10万年後の寝坊
カツランさんを何とか見つけ出して戻ってくると出てきた時と全く同じ姿勢で固まっているのを見つけてしまった。
「もしかして……」
「君に待っててと言われてから動けないんだけど……なにこれ?」
「まぼろしさんがとうとう妖術を習得してしまったとは……えんまもびっくりです……」
これは迂闊に喋れなくなったぞ……なにが影響を及ぼすか分かったもんじゃない……。
『坊……これは一体どういうことなん?化け物は死んどるし姐さんらはボロボロのまま立っとるし……説明してくれるか?』
ここはもう肉体言語の方で返したほうが良いな。
『(実は戦いがあって、それで皆負傷してしまって。治療をしてもらえませんか?)』
『それが仕事やからもちろんやるわ……でも異常やねえ……とても立てるような傷じゃ……姐さんらなんて気を失いながら立ってはるし……まあやることは一緒やけど……』
立ったのは僕のせいです……起きてって言ったのに立ち上がったのは制御ができてないせいなのかな。そうだ、もしかして治してって言ったら皆治ったりして……試してみようか……
「皆を【治して】」
……何も起こらない? どういうこと? 言った通りになる力じゃないってことなの? 分からない……やっぱり一刻も早くこの力を知らないと。
『坊も疲れとるやろ? 先に休んどき』
根っこに運ばれてしまった。今は休むことを優先しても良いだろう。治療が終わるまではここを出発できないし。
「自分に対しても使えるのかな……【眠れ】」
なーんて、使えるわけないよねえ。
「ははは……は?」
瞬間移動? なぜかベッドみたいなところにいるんだけど……どういうことだ……僕は……根に運ばれて……それで自分に眠れって……
「効いてるじゃん……ええ……眠る瞬間も分からないくらいの一瞬で?」
身体を起こす、なんか怠いな……そんなに長い間寝てたのかな?
「おき……てる」
あ、デリだ。随分と疲れたような顔をしているなあ。治療がそんなにハードだったのか……大変だったんだなあ。
「どうしたんですかデリさん。まさかまぼろしさんが起きたとか言うんじゃ……!?」
燕間も来たみたいだ、2人してなんでそんなに驚いているんだろう。それに疲れも酷そうだし……大丈夫かなあ。
「おはよう。何かあったの?」
「何かあったのじゃないよ!! 30日も寝るなんて何かあったのは君の方でしょ!!」
え?
「え? 30日? そんなまさか……ね?」
「本当です……まぼろしさんはにづへぐを倒した後30日間眠り続けていました」
うっそだあ……まさかそんなこと……
「じゃあ自分の身体見てみなよ、骨が浮き出てるよ」
「そんなことあるわけ……」
視線を下に落とす、そこにはガリガリになった僕の身体があった。
「ひっ!? そんな……本当に眠り続けてたの?」
「ほんとだよお……こわかった……しんじゃうかとおもったんだからあ……!!」
「まぼろしさんはよわいんですからあ……むりしないでくださいよぉ……そのぶんえんまたちがたたかいますからあ……!!」
あわわわ!? 泣いてしまった!?
「やめてやめて【泣かないで】お願いだから!!」
不自然に涙が止まった、しまった……声を出すとダメだ。
「その変な力のせいなの? 話すと勝手に使っちゃうの?」
デリ鋭い、話が早くて助かる。
「(そうなんだ、言葉が勝手に力を持っちゃうっていうか……そのごめんなさい)」
「言霊というものでしょうか……まぼろしさんは新たな境地に入られたんですね!!」
境地というかなんというか……とりあえず早く制御しないと大惨事を起こしかねない!!
『……坊が……起きとる』
ああっ……今カツランさんまで来たら場がもっと混沌と……!?
『じゃあとりあえずこれ飲んどき、身体が驚くからまともな飯が食べられるのはもっと後だと思うてな?』
水? じゃないな……ほのかに甘い香りがする……果実の匂いかな? すごく落ち着いてる、これが大人の対応ってやつか。
『(ありがとうございます……30日も眠ってしまってたとは……)』
『もっと寝てても良かったんやけどなあ……寝てる間は甘やかし放題やったし』
え? 僕は寝てる間に一体何を!?
『上の世話から下の世話までぜーんぶやってたんやで? 痩せていくのを遅らせるために口移しで食べさせてたしなあ』
がっ!? ガッデム!? まままままままさかなあ……カツランさんはじょ、冗談が上手いなあ!!
『(冗談ですよね?)』
『そう思うか? ならそこの嬢ちゃん達にも聞いてみたらええよ? 手伝ってもろうたから』
聞けるわけない!! ねえもしかして口移しとかしてた? なんて気軽に聞けたらそれはもう超合金のメンタルにも程がある!!
『ま、信じるかどうかは坊次第や。体力が戻ったら長から話があるからそのつもりでなあ』
もう……グロッキーです……これ以上のダメージは……死んでしまう……