐久度次第では僕がどんなに頑張っても起こせないかもしれないから。
「デリさん、こっちだって」
「ん?ここどこ?」
「蜂さんのお城だよ」
「へ~、面白いねえ」
デリさんを連れて部屋を出る、するとすぐに僕たちを運んできた人が近づいてきた。
『話は分かっている、蜻蛉姫はこちらだ』
蜂さんの後についていくと、階段を何回か下りた先に鍵のついた部屋があった。
『ここだ、聞いていると思うが目も耳もきかぬ。話しかけても無駄とは思うが大蜂様にしばし付き合ってもらいたい。では開けるぞ』
『はい』
鍵を開けた先には着物の様な服を着た長身の人が1人でぽつんと座り込んでいた。
「かげろう……っていうか……トンボ……かな……?」
針金とまでは言わないが細く長い手足は非常に脆そうで今にも折れてしまいそうに見える。瞳は薄く開いているが白く濁った瞳はなにも映してはいないのだろう。くすんだ灰色の髪は床につくほど長くいが手入れをしていないのかまとまりがない。しかしそれら以上の特徴は華奢な身体とは不釣り合いな大きさの羽だった。それは半透明であったが光を反射してキラキラと光っている。
「……で、何しに来たの?」
「そっか……デリさんには聞こえてなかったね。あそこの人のお話を聞いて欲しいっていうお願いをされたんだ」
「話しかけたら?」
「でも、耳が聞こえないみたいなんだ」
そうだよ、聞こえない人にどうやって話かければいいんだ……僕はどうすれば……。
「でも君言葉以外で話す人とも話せたんでしょ?」
「え?」
そんな馬鹿な……って……いたよ……匂いとかで話す人が……それでも通じてたからもしかして話しかけたら何とかなるのかな。
「ありがとうデリさん。デリさんが居なかったら僕は何もできなかった」
「そ、そう?これからもどんどん頼ってね!!」
でもなあ、なんと言ったものか……どう声をかけたものか……。
「うじうじしない!!最初は挨拶でしょ!!」
「痛ぁ!?」
背中を叩かれてしまった、でも……そうだ。最初は挨拶から入るのがいいのかもしれない。
『初めまして……僕の声が聞こえますか?』
反応があった……ぴくりと羽が動いたのが見えた。聞こえている、耳が聞こえないのに聞こえているというのもおかしいけど聞こえているみたいだ。
『……また……まぼろし……えんまの耳は家の者に焼かれた……だから聞こえない……の……だからこれもまぼろし……でもいいの……えんまは役立たず……だからここに居る……役に立てるのは……ここで静かに腐っていくことだけ……』
これは……かなり参っている……というか……病んでいる……きっとここで僕が諦めたらこの子は本当にここで一生を使い切るのだろう。それが幸せでないことくらいは僕でも分かる。
『聞いてください、僕は旅人です。あなたはエンマさんというのですか?』
『おかしい……えんまのまぼろしがえんまの名前を聞くなんて……えんまは……役立たずの穀潰し……蜻蛉の面汚し……』
『あなたはこれからどうしたいですか、ここで一生を使い切るのが望みですか』
『今回の……まぼろしはいつもと違う……でも良い……まぼろし相手でもないと……話せない……えんまは飛びたい……もう一度……空を……できるなら遊びたい……でもできない……目も耳も……使えない……から……だから……ここにいるしかない……えんまの定めは……もう変わらない……』
飛ばせてあげたい……でも……目も耳もなしで……どうやったら飛べるのだろう。ただ飛んでただ落ちるだけで……終わってしまう……それはダメだ……救われない……目の前の人は救われない……どうしたら……どうしたら……。
『だからヨ、そういうときは姉貴を頼れってこったナ』




