#7 1人目の使者
少し修正しました。
「....誰?」
「え、いや.....誰って.....」
こっちのセリフなんだが.....じゃない!こいつ落ちてきたよな!?あれ?でもこいつ、落ちてきたのに傷ひとつついてないよな... どうなってんだ?声もボソボソと聞きづらいし....あ、胸はそこそこデカいかな....いや胸は今関係無いな。名前か.....。悪いけど、名前言ったら殺されるし、隠した方が良いよな?
「先に、お前が何者かなのかを教えてくれないかな...?正体もわからないような人に教えるのはなんか違うだろ?」
そう言うと彼女は、少し考えた。そして、何かに納得したような顔をし、口を開いた。
「.....私はキアラ」
「キアラ....ここらではあまり聞かない名前だな。どこから来た?」
取り敢えず村人の振りをする。相手は俺がアベルって知らない様子だし、むやみに逃げるのはバレる危険性があった。多分、こうすることが、俺にとって一番安全だったんだろう。
「それは.....言えない。」
「そうか.....」
言えないって何だよ....俺も転生してすぐはそうだったけど!あ、じゃあこいつ...
「なあ、」
彼女が俺の方に顔を向ける。
「お前、もしかして転生者か?」
ただでさえ転生者が多すぎる世界だ。こうゆうこともあり得るだろう。
「...違う。」
彼女は、うつむきながら否定した。多分、転生者が嫌われてることを知ってるんだろう。一度染み付いた警戒心は簡単には解れないか。まあ、まだ村人の可能性も残ってるし....
「てか、なんで上から落ちてきたの?」
「......。」
え?なんでいきなり黙んの?気まずいんだけど...
「えっ...と、聞こえてる?」
「.....。」
駄目だ会話できない。
「ごめん、他人に言って良いのかわからなかったから。」
「あ、そうなんだ。」
え、何、他人に言っちゃ駄目な落ちてきた理由って。恐いんだけど。怪しい取引で用済みになったから殺されそうになったとかそんなの?
「人を探してるの。」
「....はい?」
これは予想外、てか予想できる人いないだろ。人探しでどうやったら落ちてくるんだよ。
「人を探して...」
「うん、ごめん。わかった。ちゃんと聞こえてたよ。」
人を探してるか。もし、こいつが村人だったら、多分探してるのは俺だろうな。なら、ちょっとは情報貰っとくのもアリだな。
「そうだ。その人の名前とか、見た目ってわかる?俺で良かったら協力するけど。」
「いいの?」
「ここで会ったのも何かの縁だしな。」
「ありがとう。」
村人が俺を殺す為の作戦とか、武器の種類とかも知っておきたいな。まあ、それは後でいいか。てか、どこから来たとかは言わないのに、目的は簡単に言うんだな.....大丈夫かこいつ?
「私は、アベルって人を連れてこいって言われてここまで来た。」
「...は?」
思わず動揺してしまう。「殺してこい」ではなく、「連れてこい」。この言葉が、俺から焦りを生み出す。それは、村人が俺を捕らえるということへの不安ではなかった。
モデレータ
俺が動揺したのは、こいつの名前を思い出したからだった。よく考えると、モデレータが転生者に気づかない筈がない。だから、魔王を倒すほどの勢力を、転生者のみで集めることができた。そんな奴のところに今の俺が行けば、必ず死ぬ。モデレータを倒す、そんなことを言っておきながら、俺は抵抗する術を持たなかった。「まだ先のこと」、そんな風に思っていた。
俺に現れた動揺、焦り、不安を、相手はすでに、十分過ぎるほど感じていた。
「.....どうかした?」
声をかけられ、俺はハッとして、少し冷静さを取り戻す。
「い、いや、なんでもない...」
そうだ。まだ俺はアベルだとバレてない。何を焦る必要がある?今は対処法を考えるんだ。
「なあ、それは誰に頼まれたんだ?」
あんまり詮索しすぎるとバレる危険はあるが、ここで命令した人物を確定しておくのは後々楽になるだろう。
キアラはこちらに近寄り、顔を近づけてきた。
「それを知れば、私は貴方を殺さなければいけない。」
少しゾワッっとした。よくアニメで殺気とか殺意を感じるとかあるけど、本当に感じるのかと少し疑問に思っていた。けど、今ならはっきりわかる。殺気ってこうゆうことだって。
「わ、わかった....」
でも、殺してまで隠したいってことは、モデレータの方が可能性は高そうだな。ついでにこれも聞いておこう。
「じゃあ、アベルって人を連れてってどうすんだ?」
「....」
やべっ、聞きすぎたか?
