#8 逃げた先には
1ヶ月以上待たせてしまい、申し訳ありません。
次回は、1ヶ月以内を目標にしますので、これからもよろしくお願いします。(1ヶ月以内は長すぎるんじゃないかって?気にしたら負けです。)
は、背中に背負っていた剣を鞘からそっと抜いた。キアラはそれでも冷静だった。
「抵抗しないで。抵抗しなかったら痛くはしない。」
顔が強張る。
「俺の相手は余裕ってことかよ...」
相手の余裕から生み出される焦りと緊張、それになにより初めての対人戦、キアラには余裕がある。下手したら死ぬ。そんなレベルの戦いだ。俺は剣を構える。
「それは抵抗するってことで良いの?」
キアラは完全に戦闘モードに入った。それなのに、俺の体は震えていた。死ぬかもしれないという恐怖、殺してしまうかもしれないという不安、いろんな感情が入り混ざっていた。1滴の汗が頬を伝う。キアラはそんな俺にお構い無しにジリジリと近づいてくる。俺は、キアラに向かって走り、そして、剣を振った。キアラは何の武器も持っていない。なのに、周りに魔方陣もない。
あれだけ強気だったのに抵抗しない?どうゆうこ....と......は?
何もない所から剣が生成される。そして、俺の攻撃を防ぎ、剣を弾いた。
「嘘だろ...!?」
体制を崩した俺に対して、キアラは追い討ちをかけるように剣をもう一本生成し、俺に斬りかかる。
「...っ!?」
俺はギリギリでその攻撃を防いだが、空中で踏ん張りが効かず、そのまま吹き飛ばされる。着地は失敗し、その場に倒れる。キアラがそのタイミングで俺に剣を振り下ろす。俺は剣でその攻撃を防ぐ。
こんなの、ストーリーの序盤で出てくる敵の強さじゃねえよ!パワーバランス崩れ過ぎだろ!これはストーリーの中盤か、それ以降に出てくる中ボスレベル...!ってそんなこと考えてる場合じゃない!力比べは明らかに俺の方が不利だ。どうにか対処法を...!
キアラの力が強まる。
「くそっ...!」
このままじゃ押し負ける...!
俺は剣の刃を支えていた手を放し、剣を斜めにして攻撃を受け流す。キアラが持っていた剣が地面についた瞬間に剣を振る。キアラはそれを避けるために、大きく後ろに飛ぶ。
俺はふと疑問に思った。なぜキアラはモデレータの方にいったのか、そしてなぜそのままモデレータのところに居続けるのか。
「お前、何でこんなことしてんだ?」
キアラはこう答えた。
「私がしなくちゃいけないから」
「なんでそこまで....」
「あなたには関係ない」
キアラが2本ある剣の内、片方を投げる。
「くっ....!」
キアラの投げた剣は真っ直ぐ俺に飛んできた。俺はその攻撃をギリギリでかわす。
「.....っ!?」
こいつ...下手したらこれで俺死んでたぞ!捕まえに来たんじゃねぇのかよ!?
キアラに目を向けると、キアラはもう目の前にいた。もうすでに攻撃を仕掛けてきている。
「なっ....!?」
剣に釣られて完全に対応が遅れた...!剣は間に合わない。じゃあ避けるしか....
キアラの剣はもう間近まで来ていた。
駄目だ...!間に合わな....
急に全身にエネルギーが走るような感覚が生じる。同時に体が軽くなる。そのおかげでキアラの攻撃を後ろに大きく飛び、ギリギリで避けることが出来た。
これはまさか.....
髪の色を確認する。
赤い....!能力が発動してる!
「よしっ!」
俺はすかさずカウンターを入れようとしたが、キアラの姿はもう目の前には無い。
「....は?」
振り返ると、そこにはキアラの姿があった。
あの一瞬で俺の後ろに来た....こんなの人間が出せる速さじゃ無い。魔法の詠唱は聞こえなかった。だとしたら転生者だけが持つ能力。一体こいつは、何個能力を持ってるんだよ....
