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10万年後の蜂さんは武士

 蜂さんに案内されて行った先には平屋の家があった、武家屋敷とかに近い造りのように思える。けど所々に8角形の構造が見えるのは蜂さんの巣作りの名残なのかな。

『飲むといい、特産品だ。身体に良いぞ』

 玄関で差し出されたものは湯飲みのようだ、白っぽい器はロウのようの見えるけど湯気が立っている液体が入って溶けないってことは何か違うものなんだ。

「ねえ、なんか出てきたけど……これってどうすれば良いの?」

「これを飲めって言ってるよ」

 ああ、頼られてる。僕は今まで役立たずだったからなんか嬉しいなあ。

『いただきます』

 これはお茶かなあ?でもお茶の割には強めの甘い匂いがするけど……。

『っ!?』

 あまっ!?想像の100倍甘い……。お茶と言うよりもこれは温めてトロトロになった蜂蜜そのものじゃないか……。

「飲んでも大丈夫……?」

 デリさんが不安そうな顔をしている、ダメだ僕がうろたえたらデリさんはもっと不安になってしまう。僕はもっと毅然としていなくては。それにここで飲まなかったら多分信用されない。

「大丈夫……でも味が濃いから少しずつね……?」

「分かった……」

 おそるおそるデリさんが口を付ける、ちびりと蜂蜜を飲み込んだ。その瞬間にデリさんの目がかっと見開かれる。

「っ!?」

「大丈夫!?」

 何かアレルギーでもあったのかもしれない。海のものしか食べていないだろうからこの蜂蜜はデリさんにとって初めての食材だ。アレルギーがあっても不思議ではない。また間違えたのか僕は……!!

「デリさん!?」

「あっま~い!!おいし~い!!」

「え?」

 目の前でデリさんは蜂蜜をぐびぐびと飲み干してしまった。女の子は甘いものが好きっていうのは聞いたことはあるけど……蜂蜜をストレートでいって飲み干せるものだろうか……。

『ほほう、そちらの女子おなごは随分といけるクチらしいな。なによりそれを飲むことは我らとの友好を意味する。改めて貴殿らを客人として迎えよう』

 やっぱりこれは通過儀礼のようなものだったのか。

『とりあえず客間で休むといい、ここまで泳ぎ続けてきたのだ。連れのイオの者は大丈夫だろうが貴殿には辛い道のりだったことだろう、ゆっくりと休め』

 イオの者?ここでは水の民のことをそう呼ぶのか……それが当たり前か。使ってる言葉が違えば表現だって変わるよね。

『ありがとうございます、心遣い痛み入ります』

 礼儀は大事だよね、いきなりやってきたわけだし。それにしても痛み入るなんて初めて使った、言葉使いにも気をつけないと。

『そんなに畏まらなくてもいい。貴殿は我らの言葉を解す者だ。それはすなわち我らの同胞を意味する。同胞をもてなさぬ者などいない』

 ここでも同じ言葉を話すことは強い仲間意識を伴うようだ、それほどまでに同じ言語を有する他種族の人は貴重なんだ。

『こっちだ』

「デリさん、こっちだよ」

「あ、うん」

 蜂さんはずんずんと屋敷の中を歩いて行く、失礼かもしれないけど後ろ姿を観察すると針の部分にも甲冑がついていて刺せないようになっていた。もしかしてこの針も蜜蜂みたいに内蔵とつながっているのかもしれない。

『気になるか?』

『ひゃっ!?ごめんなさい不躾でした!?』

 ここで気を悪くされたら僕たちは文字通り蜂の巣にされてしまう。穴だらけになるのは困る。でもさっきまで普通に正面を見ていたような……?

『いやいい。我らはめったに他の者と関わらぬ。故に珍しいのは自覚している』

『あのう……僕たちが見えているんですか?』

『ん?そうか。貴殿らは我らの目を知らぬのだな。我らの目は自らの真後ろの極一点を除いて見えているのだ。貴殿らで例えるとそうだな、顔の横にも目がついているようなものだ』

 視界が広すぎる……一体どういう風に見えているのか凄く気になるけど……多分理解できるようなものじゃないんだろうな。

『着いたぞ』

 蜂さんが襖みたいな仕切りの前で止まった。本当に武家屋敷みたい……もしかしたらここには城まであるのかもしれない。

『ここで暫しくつろいでいてくれ。こちらに準備ができたら呼ぶ』

『分かりました』

 中は掘りごたつのようなものが中心にあって壁の上の方には神棚のようなものがおいてあった、ガラスはないようだけど薄い膜のようなものがあって外の庭が見えるようになっている。旅館みたい……すごい何これ……。

『ではな』

 蜂さんは行ってしまった……本当にここで休んでいていいってことなんだろう。歩き回るなってことでもあるんだろうけど。

「はー……緊張した……君はずっと喋ってるし……でも歓迎されてるんだよね?」

「うん、大丈夫。今すぐどうこうされるってことはないみたい」

「良かったあ……」

 デリさんが胸をなでおろす。やっぱりデリさんも不安だったんだ、ここでは僕が頑張らないとな。

『ああん?なんだこいつら。俺の眷属でもねえのになんでここにいるんだヨ』

 声が聞こえた、蜂さんじゃない。

『モルトパールのとこの奴は分かるがこっちは何だヨ。なんの特徴もありゃしねえ、ガルのとこでもねえしヴォーダのところでもねえ。でもモルトパールのお気に入りだな、何こいつ意味分かんねえナ』

 声の出所は多分神棚みたいなところだろう。

「……なんか音がするけどなんだろう?」

「デリさん……今から一人言を言うけど気にしないでね」

「え?あ、うん」

 デリさんには聞こえてない、つまりこれは別の言語でモルト母さんのことを知っている。モルト母さんと同じような存在かな。

『初めまして……僕は旅人です……あなた様はいったい……?』

『おいおいおいおいおい……古代語だと……久しぶりだな……まともに話せる奴はヨ』

 この反応を見るとやっぱりモルト母さんと同類っぽい。つまりは神様だ、失礼をしたら多分死ぬ。

『俺はヨ。アバドンってんだ、簡単に言うと虫の神だ。おめえ見所あんナ、ちょっとツラ貸せや』

 え?

『俺の神域ショバに入れてやっからヨ』

 僕は何かが吸い出されるような感覚と共に意識を失った。

 



 


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