「どうした?急に黙り混んで。」
「そういえば名前、まだ聞いてない。」
その質問に戻るのか....でも、他の奴の名前言ってもバレることは無いだろうし、適当にカイルとでも名乗っとくか。
「あー、そうだったな。俺はカ...」
「あ、いたー!アベルー!」
なんか聞き覚えのある声が聞こえたんだが....
クレアがこっちに近づいてくる。いくらなんでもタイミング悪すぎだろ....
「おーい、アベルー!」
やめろ、来るな。
「アベル....?」
俺がアベルと呼ばれて、キアラは確認するように俺に問いかける。
「違います。」
俺はすかさず否定する。
「アベル?なんで無視するの?」
お前ちょっと一回黙れよ。
「アベル?おーい。」
キアラがこちらをジッと見ている。
「お、俺はカイルであってアベルでは....」
俺が必死になってついている嘘を、クレアがすぐにバラす。
「さっきから何言ってるのかわからないけど、カイルなら1人で修行してるよ?」
「今そうゆうこと言わなくていい!」
「多分もうアベルより強いよ。」
「マジで!?早くね!?.....じゃない!お前ちょっとはタイミング考えろよ!」
クレアは周りを見渡し、何故か顔を赤らめた。
「あ、ごめんね?邪魔しちゃったよね?」
やっと気付いた...
「アベルも健全な1人の男の子だもんね///」
ん?
「そうゆうこともしたいよね///後はお二人で楽しんで...」
「ちょっと待て?変な誤解が生まれてるんだが?」
「アベル」
キアラが俺のことをそう読んだ。もうバレてるな、これは。
「私と一緒に来て。」
「嫌だといったら?」
「力ずくでも。」
俺は能力が使えない。2対1だから、もしかしたら勝てるかもとかも思うけど、俺の勘だけど、こいつは多分強い。だから、戦うの選択肢は無しだ。だとすれば、残ってる選択肢はあと1つだ。
「クレア、逃げるぞ。」ボソッ
「え!?」
俺はクレアの手首を掴み、その場から逃げ出した。
「どうしていきなり...」
「多分あいつ、モデレータの仲間だ!」
「なんでそんなことわかるの?」
キアラが追ってきていたのが目に入った。
「説明は後で!」
どうする!?相手は転生者で、多分能力も普通に使える。こっちは使えない転生者とちょっと魔法が使えるだけのやつが1人...あれ?
「なあ、クレアってどれだけ魔法使えんの?」
「えっと、上級魔法を少し使えて、中級魔法まではだいたい使えるわよ?」
....こいつ普通に強いんじゃねえの?
「じゃあもしかして、俺ら二人であいつのこと撃退できたりする?」
「私1人ならともかく、今はアベルがいるし、難しいんじゃない?」
「邪魔者扱いかよ!?使えなくて悪かったな!」
後ろを確認する。キアラは確実に近づいている。
「そんなこと言ってる暇は無さそうだな...」
考えろ....!どうすればこの状況を打破できる?このままだと追い付かれるだけだ。かといって強さ未知数のやつを相手にしたら、速攻で倒されてつれてかれる....駄目だ、いくら考えても良い考えが浮かばない。
「なあ、ワープとか使えねえの?」
「使えたらとっくに使ってるわよ!」
「だよなぁ....ん?そういやお前、何で一緒に逃げてんの?あいつが追いかけてんの多分俺だけだぞ?」
「なんか....反射的に逃げなきゃってなって。」
「反射的にって...」
クレアはもともと逃げなくても良いのに。じゃあ、クレアをこれ以上俺のトラブルに巻き込むのは良くないよな。
「クレア、次の分かれ道でそれぞれ別の道に行こう。クレアは右、俺は左に。」
「え?戦力は分散しない方が良いんじゃ...」
ごもっともだ。
「さっき多分って言っただろ?お前も追いかけられてる可能性があるんだ。だから、俺らが分散したら相手も戸惑うだろ?その隙に頑張って逃げきるんだよ。」
我ながらかなり無理のある嘘をついた気がする。
「....わかった。」
納得してくれたのか?まあ、他に良い作戦も思い付かなかったし、クレアを巻き込まなくていいなら良いか。
予定通り分かれ道で別れる。俺は、なるべく追い付かれないように曲がれる場所は曲がるようにした。すると目の前には、
「行き止まり....」
逃げ道はもう無い。
「やるしかないのか....」