「アベル!」
クレアの声が聞こえた。
「スコール!」
クレアの魔法が発動する。吹き荒れる陣風、キアラは大きく吹き飛ばされた。
「大丈夫?」
「おかげさまでなんとか...」
マジで助かった、クレアが来てなかったら負けてた...けど、
吹き飛ばされたキアラが立ち上がる。俺はクレアに小さな声で言った。
「逃げるぞクレア。」
「え?」
クレアがキアラを吹き飛ばしてくれたおかげで道が空いた。俺はまた、クレアの手首を掴み、その場から逃げた。
「ちょ、ちょっと待って!」
ある程度進んでからクレアが急に立ち止まる。俺の手が離れる。
「どうした?」
「何で逃げたの?」
「何でって....」
俺は下を向いた。
「クレアが来るまであいつと戦ってて1つ、はっきりとわかったことがある。」
「何?もしかして攻略法とか?それなら」
「そんな大層なことじゃねぇよ。」
「え?」
「今の俺じゃ....能力を発動したとしても、あいつに勝てない。」
クレアは少し困惑しているようだった。
「クレアが助けてくれたあの瞬間、俺は能力が発動してた。なのに反応出来なかったんだ。だから」
それを聞くと、クレアは呆れた表情を浮かべた。
「なんだ、そんなことだったのね。」
「えっ、そんなこと?」
「逃げる必要なかったじゃない。」
「あいつには勝てないから逃げたんだぞ?逃げなきゃ負けてた。」
「じゃあ、アベルが逃げた先には...何があるの?」
「は?」
「確かに今回は、標的がアベルだから、アベル1人逃げれば、争いは無いかもしれない。けど、次また同じように逃げたら、その先に何があるのかわからないわよ。」
そんなこと、本当はとっくに気付いていた。それなのに、
「今回は勝てないとわかったら逃げたんだ。」
苦し紛れの言い訳を繰り返た。
「勝てる勝てないなんてのは、自分と周りの人間が過去と今の情報で勝手に決めてる偏見。だったわよね?」
「それはやる前から決めつけんなってことだ。やってみなきゃわからない、けど、俺は一度やって負けるとわかったから逃げたんだ。わかったら逃げるぞ。」
俺はもう一度クレアの手首を掴み逃げようとした。
「わからない。」
クレアは動こうとしなかった。
「勝てる勝てないを、なんでアベルが決めつけてるの?」
「なんでって..そりゃ....」
「確かに、アベル1人じゃ勝てないかもしれない。でも、それはあくまでアベル1人の場合。今は2人いる。2人なら....まだ、わからない。」
そうだった。俺は、自分であんなこと言っておきなから、その偏見を自分が持ってた。そのことを今気付かされた。
「....悪かった。」
まさか自分が言った言葉で相手に気づかされるとは、反省しないとな。またクレアに助けられた。
「別に大丈夫よ?モデレータの仲間は早めに倒しておきたかったし、それに、逃げ続けるのもなんか釈然としなかったから。」
「お、おう。」
クレアが冷たい....いやまあだいたい俺のせいって知ってるけども、ちょっとくらいツンデレ発動してくれてもいいじゃん....多分ツンデレキャラじゃないけど。
「それより、多分キアラは能力複数持ちだ。そこんとこはどうするんだ?」
「...え?そうなの?」
「え?」
予想外の返事で、俺の口から力の抜けた声が聞こえた。
まさかこいつ....
俺がクレアを見ていると、クレアは目を反らし冷や汗をかいていた。
「おい目を反らすな..」
やっぱり何も対策考えてなかったな?
「だって!あの子とは初めて戦うし!能力複数持ちとか、そんなの予想できるわけないじゃん!」
いやあんな強気に言われちゃ対策あると思うじゃん!
「...今気付いたけど、対策考えるとしてもアベルの能力切れちゃってるじゃん。」
髪を見ると確かに黒に戻っていた。
「ねえ、さっきの言葉撤回するから逃げない?」
「いや諦めんの早いな!?もうちょっと対策考えろよ!」
「アベルはまだ能力を完全に使える訳じゃないし、それにほとんど戦闘経験もゼロに等しいから、考えようにも考えれないのよ。」
能力か....
「なあ、その能力についてなんだけど....」
あのときの感覚が間違いじゃないなら
「能力が発動する前提で話を進めてくれないか?」