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10万年後の行き先は風が決める

 村長さんをふりきったあとはそこまで大きな妨害もなく僕たちは村の外へと出ることができた。そこになって僕は重大な問題があることに気がついた。

「……どこに行けば良いんだろう……?」

「え?決めてないの?」

 デリさんが呆れたような顔をするのも当然だ、でも仕方ないと思う。だって僕は村の周りに何があるのか全く知らなかったし……。

「デリさんはどこか心当たりあったりしない?」

「そうだなあ……せっかくだから陸に上がりたいけど……君は獣と鳥だったらどっちが好き?」

 鳥も獣じゃんとか言ってはいけない……きっとデリさんは四足系の獣ベースの人と鳥のことを言っているんだ。どっちが好きと言われてもどっちも嫌いじゃないとしか……。

「危なくないのはどっち?」

「危険じゃない人なんていないよ、みんな敵を殺せる力を持っているんだから。なにより君は弱すぎて子どもに殴られても重傷になるだろうし」

 ……やっぱりひ弱なんだなあ。

「じゃあここから近いのはどっち……?」

「それだったら獣のほう。ここからなら夜明けには着くかな?」

 今は真っ昼間である。つまり半日ぶっ続けで泳げば着くということか……なんとかなるかな。今の僕はモルト母さんから貰った力で泳ぎに関しては問題ないみたいだし。

「あ、でも、未知のところっていう意味では蟲のところでもいいね」

「むし……ってあの……虫さんですか?」

 蝿みたいなのとかは見かけたような気がするけど鯨の卸のときだって虫みたいな人いなかった、それってよっぽどの奥地とかにいる部族なのではないだろうか。

「……君の言う虫さんがなんなのかは分からないけど私たちとは違って外側の骨で身体を支えてる人たちで、目がいっぱいあったり長くて細い角があったりするよ?」

 外骨格、複眼、触角ですね。完璧に虫さんです。だいたいつかめました。昆虫なのかそれ以外もいるのかは分からないけどものすごく危険なんじゃ……。

「それって危険だよね?」

「どうだろう、たまに蟲のところからお宝持たされて帰ってくる人もいるみたいだよ?」

 ……竜宮城なのかな。それとも宝の出所を探られたくない人がもらったって主張しているだけかもしれない……。

「でもね、村長が言うには蟲はみんないい人らしいよ。それに全く違う文化を持っているから面白いって……酔ったときに言ってたような……?」

 限りなく不確定な情報……信じることはできない……それに僕は虫があんまり得意じゃない……これはスルーした方がいいな……。

「やっぱり獣さんたちの方にうわっ!?」

 いきなり突風が……嵐でも来るのかな……?

「良い風だね……こういう突風が吹いた先に行くと幸福が訪れるって言われているんだよ」

「そうなの?じゃあそっちに行こうか」

 担げるだけの験は担いでいった方がいい。

「良いの?」

「いいよ、男に二言はないってね」

 この言い回しは通じるのかな?こっちの慣用表現も分からないところがあるからデリさんにもちゃんと伝わるのか不安だ。

「こっちは蟲の縄張りだけど……」

「んんっ!?」

 行きたくない……でも言ってしまった……二言はないって……かっこつけてしまった……でも、もしかしたら本当に良い人たちかもしれないし……。

「だい……じょうぶ……」

「そう?じゃあ行こうか」

 行き先が心なしかどす黒く見えるのは気のせいであってほしい。

「そうなると……どれくらいで着くか分からないね……なにしろ蟲の所は国でのつきあいっていうか村でのつきあいっていうか……そういうのないからね」

「どうしてだろう……そんなに自己完結できるほど資源が豊かなのかな?」

「んー、どうだろう……分かんないや……行ったら分かるよきっと」

「そうだね……まずは行ってみないとね」

 そうだ、退路はなくなった。前に進み続けるしかないんだ。それが地獄への片道切符じゃないことを祈って。

「そうだ、ちょっと待って。探ってみるから」

 デリさんが潜ってしまった、何をするんだろう。こめかみに手をあてて……口を開けている。でも声が聞こえるわけじゃない。

「…………」

 もしかして超音波で探知でもしているのかもしれない。イルカっぽいのは伊達じゃないってことなのかな。

「あれ、思ったより近いや。あと3時間も泳いだら陸があるよ」

「それは良いね、何もなかったらどうしようかと思ったよ」

「こっちだよ」

 デリさんが先導してくれた。それに追従して泳ぐこと約3時間。確かにそこには陸があった。

「上がれると思う?」

「……全身傷だらけになってもいいのなら」

 なぜかそこには鎧を着た虫の人たちが武器を手に待ち構えていた。黄色と黒の縞がある甲冑と羽から考えると蜂かな?

『何用だ、ここが大蜂様の領地と知ってのことか。情報ではまっすぐこちらに向かっていたようだが……』

 一番立派な甲冑の人が声を上げた。でも声というかカチカチという音のような気もする。

『僕たちは旅人です!!どうか武器を収めてください!!敵意はありません!!』

『……なぜ我らの言葉を話せる……見た目は同胞ではない……ということは……貴殿の親もしくは祖父母が我らの同胞なのだろう……加えて旅人か……いいだろう……茶くらいは出してやる……上陸を認めよう』

 良かった……話が通じた……これで一斉に矢を射かけられていたらと思うとぞっとする……あの人に話を聞く気があって本当に良かった……。

「上がって良いって」

「……君って本当にどんな言葉でも喋れるんだね。相手はカチカチやってるだけなのに……」

 尊敬の目で初めて見られた気がする、良かった……僕にもできることはあるみたいだ。

 

 

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