10万年後の神様は公務員
『よう、来たナ』
気がついた時に僕の周りは真っ白な広い空間で目の前には小さな王冠を頭に乗っけて白い服を着ている女の子がいた。
身体の色は褐色で長めの羽と触覚がついている。腕とか足にギザギザがついているからカマキリかな?
『一応言っとくけどヨ。俺はバッタだからな。虫の王にして神だから当たり前だろ』
バッタはそんなに偉かったのか……確かに殿様バッタって言うもんなあ。きっと偉いんだろう。
『僕は……その……何のために呼ばれたんでしょうか……?』
『何のため?何のためときたか。神に呼ばれたらやることなんて一個だろう』
神に呼ばれた……まさか生け贄……?僕は今度こそ食べられるのか!?
『ぼ、僕はおいしくないですよ!!』
『喰わねえヨ、別に腹が減ってる訳じゃねえんだ。つーか俺の腹が減るなんて事態が起きたらここら一帯食い尽くしちまうヨ』
この人もしかして邪神と祟り神とかの類いじゃないだろうか、どう考えても恩恵をもたらすというよりも災害をもたらす系のように思える。
『じゃあ……僕は何で……?』
『その腕見りゃ分かるがお前モルトパールのところでもなんかあっただろ。それを教えろ、こっちは暇で暇で仕方ねえんだヨ』
あ、この方は暇をもてあましていらっしゃるだけだった……良かった……つまり暇つぶしに付き合えとそういうことらしい。
『分かりました……』
『おう、面白かったらおひねりやるヨ』
そういうわけで洗いざらい吐かされた。僕自身のことにはあまり突っ込んでこなかったけどモルト母さんとの辺りではものすごく詳しく話をさせられた。
『ぎゃはははははは!!!そうかそうかあのモルトパールが母親か!!』
お腹を抱えて大笑いしてしまった。そんなに面白かっただろうか、笑うところはあんまりなかったと思うんだけど。
『あいつがねえ……ぶふっ……母親……ぶふぉっ!!』
随分とツボにはまったらしくいつまでも反芻しながら笑い続けている。思い出し笑いの連鎖が全く終わらない……。
『ひー……ひー……死ぬかと思った……神なのに……』
どうやら神様を殺すには退屈で殺すか笑い殺すかのようだ。ひとしきり笑い終わった後にいきなり真面目な顔つきになったのでびっくりした。
『さて……と……予想の遙か上をいく笑い話を提供されてこれでハイさようならと送り返したんじゃあ俺の名が廃るってもんだナ』
そう言うとアバドンさんはつかつかと僕の方に近づいてきた。さっきまでの親しみやすい雰囲気はなりを潜めて神々しさが感じられる威厳を放っていた。
『おめえ……姉ちゃんはいたか?』
姉?僕は一人っ子だったから兄姉はいない。だからそんな存在のことは考えたこともなかった。
『いえ、いません』
『そっか、そりゃあちょうどいいナ。俺がお前の姉ちゃんになってやるヨ』
『え、妹じゃなくて』
どう見てもサイズ的にはそんな気がする、でも神様だから僕よりは年上のなのは確定だろうけど。
『うるせえな』
『ッ!?』
瞬きの間にアバドンさんは大人の女性の姿になっていた。
『神の見た目なんぞにとらわれてんじゃねえ、こんなのは仮に作ってるに過ぎねえんだからヨ』
『分かり……ました』
『それはそれとしてだ、さっきの舐めた言葉の落とし前は付けてもらうぜ?』
あれ、これは死んだのでは。
『おら』
『いだぁっ!?』
おでこがメチャクチャ痛い!!デコピンの威力じゃないこんなの!?こんなの鞭か何かで殴られたようなものだ!!
『おうおう、本当にひ弱だなおめえ。これでも細心の手加減をしてやってんだから感謝しろい。モルトパールの加護がなかったら意識もぶっ飛んでるところだったな』
ありがとうモルト母さん!!あなたのおかげでここで意識ごとぶっ飛ばされずに済みました!!
『しかし……モルトパールの最大の加護でそれってことはこれ以上の肉体強化は無理だな。器に余裕があるようだから入れるのは大丈夫だがヨ』
僕の身体の強さは今が最大らしい、悲しいかな10万年後の世界の平均値にも届きそうもない能力が僕の最強状態なのか……。
『まあ、俺だってモルトパールと一緒でまともに話したのはかなり久しぶりなんだ。少しばかり興奮しちまっているのは否めねえ。おめえがそこら辺でおっ死んだら誰が俺の退屈を紛らわしてくれんだって話しだしナ』
これは褒められているのだろうか、それともデコピンの威力のことを遠回りに謝っているのだろうか、神様の言い回しは難しいなあ。
『なんだかんだ言って俺もおめえが気に入ってるってことだヨ。だからまあできるだけ痛くないようにしてやる』
嫌な予感がする、たぶん今のアバドンさんの笑顔は捕食者の笑顔だ。獲物を喰う前に歯をむく、舌舐めずりをする。そう言う行為を神の規模に直したときにこの笑顔が出るんだ……やっぱり食べられるのかも……。
『よいしょっと……』
その自分より長い刀はどこから出てきたんだろう、というか10万年経っても刀が残ってるって凄いなあ。
『そうだなあ……おめえ何か怖いもんあるか?』
『し……死にたくないです……!』
とりあえずその刀をしまってくれると本当に嬉しいなあ……なんで刀自体から威圧感が放たれているんだろう……それ妖刀とかそういうものですよね……!?
『あ?死にたくねえ?不死……は無理だからなあ……まあ死に難い身体にしてやんヨ』
死に難い身体……一体どういうことだろう。僕は今から何をされるんだろう……ぼくの脳裏にはモルト母さんが槍を持つ姿がよぎっていた。
『いくぜ……』
非常識なほど長い刀が僕の視界から消える、不可解な現象に思わず首をかしげた。
『刀が……?』
『痛みはねえな?そのまま落ちちまいナ。あとはやっておくからヨ』
アバドンさんの視線が僕の顔ではなく胸を見ている、そこに何かあるのだろうか。痛みはないってどういうことだろう。
『ッ!?』
僕の左胸を刀が貫いていた。




