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10万年後は魚が歩く その1

 顔に当たる風を感じる、加えて微かな揺れがある。

「ん……?」

「やっと起きた!!いきなり倒れたからびっくりしたよ!!」

 何かに乗せられているようだけどなんだろう、車でも船でもない感じ、一定間隔で揺れる感じだ。

「あ、身体起こさないでね?落ちるよ?」

 落ちる?

「あのう……僕は何に乗せられているんでしょう?」

「何って私の背中だけど?」

 背中?あまり大柄じゃない僕だけど、それを乗せて泳いでるとでも言うのだろうか。そんなのイルカかシャチみたいなのしか無理だと思う。

「失礼だったらごめんなさい、あの、あなたは人間ですか?」

「にんげん?何それ?」

 ああ、やっぱり10万年で人間は滅んでしまったんだ。その言葉すら残っていないんだもんな、じゃあこの半分お魚のお姉さんはいったい……。

「もしかして部族のこと聞いてるの?私はアグアの民だよ?」

「あぐあ?」

 聞いたことのない言葉だなぁ、というかなんで言葉が分かるんだろう。方言でさえ分からないものがあるって言うのに10万年先の人間じゃない人(仮定)の言葉が分かるわけないのに。

「そんなことも知らないの?というか君はどこの人なの?シエロでもないしボスケでもないよね?」

 しえろ、ぼすけ、全く想像がつかない。なんて言ったら良いのだろう、どういうのが正解なのかもよく分からない。

「えっと……とっても遠いところから来たんだ」

 およそ10万年前から。

「そうなのね、だからあんなところで1人で浮かんでたんだ。なーるほーどなー」

 なんか納得してくれたようで良かった。

「それで僕はどこに連れて行かれるんでしょうか?」

「ん?とりあえず私の村へ連れて行くよ?」

 棺の上じゃあ死ぬしかなかったからありがたいな、今となってはもう死ぬ気なんて起きない。死ぬことがどれほど怖いことかよく分かった。

「ありがとうございます、助かりました」

「えっと……ごめんなさい。助かるかどうかは君次第なんだ」

 どういうことだろうか、まさか村に入るのになにか試練をこなさなければいけないのだろうか。自慢じゃないけれど今のぼくは虚弱もいいところだから肉体派な試練だと詰む。

「あの……僕は何をすれば助かるのでしょうか」

「何をするって言うか、海神さまの機嫌次第だから運なの。海神さまにぱくっと食べられちゃったらそこまでだよ」

 まさかの生け贄パターンもあり得るのか。海神さまっていうのがでっかいイカとか海蛇じゃなければいいなあ。イメージとしてクラーケンとかシーサーペントは人間を頭からぱくっといっちゃう感じがするから。

「あ、そろそろだよ。心の準備だけはしておいてね?」

「うん……」

 動きが止まった。

『汝は何者ぞ、善き者ならばここを通れ、悪しき者ならばここで死ね』

 物騒なことを言いながら浮上してきたのはでっかいシャチ的な感じの魚人(?)の女の人だった。なんかフォークみたいな槍を持っている。

「気をつけてね、海神さまの言うことは分からないけどこっちの言うことは分かってるみたいだから」

「え?あ、うん」

 どうしよう、喋ってること分かるんだけど。

『まあ、口上を述べたところで今の者が妾の言葉を理解できるはずもないのだが。だいたい古代語なんて知っていて当たり前の言語を失伝するなど最近の水の民はどうなっているのだ。全くもってけしからん、話し相手がいなくて暇で仕方ないのはどうにかならんのか。こっちは神だぞ神、敬うだけじゃダメなんだぞ、巫女もいなくなってしまったし、ああもう選定もめんどくさいからさっさと喰ってしまおうか』

 うわ、めっちゃ愚痴ってる。なんだろう、最近の若者ディスはいつどんな時でもあるっていうのが本当なんだって分かるなぁ。

『あのう……できれば食べないでくれると嬉しいんですが……』

『は?』

 シャチの人が酷く驚いた顔をして止まった。

『おまえ……もしかして妾の言ってること分かるの?』

『はい、大変そうですね。心中お察しします』

 目に見えて顔がというか全身が赤くなる。もしかして怒らせてしまっただろうか。

「あわわわ!!あんな海神さま初めて見るよ!?いいから早く謝って!!」

『えっと怒らせてしまったならごめんなさい……なんでもしますから食べないでください!!』

『……ぶくぶくぶく』

 あ、沈んでいってしまった。どうなるんだろう、ここからサメ映画みたいに下から一気にぱっくりといかれてしまうんだろうか

『汝は何者ぞ、善き者ならばここを通れ、悪しき者ならばここで死ね』

 何事もなかったかのように最初からやり直した……!?僕はいったいどうすれば良いんだろう……。

『汝は善き者か?』

 これは普通に答えて良いのだろうか、でも答えないのも不敬だろうし。

『たぶん……善きものです』

『そうか、ならば通るがいい。そしてお前にはこれを授ける、夜になったらこれを海にかざせ』

 貝殻……的なものを渡された、アンモナイトみたいだけど色が緑色だ。良かった、思ったよりもいい人そうだ。

『今夜だ……いいな?やらなかったら喰うから心するように』

『は、はいぃ……!?』

 やっぱり怖い人かもしれません。

 




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