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10万年後の旅立ちは少し物騒

 僕には持っているものはほとんどないので支度をする必要もない、強いて言えば鯨の骨からできたペンダントを貰ったくらいだ。だからデリさんが良いよって言ってくれればすぐにでも出発できるんだけど。

「あれも必要かな……ああ……これもあった方がいいよね……でもなあ……」

 デリさんの荷造りがいっこうに終わりません。女性の支度には時間がかかるっていうのは聞いていたけれどまさか2日もかかるなんてのは予想外だった。でも明らかにデリさんよりも荷物が大きくなっているので流石にまずいと思った

「デリさん……その……荷物多すぎると……思うよ?」 

「何言ってんの!!君が何も持ってないから私が二人分持つんでしょうが!!」

「……ごめんなさい……」

 だめだ、デリさんに勝てるようなビジョンが見えない。実際僕には何が必要かも分からないのは本当だからなあ。ここは任せておくしかないのかな。

「でも……水があるところだけ行くわけじゃないから浮かせること前提で荷物を作るのは危険だと思うなあ」

 見る限り袋のまわりに浮きのようなものが見えるし、浮かせて運ぶんだから重さはあまり関係ないと思っている節がある。

「陸路でも問題ないよ?別にこれくらいなら重くもないし」

「さいですか……」

 根本的な肉体スペックの差に打ちのめされる、これ本当に僕って言葉が話せるだけなんじゃないだろうか。なにか役に立てることはないかな……。

「どうしたの?どこか痛いの?」

「身体は大丈夫だよ」

 心の問題なので大丈夫です、僕自身で解決しなきゃいけないんだ。

「でも、そうだね。村長に伝えてから結構経つしそろそろ始まる頃だから心の準備だけはしておいてね」

 心の準備か……デリさんに連れてきてもらってからここでお世話になったけど……鯨とか通訳とか色んな事があったなあ。ペスカさんには重ね重ねお礼を言わなくちゃならないなあ。結局ダレさんのところには行っていなかったなあ。

「今回は皆いるからね……うかうかしてると死んじゃうかも……君弱いから気を付けてね?」

「ちょっと待って……今から何が起こるの……?」

 うかうかしてると死ぬって一体……。

「あれ?知らないの?旅人はすぐには帰ってこられないように村から追われるんだよ。そこで逃げられないようなら資格がなかったってことになるの」

「そういうことは早く言って!!いつ始まるのそれ!!」

 まずいぞ……誰に捕まっても僕は自力じゃ逃げられない……というか普通に殴られただけで首が折れて死ぬかもしれない……。

「たぶんもう始まってる」

「は?」

 凄い勢いで水をかき分ける音が聞こえる、この音はたぶん何かがこっちに向かって飛んできている音!!

「うわあああああ!!?」

「あっちゃあ……最初から出てきたの……ダレおばさん」

 デリさんの家の壁をぶち抜いたのは一本槍だった、村長の持っていたフォークとは少し形が違う、こっちは十字っぽい形をしていた。

「か……かか……壁が……!?」

「そりゃあそれくらいやるよ、だってダレおばさんは同じ大きさなら村長より強いし。なんならここら辺では十字の死神だなんてよばれてたり……」

「ひぃっ……」

 ちょっと待って……強さが想像の遙か上をいっている……逃げられないかもしれない。

「なんだいなんだい……随分とのんきだねえ……そんなに行きたくないのなら……ここであたしの槍の錆になるかい……?」

 目の前に死がいた、そう錯覚するほどの殺気……全身が粟だって動けない……水の中でも自由に動けるはずなのに……まるで壁のなかでもがいているような……逃げろと頭がいくら命じても身体は反応を示さない……無理だ……こんなものから逃げられるものか……。

「なんてね?」

 一瞬で身体の自由が戻る、水中でなかったなら全身は冷や汗でびっしょりだっただろう。笑顔でこっちを見るダレさんからは敵意は感じられない。

「もー……脅かさないでよー!!」

「あっはっはっは!!いやなに一回くらいは本気の姿も見せておこうかと思ってね?」

 ゆるゆると世間話でもするかのように喋りながらデリさんはダレさんの開けた穴に背を向けるように動いている、それに合わせてダレさんは槍を握り直していた。

「さて、本気はここまでだけど……あたしだって村の一員だからね追わない訳にもいかないのさ。10秒だけ待ってあげるから早くお行き」

 目から親しみが消えた、きっと10秒後には本当に追ってくるのだろう。そういうケジメがはっきりと分かる物言いだった。

「背中からざっくりは嫌だよ?」

「分かってる、もう槍は投げない。大丈夫さ、行ってらっしゃい」

「うん、行ってきます」

 最後の一言にいったいどれだけの感情が込められていただろう、一瞬だったけどそれはきっとなによりも大切な一瞬だったような気がした。

「行くよ」

「うん」

 僕の手を引いてデリさんが泳ぎ出す。

「ダレおばさんが待ってくれてても村長とペスカおじさんがいるから気をつけて……あの二人には遊びはないから」

「ペスカさんは強いの?」

 あの人戦闘が本文って感じじゃないように思うけど……むしろ文官タイプっていうか苦労人気質っていうか……。

「……ペスカおじさんは……大きくなった村長を止められる唯一の人だよ」

 


 


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